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邪神に仕える大司教、善行を繰り返す  作者: 逸れの二時
悲しみとの決別
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出会い

 ということで俺は悪意の感知を頼りに村の暗がりを進んだ。まずは一番近い悪意の方だ。周りが暗めなのはいいけど、邪光ランタンは目立つからもう一度火を消しておく。


 そうやって念入りに建物の影に隠れながらコソコソしていると、村に入る時に会ったあの金髪の女性が苛立たしげに何かブツクサと言っているのを見つけた。恨み言か何かのようだが、もう少し近づかないとよく聞こえないな……。


「ここは私にお任せを」


 アンヘルはそう言って悪魔の翼をはためかせながら女性に向かっていく。うわあ、この絵面……。なんだかとんでもなく悪いことをしている気分になってくる。でも仕方ないな。このままじゃ寝れないんだもの。


 そうして三十秒ほど女性の付近を飛び回ったのち、アンヘルはすぐに帰って来る。


「どうだった?」


「どこ行ったんだ ですとか、あの小娘が と文句を言ってらっしゃいました。どなたかを探しているようですね」


「小娘とか言ってるなら揉め事だよね。いなくなって心配してる感じじゃなさそうだし」


「同感です。ですがどうなさいますか? あの女性に詳しく話を聞きますか?」


「俺の勘なんだけど、それは良い手じゃない気がするな。悪意が強めだし」


「なるほど。では小娘と呼ばれているどなたかを探す方針でしょうか」


「そうなるね。でもどうやって探すかなー。良い手があるかな」


 紋章に使えそうな奇跡を聞くと、最適そうなのが一つ思い浮かんだ。光の奇跡だけど、今は邪悪仕様になっているタイプのあれだ。


 その奇跡は困っている人の元に行使者を導く効果があるそうで、名前は【堕落の導き手フィギアヘッド・オブ・レリーフ】。相変わらず名前と読み方のギャップが酷いな。


 でも効果はきちんと発動するはずなので、マサマンディオスを信じて使ってみようと考えていたとき、月明かりに照らされた村の障壁ギリギリ内側に、一人の若い女性らしき影が見えた。


 あの金髪の女性が去って行ったのとは別の方向だから別人だろう。そして彼女は何故か真っ直ぐにこっちに向かって来ているのだが、遠目でも時折姿がぼんやりしている。ま、まさか幽霊か!?


“サムよ、邪光ランタンに火を点けて掲げてみよ。他の人間に見つからない程度に慎重にやるのだ”


「え、いいけど彼女はどうするの?」


「サム様、とにかくやってみてください。意味がおわかりになります」


「そう?」


 俺は言われた通り邪光ランタンに火を点けて腰から外し、そっと目の前に掲げた。その間も見つけた女性はこっちに向かってきているがお構いなしだ。


 丁度掲げたタイミングで、その女性は数メートル先まで近づいてきた。すると彼女の姿は邪光ランタンの火に照らされて、ぼんやりとしていた体の輪郭がハッキリとした。


 ボサボサのセミロングの髪。みすぼらしい麻のような質感の服。暗くて非常に見にくいが、そこまでは見えた。そして何より、彼女は何かに引っ張られるようにしてこちらに来たらしい。


 俺のランタンの火の光に照らされた途端にその力は消え去ったみたいで、彼女は前につんのめっている。


「おい、大丈夫か?」


「あっ……」


 彼女は酷く怯えたような顔をして、俺のことを見つめた。それからすぐに慌てた様子で踵を返し、一言も発さないまま背中を見せて逃げ出してしまった。


 おいおい、一体何だっていうんだ?


「待って」


 俺は彼女を追いかけるが、それもすぐに終わり彼女は目前でパタリと倒れてしまった。


 ビックリして彼女を抱き起したら、彼女も驚いて逃げ出そうともがく。


 でもその細すぎる体から想像できる通り、抵抗にもほとんど力が入っていなくて、かなり弱っているのだろうということが推察された。


「は、離して……!」


「わかったから逃げないでくれ。俺は君に危害を加えたりしないから」


「……」


 彼女をそっと解放してやると、彼女は尻もちをついた状態のまま後ずさった。しかし逃げはしなかった。


「君、もしかして魔力家の人たちに追われてる人?」


「……」


 彼女は何も言っていないが、ランタンの紫の炎に照らされた表情から、そうであることがしっかりと読み取れた。魔力家と言ったときに表情が一段と強張ったのだ。


「逃げ出してきたの?」


「……」


 彼女は首を下に向けて目を逸らした。これは何か辛いことがあったに違いないな。


「とりあえず宿を取ってあるからそこに来る? 別の部屋が良いならもう一部屋取るけど。幸い部屋はたくさん空いてるみたいだからさ」


「ここは駄目! ……この村は……」


 彼女はそれだけ言って口を閉ざしてしまった。宿に行くのは駄目そうだ。この村にいたくないってことかな。探されてるから。


「そうだなあ。この村にいたくないとなると森で野宿するくらいしかなくなっちゃうな。魔物が出るし危なくないか?」


「……」


 彼女は目を瞑って何かを必死にこらえているようだ。要望をできる限り叶えてやりたいが、それにしたってどうすりゃいいんだこれ。村にいるのも駄目、森に入るのも駄目ときたらもうどうにも――。


「いたぞ! あそこだ!」


 鋭い男の声がこっちに向けられる。強い光を自身の真上に浮かべた男性がこちらを指さして叫んでいるようだ。あーあ、見つかっちまったか。運悪いな。かくなる上は……!


「逃げよう!」


 俺は彼女の手を取って森の方向に走り出した。一瞬だけ彼女の戸惑った顔が見えたけど気にしてる余裕はない。とにかく走って魔術障壁の前まで来る。これは村を守る魔物避けの障壁だけど、見た感じ村を出るときもきっと壁として作用するだろう。


 できればこれを解きたくはなかったけど――この状況なら仕方ないよな!


黒き排除ブラックエリミネイション


 邪光ランタンから奇跡を放つと、目の前の魔術障壁が一瞬で消え去った。俺は魔術障壁が消えた手ごたえをしっかり感じて、そのまま森の中へと疾走した。素性も知らない女性の震える手を取って――。


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