迫る危機
そこから歩いて二時間程して俺たちはガモットダモの森に着いた。ここまでは草原地帯だったから進みやすかったが、この先は植物が生い茂っている森なので進むのが困難そうだ。
街と街を移動する人が滅多にいないこともあって、街道なんてものはここにはないので少し困った。木を避けながら進むとなると面倒なことこの上無さそうだ。
「ここから先は慎重に進んだ方が良さそうだな。荷車が進み辛そうだから、気をつけて行こう」
「そうだね。死角も多くなるから護衛は引き続き頼んだよ」
「あの、精霊たちに頼めば進みやすくなるかもしれません」
ノエラがそういいながら目の前の木を移動させた。ただのでかい木だと思っていたそれはまるで意思があるかのように横に避けて、荷車が通れるように道を空けてくれた。その先の草木も小動物たちもみんな道を空けてくれて、街道のように道ができてしまった。
「おお! さっすがノエラだな。これは助かった」
「素晴らしいお力ですね。これなら予定よりも早めに着きそうですわ」
「すごいねノエラちゃん! 美人なだけじゃないね!」
みんなに褒められてノエラは俯きつつ照れていた。小さくお礼を言う様は可愛らしさマックスだった。ノエラのおかげで森での道のりはかなり順調で、岩や地面の隆起なんかも精霊たちが進みやすいように調整してくれている。
ツタが引っ込んで小さな花も根っこを軸にして歩くように端に避けるのは見ていて不思議な光景で、俺も依頼人の二人も若干興奮していた。ノエラによればこのくらいのことはほとんど霊力を使わないでできるらしくて、傍から見ても負担になっている感じではなさそうだ。
ノエラはどんどん精霊魔法や精霊たちの扱いに慣れていっていて、俺自身かなり驚いている。まともに精霊魔法を使い始めたのはババアに習ってからということだったが、その前から精霊たちと話をしていたり、元々精霊に好かれていたこともあって急成長しているようだ。
今では熟練の精霊使いに近いことをしているらしいので、才能があるんだろうな。頼もしい限りだ。そんな風にメルヘンな旅路を行って森の奥深くまで来ると突然一気に魔物の気配が近づいてくる。
数は十数体で中々に強力な個体らしく、こちらを囲むように迫ってきているようだ。しかも気になるのは、決して少なくない数の人間の悪意がいくつも森の中にあることだ。こんな場所に来る人間など多くないはずなのに、魔物と一緒にこちらに近付いて来るのはかなり妙だ。
「結構な数の魔物と人間が近づいて来てる。一旦ここで進むのを止めて迎え撃つぞ!」
「サムさん、人間も……ですか?」
「ああ。理由はわからないが人間も来てる。油断しないでくれ」
「わー、結構な数とは運が悪いね。オル」
「ええ、私たちも加勢しますわ。時間を稼ぎますので魔物のトドメはよろしくお願いしますわ」
「助かるよ。でも無理はしないようにな」
危険な状況を伝えたが、意外にも依頼人の二人は取り乱すことなく冷静でいてくれている。行商歴が長いからかこういう状況にも慣れているのかもしれない。俺たちはプライノを止めてその場に留まり警戒する。
四人で全方位を警戒していると、しばらくして大量の猿の魔物が大興奮しながら現れた。こいつらの名前はウングイ。個体によって毛の色や強さなどが様々であるということが特徴だ。以前にも見かけたことはあるが、戦うのは初めてだ。
前回見かけたときの印象はあまり賢くないというものだったが、今回はどちらかと言うと真逆で賢そうだ。興奮しているとは言ったものの、奴らは俺たちを包囲するように位置取ってきているし、前衛と後衛に別れる形で俺たちに敵意を向けてきている。
魔物は基本的に隊列なんてものは気にせずにそれぞれで向かってくるのが普通だから、隊列を意識している時点で他の魔物とは違う。前に見たウングイと比べて体も少し大きいし、何より後衛がいるということは……。
【邪悪なる守り】
向かってきた木製の矢を弾き返す。ウングイの精霊魔法で作られた木の矢は人間がつくるものとほとんど同じで、弓で撃たれていると言ってもいいくらいだ。精霊魔法が使えなさそうなやつらも一斉に石を拾い集めて投石の準備をしているし、前衛はいよいよこちらに接近し始めている。