商路
「私たちはいわゆる商人なんだけど、ここで買った特産品を丘陵都市ブロルまで届けたいんだよ。でも道中には魔物がたくさんいるだろうから、フォースの人たちに守ってもらいたいってわけ」
「報酬金はパタス金貨十五枚で、おそらく三日はかかる距離だと思われます。道順は私たちが知っていますので問題はありません。途中で必要になる物資については各自の負担ということで、私たちの分は必要ありません。この条件でいかがでしょうか?」
凄く丁寧に説明してもらっていかがかと聞かれたが、俺は正直受ける気しかなかった。そんなに報酬金は重要ではないし、貢献度と知名度が上がってくれれば再び来るかもしれない月の暴走に対処できるからだ。
新しい街に行けばそれだけ俺とマサマンディオスのことを知る人が増えるわけなのでありがたいことなのだ。ノエラとも相談するが、俺と同じ考えでいてくれているようで、賛成はしてくれた。どうにも依頼人をあまりよろしくない表情で見ている気がするが、俺の気のせいかもしれない。
「その条件で大丈夫そうだ。出発はいつにする? できるだけすぐの方がいいか?」
「そうだね、明日の朝イチにしよう。いいよね、オル」
「ええ、そうね。明日の朝、門の前で集合でよろしいでしょうか?」
「わかった。それまでに色々と準備しておくよ」
「よろしくね!」
「よろしくお願いします」
そういうことで明日の朝からのそれなりに長い旅が決まった。大きな荷車ごと荷物を【闇の領域】に突っ込むということもできなくはないが、荷車の荷物は彼女たちには貴重な財産だ。説明すればもしかしたら許してくれるかもしれないが、いきなり現れた邪神の神官に財産を全面的に預けるのは抵抗があるはずだ。
それに結局のところ彼女たちには奇跡の条件の関係で【漆黒の翼】は使えそうにないので、収納しても荷を守りやすいのと多少進みやすいくらいで俺にとっては大した違いもない。
だからそれらの方法は提案せずに通常通りに徒歩での移動だ。宿のバロンには前回の反省を生かしてきちんと伝えておいた。今回は前もって言ったので、返金をしようとしてくれたが、帰って来るときまで部屋を取っておいてほしかったので、そのまま返金はしてもらわなかった。
あとは市場で野菜や食事に必要なもの、薪木や精霊魔法を使いやすくする触媒など色々と不足がないようにそろえて一日を終えた。正直ノエラと一緒にこんな風に買い物をしているだけで楽しいが、明日はさらにノエラには敵わないが美女二人と遠出するんだ。
新しい街というのもかなり楽しみだし、護衛依頼ということを忘れそうなくらいワクワクしてる。仕事に支障がないように自制しつつも、楽しみな翌日を控えて俺は眠りについたのだった。
そして約束の日の門の前。大荷物とそれを引く魔物が三匹。サイみたいな見た目だが角がなくシュッとしている。久々に紋章に聞いてみたら、この生き物はプライノというそうで、荷物を運ぶ時に荷車を引いてくれる優秀な動物というか魔物らしい。
魔物とは言っても敵対的に襲って来ることはなくて、優しい生き物なのだそうだ。そういう温厚な生き物は他にもいて、森にいたフクロウっぽいクワゴもそれに当たるみたい。四力以外では滅多に傷つかないから魔物と分類されているが、その実は全然違うな。
俺はそんな情報を得てちょっとこの生き物が可愛らしく見えてきて、ついつい背中を撫でてしまった。そしたらプライノはブロロと鳴いて目を細めた。この反応から見るに、好意的に受け止めてくれた感じで、俺も何だか嬉しくなってしまった。
その様子を見た依頼人の二人は不思議そうに俺のことを見ていたが、勝手に荷車の動物を触ったことについては何も言ってこなかった。非常識だったかもと一応その場で謝ったが、ミーナは全然大丈夫と言ってくれた。オルタヴィアも特に気にしてないと笑っていた。
それから前方が俺、後方がノエラと言う感じで荷車と依頼人を守ることにし、目的地への道のりを歩き出した。オルタヴィアがプライノに合図すると、三匹一斉に前方に進み出し、力強く荷車を引く。車輪の音や荷車の様子から結構な重さがありそうな予感だったが、三匹もいれば俺たちが歩く速さよりも少し速い速度が出せていた。
それをオルタヴィアが調節して俺たちの速度くらいに合わせて、まったりと草原の中を進んだ。護衛依頼だから俺は当然のように【闇の感知】を使って気配を探りながら進む。それからしばらくすればもちろん魔物が出て来るんだけど、それを伝えたら驚いたことに、依頼人の二人も武器を取った。
最初見た時は商品としての武器かと思って気に留めてなかったけど、違ったみたいだ。ミーナは弓、オルタヴィアはこの世界では珍しい小型のボウガンを即座に手にして構えている。二人はフォースではないから魔物を倒せはしないんだけど、ちゃんと足手まといにならないように時間を稼ごうとしてくれているらしい。
まあ魔物とは言ってもこの辺りに出て来るのは弱いヤツなので、二人には心配ないから矢とボルトは温存してと伝えて、俺が離れたところから奇跡で処理した。