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邪神に仕える大司教、善行を繰り返す  作者: 逸れの二時
悲しみの暮れ
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無謀な決意

 お茶を運んできてくれたとき、彼女の手は親指から中指にかけて特に消耗しているのが見えたんだ。旦那さんが気力家であることを考えたら、彼女も気力家の生まれで、何かしら武器を持ってるに違いない。


「旦那さんの後を追っても何にもならないぞ。どうしても気持ちの整理がつかないなら俺たちが力になる」


「後を追うなんて駄目です! そんなことをするくらいなら私たちに頼ってください……お願い」


 ノエラも切実に懇願してくれる。ドーラはその様子を見てかなり動揺した後、目線を下げて黙り込んだ。きっとここ最近は気持ちが不安定に揺れて疲れているだろう。彼女のペースで話し始めるまで、ここで一旦待つとしよう。


 俺自身もいつの間にか前のめりになっていたので力を抜くべくソファーにもたれ込んで息を吐いた。音を出すと彼女を威圧している風だからこっそりな。それから次の言葉を考えていると、ふと彼女は話し始めた。


「……私だけで彼を殺した魔物を倒しに行こうと思っていました。それが妻である私の責務だと。ですが……そうですね。私は、彼の後を追うつもりなんでしょうね」


 楽になりたくて死にに行く。それに気付かないように言い訳をしながら、一人で魔物退治に行こうとしていたようだな。危ないところだった。俺たちが来なかったら多分間に合ってなかっただろう。


「幸い俺たちは魔物退治も得意なんだ。ああそれから、一つ伝えなきゃならないことがある」


「……何ですか?」


「俺は邪神の神官だ。元は光の神だったが、訳あって地獄に墜ちてしまった神に仕えてる」


「何ですって!?」


 ドーラはサッと立ち上がって俺たちから即座に距離を取る。それから腰の後ろに手を伸ばしたが、生憎それは空を切り、彼女は顔を歪めただけだった。いつもはそこに武器を持っているのだろうけど、今は所持していなかったんだな。


 しばらく彼女は俺たちのことを睨んでいたが、フッと肩の力を抜いて脱力した。


「はあ。この際何でもいいわ。邪神だろうが悪魔だろうが何でも。……あなたは、あの魔物を倒せるの?」


「その魔物が何かによるが、俺はドラゴンを一撃で倒したことがある。そう簡単にはやられないよ」


「ドラゴンを!? ……そういえばあなたたちは大都市ダロイの貴族だと言ったわね。……なるほど、それなら実力は十分そうね。対価は何?」


「対価なんて必要ないよ。怪しいかもしれないが、本心だ。俺は仕えている神が悪い神じゃないってことをみんなに知ってほしいだけだからな」


「余計に怪しいわね。本当に頼んでもいいのかしら……」


 俺たちではなく自分に問いかけるように、彼女はそう呟いた。だがその答えはすぐに出たようだ。


「わかったわ。どうかあの魔物を倒してきて。生涯かけても許せない……あいつを!」


 それからしばらくして、落ち着いたドーラから詳しい情報を聞いて、俺たちは魔物退治の準備を進めることにした。魔物の名前はパンギルハイ。かなり珍しい魔物で記録がほとんど残っていないそうだが、特殊な力を使うという話だそうだ。


 しかもこの魔物、どこからともなく現れて、この地に住んでいたドラゴンの縄張りを奪ったらしいんだよ。もしかしなくてもダロイにドラゴンが来た原因ってコイツだろう。うん、これは許せないわ。


 出没するのはここから南の方の枯れ木が多い地帯だそうだから、【漆黒の翼(ホワイトウィング)】で空から探しても比較的すぐに見つかるだろう。


 枯れ木地帯までの距離は一日くらいらしいので、俺の最高速度なら三十分弱で着くはずだ。今から行っても余裕で今日中に狩れそうなので、ドーラから全部話を聞いたらすぐに出発した。

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