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邪神に仕える大司教、善行を繰り返す  作者: 逸れの二時
大都市を目指して
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滾る炎

 本流の川を渡った先からは景色が完全に一変し、足場は苔が覆う地面になり、例のあり得ない大きさの大木がいくつもいくつも先の方に佇んでいる。その幹には同様に苔が覆っており、小さな植物と大きな植物が共生しているような、面白い生態系になっている。


 足元は苔のおかげで湿っている程度。濡れる心配はなさそうだ。そんな場所から右奥を眺めるとそれはそれは大きな山が鎮座しているのが自然と目に入る。


 あれがシビルの言っていたニェベ山かな? あれを右手にして進めばいいんだっけな。そうして目印が見えたことで少し安心した直後に腹がなってしまった。もうすぐお昼頃か。


「休憩にしよう。腹減ったよ」


「はい。丁度そこに座れそうな高さの木がありますから、そこで」


 俺たちは天然のベンチに腰をおろし、【闇の領域(ブラックホール)】から出した昼食を取った。相変わらず美味い料理に舌鼓を打ち、ほんの少し休憩を取ったらまた進みだした。


 もっとゆっくりしたい気持ちもあるが、ここは魔物が出る場所だ。万が一にでも野宿は避けたいから早めに出発する。ノエラが精霊たちの様子を見ている風なときはこっそりアンヘルと会話したり、面白いことがあったときにはノエラと一緒に笑ったり。


 適度な緊張感を維持しつつも楽しく進んでいると、惜しくもそこで邪魔者が現れた。感知に大胆に引っかかった何者かの魔物。避けて通ることができそうもない地形に陣取っており、物陰に隠れて様子を伺うと、どうやら植物系の魔物のようだった。


 周りの木よりはひと回り小さいが、人間よりは遥かに大きく、太い幹も健在だ。枝がまるで手足のように動いており、ニュルニュルと根っこのようなものも足元から伸びている。


 動きは遅いかもしれないが、手数が多そうで手間がかかりそうだ。まだ気づかれてなさそうだし、ここから狙い撃ちにしてしまおう。


 そう思ってランタンの火に集中した次の瞬間、真下の地面が大きく揺れだし、硬い根っこが飛び出してきた。


 俺はすぐさまノエラと一緒に横に飛び退いてその攻撃を回避するが、二撃目、三撃目と次々に攻撃を仕掛けてきてノエラとは少し離れてしまった。そして何より、気付かれてしまったか。


 こっちが【闇の感知(ダークセンス)】で先に存在を知っていたことでむしろ油断してしまったかもしれない。恐らく振動か何かで気付かれたんだろう。


「ノエラは攻撃を避けるのに専念してくれ。俺が前に出て囮になる!」


「私も援護します!」


「わかった。余裕があったら頼むぞ!」


 俺は作戦を共有しつつ前に出る。【呪怨(ブレス)】をかけてパルーサとなったアンヘルの剣を手に掴む。そしてそのまま遠くにいた植物系の魔物の前に出た。ヤツは俺を優先して対処することに決めたようで、先ほどの根っこの攻撃とさらにツタを急速に伸ばした締め上げ攻撃を放ってきた。


 これで多分ノエラへの攻撃は手薄になったはず。俺は思惑通りにいったことに安堵を感じつつ、パルーサで伸びてきたツタを切り裂きながら奇跡を放つ隙を伺っていく。


 邪剣を両手持ちで扱えば簡単に切れはするものの、ツタを切り刻んでも相手には殆どダメージはないようで、しかも切ったツタの根元が徐々に再生していっている。なかなか面倒な相手だな。


 地面からどんどん出てくる根っこの攻撃を避けつつ、目の前に迫ってきたツタを切ろうとした瞬間、目の前のツタが急に軌道を変えて後退していった。


 不思議に思ったが、ここがチャンス。俺は腰から外した邪光ランタンを左手に掲げ、効きそうな奇跡を行使した。


闇の豪炎(ディバインブレイズ)


 俺のランタンから生まれ出た紫の炎が真っ直ぐに魔物の木の幹に喰ってかかる。しかも予想外なことに、一発だけでなく二発目の炎も同時にランタンから飛び出した。


 それらは本物の炎と同じように、紫の炎が魔物の木を侵食してどんどん激しく燃え上がる。


 あまりの炎の激しさに大きかった木の魔物も体を揺らして狂ったように狼狽していたが、信仰の炎を消し去ることはできずに瞬く間にまっ黒焦げになって灰と化した。


 ふう、なんとかなったな。それにしても何だか火力があがっている気がする。シビルのところで一度この奇跡は使っているが、こんなに火は強くなかったし、飛んで行った炎は一発だけだったが。


 もしかして邪神の名前をシビルに知ってもらったからだろうか。でもそれよりも前から【闇の感知(ダークセンス)】の範囲も少しずつ広くなっていた気がする。


 まあどっちにしろ悪くないことだしと俺は深く考えないことにし、ランタンを腰に戻して邪剣もといアンヘルを解放してあげる。俺の手から離れたアンヘルはまた悪魔形態に戻って、俺の横に飛びながら控えた。


 こうして戦闘が終わって、俺はすぐにノエラの元に駆け戻る。


「ノエラ、怪我はないか?」


「はい。サムさんが敵の注意を引きつけてくれたおかげで、ほとんど攻撃が来ませんでした。それにしても……サムさんって本当に強いんですね。あんなに強力な奇跡があるなんて思いもしませんでした」


「あれくらい大したことないよ。そんなことよりさ、途中のあれはもしかしなくてもノエラが援護してくれたんだろ?」


「はい……一応。でも私は魔物の攻撃を一時的に逸らすことしかできませんでした」


「いや、そのおかげで奇跡を使う隙ができたんだ。助かったよ、ありがとう」


「い、いえ」


 俺が素直にお礼を言うと、ノエラは露骨に照れて目線を逸らした。シンプルに精霊魔法がかなり役立ってるし、俺の精神衛生上も女の子と一緒にいられて嬉しい。ノエラはもっと自信を持ってもいいのにな。照れた反応も可愛いからいいけど。


毎度のことながらここまでお読みいただきありがとうございます。反響をいただけてうれしく思っております!


もしよろしければ、ブックマーク、評価もいただけますと作者の励みと元気になると共に、サムの奇跡がさらに強くなることでしょう!


やってあげてもいいよという方は、是非ご協力よろしくお願い致します!


“可能であれば汝も我が信徒となるがよい。後悔はさせぬぞ”

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