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邪神に仕える大司教、善行を繰り返す  作者: 逸れの二時
新たな世界
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神の御力

 しばらくして煙が霧散すると、そこにはランタンのようなものと、黒く光る剣がセットで置かれていた。俺はまずランタンの方を持ち上げて作りを見てみる。


 六角柱のガラス部分に尖った黒い装飾が巻き付いているようなデザインだ。どことなくトゲトゲした印象で、非常に禍々しい。なんというか……悪趣味だな。


 続いてランタンを置き、剣の方を手に取って観察してみる。刀身は紫がかった黒色で、刃先が奇妙に曲がっている。だがそれ故に剣を突き刺したときの殺傷力は高そうだ。柄の部分も握りやすいように抉られたという表現が適切で、こちらもおどろおどろしい感じだ。


 あれ? なんか神様が与えた物の割に様子がおかしくないか? 至極全うな疑問に俺が首を傾げていると、またどこからともなく声がする。マサマンディオスとは違って爽やかな印象の声だ。


「ここからはマサマンディオス様に代わって私が標となりましょう。大司教サム様」


突然話しかけられて、俺は驚き口ごもる。


「こ、今度は誰!?」


「私はマサマンディオス様の使いの者であるアンヘル=ニ=マサマンディオス、またの名をパルーサと申します。今あなた様がお持ちになっている剣にございます」


「はあ……え? け、剣が喋ってるの? ヒ、ヒエッ」


 不気味過ぎて手に持っていた剣を放して飛び退いてしまった。ガッシャンと黒い剣が地面に落ちる。なんで剣が喋ってるの? 怖えよお……。


「今は訳あって剣の見た目をしているのです。そんなに怖がらないでください」


「は、はあ。というかマサマンディオスもそうだけど、サラッと俺の心を読むのやめてくれない?」


「し、失礼致しました。久々に人間界にやってきたものですからつい……」


「それでパルーサだっけ? なんで俺がこんなことしなきゃいけないの? 他に信者とかはいないのか?」


「もちろん、元々は多くの信者がいらっしゃいました。しかし今や信者の数は激減し、とうとう誰もマサマンディオス様を信仰しなくなってしまわれたのです。ああっ、なんと嘆かわしいっ!」


「そ、そうすか。じゃあ俺は何すればいいわけ? 転移っていうからには元の世界には帰れないんだろ? そんな帰りたくもないけど」


「はい。残念ながら元の世界には帰ることはできません。ですからまずは、この世界で生きていくために力を扱えるようになった方が良いでしょう。外は魔物でいっぱいですから」


「魔物……ね。最悪」


“愚痴を言うでない。魔物と戦うための力は既に汝に授けてある”


「サム様、左腕をご覧ください」


 俺は素直に袖をまくって左腕を見ると、なんとそこには謎の紋章があるではないか。手首から肘の間の真ん中あたりに刻まれたそれは、黒くて妙な圧迫感を放っている。この紋章は何となく、翼の生えた生き物が笛を吹いている様を表しているように見えた。


 絵のようなそうでないような、微妙なラインを保っているが、それは紋章としてはよくできているということなのだろう。それはともかくこんなものまでつけられて俺はつくづく災難だな。


 ――あ、しまった。不敬罪により頭痛が……こない。ほほう。どうやら心を読むのは止めたみたいだな。とにかくパルーサを落っことしたままだと可哀そうだから拾い上げてやるか。


「ありがとうございますサム様。それでどうですか? 紋章の意味はわかりましたか?」


「ああ。これはあれだろ? 天使か何かが笛を吹いてる様子だろ?」


「おお! さすがですサム様! この紋章はマサマンディオス様の祝福を受け、庇護下にあるということを表しており、さらにマサマンディオス様の神力を扱えることを示します」


「神力? 何それ」


「神力とは神の奇跡を扱うための力です」


“アンヘルよ。わざわざ説明してやらなくても紋章に聞かせればよかろう”


「左様ですね。サム様、その紋章にはマサマンディオス様が授けてくださったこの世界についての知識も秘められております。わからないことがありましたらまずは紋章にお聞きください」


「紋章に聞くってどうやって?」


「紋章に意識を向けてただ念じればよいのです」


「あっそう」


 とりあえず神力について聞いてみるか。……ん。なるほど。確かに念じれば知識が頭に入ってくるな。魔物を完全に倒すには四力と呼ばれる力のいずれかが必要で、その一つが神力らしいな。


「お分かりになりましたか?」


「うん。それで神様への信仰心と、その神様自体の力量に応じて使える力の強さが変わってくるんだな」


「はい。さらに神の名前が人々に広く知られれば、その規模はさらに大きくなりましょう」


「ほお。それは面白い仕組みだな」


“面白がるでない。我が名を知らしめることに励むのは良いことではあるがな”


 そうして話していると、何やら洞窟の奥から豪快な音が聞こえた。石がぶつかった音のような気がしたが……。


「サム様、魔物が近づいて来ているようです」


「早速かよ。でも腕試しには丁度いいのか?」


「そうですね。まずはその神力を使う感覚を覚えられると良いでしょう」


 戦い方なんてわからないけど、紋章に聞けばいいだろう。……ふむ。神力で奇跡とやらを使って戦えばいいのか。手に入ったのは知識だけだけど、何だかいけそうな気がしてきた。


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