豪華な夕食
俺が催促したことでノエラの精霊魔法の練習が中断されてしまったな。でもいい機会だし、さっきシビルが言ってた精霊魔法、見せてもらおうかな。
「なあノエラ、調子は良くなったか?」
「はい。おかげさまで……大分よくなったと思います」
「本当に良かったよ。それでずっと精霊魔法を教えてもらってたんだろ? 良ければ俺に見せてくれないか? 興味があるんだ」
「そんなに大したことは、まだできないですよ?」
「いいのいいの。精霊魔法のことなんて何にも知らない俺ならどんな魔法だって驚ける自信があるからさ」
「……わかりました。じゃあ、教わった魔法を、少しだけ」
そう言うとノエラはテーブルの上に置いてあった何かの枝を取り出して、そこに桃色のリボンを結ぶ。そしてこう囁いた。
『春の音色、小さな花風。私の元に、淡くて眩しい煌めきを運んで』
すると彼女が手に持った枝に桃色の花が咲く。ポンと蕾が生まれて可愛らしい花が開いた様はささやかながら微笑ましかった。
「凄いじゃないか! 俺にはこんな繊細で綺麗なことはできないよ」
「あ、ありがとうございます……」
「ところでこのリボンも魔法には必要なんだよな?」
「はい。精霊に縁のあるものだったり、術者のイメージを広げたりするものがあるといいんだそうです」
「そっか。いつか大きな店に行ってそういうものを集めるのも楽しそうだな。できることも増えていくし一石二鳥だろ?」
「はい。いつか……行ってみたいです」
ノエラは控えめに笑いながらも、桃色のリボンをそっと指先で撫でていた。
そうしてノエラと話をしながら待っているとすぐに良い匂いが漂ってくる。森の魔女だけあってスパイスには詳しいのか、独特な香りもしている。何だかんだシビルの料理は癖があるけど美味いんだよな。
「食事ができたぞ。食器の準備くらいはできるじゃろ」
「よし来た。任せろ!」
俺は棚から食器を取り出して配置する。これで働いたことにしてもらえたらいいんだけどな。
夕食のメニューは俺が持ってきたイノシシもどき、バボイラモの残りの肉をすべて使ったステーキとほろほろに煮崩した角煮だ。
ノエラにはちょっと重たいかなとも思ったのだが、そこはしっかりと考えられてあって、油は大分抑えられているし、味付けも果物の酸味を加えてサッパリとさせてある。
野菜は大きな葉物野菜のサラダとピーマンみたいな野菜の漬物だ。ピーマンの漬物というあまりイメージの湧かない組み合わせだったが、もちろんこれはピーマンではなくサリワという野菜で、その食感もやや水っぽい。
それが漬物の汁をよく吸っているので納得の組み合わせだと思い直した。
ところでこんな料理をどうやってあの短時間で作り上げたのだろうと一瞬疑問に思ったが、精霊魔法だとすぐにわかった。少しずつだが俺の頭もこの世界の常識なり知識に順応しつつあるみたいだな。
そうこうしていたら腹がいっぱいになった。ああ食った食った。
「ごちそうさまでした!」
「良い食べっぷりじゃな。じゃがお前のせいで肉が全部なくなったから明日取って参れ」
「元々俺が取ってきた肉なんだからいいだろ! それと追加の肉は今日の朝取って来た分があるからそれを使ってくれ」
「ほほう。意外と用意がいいな」
「一言余計じゃない?」
「追い出されたいのか?」
「……すみません」
俺は【闇の領域】から角の生えた熊の肉を渡す。シビルは前と同様に器を取り出してそれを受け取り、精霊魔法で凍結させた。
「アルマスオソの肉か。さっぱりした肉じゃから使い勝手が良さそうじゃわ」
「そりゃ良かった」
「あの、私は……」
「お前さんは何もせんでも良いぞ。面倒なことはこやつに全部任せておけば良い」
「そうだぞ。ノエラはのんびり過ごしてくれ」
「いえ……そういうわけには……」
「んー。俺たちは全然構わないんだけど、ノエラ自身肩身が狭く感じちゃうか」
「律義じゃな」
「シビル、何か安全で負担の少ない仕事はないのか?」
「それこそ料理はどうじゃ? 一応精霊魔法がなくてもできるじゃろうし、おいおい精霊魔法も織り交ぜれば訓練にもなる」
「それでシビルの負担も軽くなるって寸法か。家主様は偉いですね?」
「黙らっしゃい! それで、どうじゃノエラ」
「はい! 喜んでやらせていただきます!」
「よしよし」
こうして料理当番はノエラに決定した。俺としては老婆よりも若い女性に料理を作ってもらう方が数倍良いので、この決定は悪くないと思ってしまった。
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