アールスローン戦記
【 大和国 大山邸 】
月明かりの差し込む部屋の中 レクイエムが流れる アリシアがハープを奏でている 近くに飾り鎧が置かれている アリシアが静かに曲を終わらせ 横目で飾り鎧をちらりと見てから顔を向けると、出入り口から拍手が聞える アリシアが驚いて顔を向ける 大山が言う
「美しい音色だ アリシア」
アリシアが声の主に気付き ホッとしてから微笑して言う
「お帰りなさい」
大山が微笑して頷いて言う
「ああ ただいま」
アリシアが微笑する 大山がアリシアの近くへ来て一度ハープを見てから言う
「生憎 私は楽器の事には詳しくないのだが 大和のハープもあちらの物と 同じだったのかな?」
アリシアが微笑して言う
「はい、大丈夫です 初弦の音が 2つほどズレているんですが ハープは元々大きさが異なれば音域も変わる楽器なので それほど気にはなりません 弾いている内に 引きやすい場所へ 体の位置を変えてしまえば良いのだし」
大山が微笑して言う
「そうか 問題が無いのなら良かった」
アリシアが微笑んで言う
「有難う御座います」
大山が言う
「ハープの他にも 欲しい物や必要な物は無いかな?」
アリシアが苦笑して言う
「もう十分 昼間もメイドさんと お洋服を 買いに行かせてもらいました」
大山が嬉しそうに言う
「そうか 大和の服はどうだろうか?アリシアが着るなら きっとどんな服でも 可愛いだろうが」
アリシアが軽く笑って言う
「ふふふっ もう、大山さん ホントに甘いんだから」
大山が一瞬呆気に取られてから苦笑して言う
「ああ、どうか沢山 甘やかさせてくれ 私にとっては それが何よりも嬉しいんだ」
アリシアが楽しそうに言う
「私、大和の国では 今でも女性は着物を着ているのだと思っていました 今日、町へ出てびっくり!」
大山が一瞬驚いてから軽く笑って言う
「あっはっはっ 私だって ちょんまげでは ないだろう?」
アリシアが気付き笑う 続いて大山も笑う
大山が部屋の明かりを点けて言う
「しかし、私は驚いたよ アリシア」
アリシアが大山を見て言う
「え?」
大山がソファに腰を下ろして言う
「君に欲しい物は何かと問えば 当然ハープは来るだろうと思っていたのだが まさか次の注文が 洋服よりも前に 飾り鎧とはね?もしや、あちらの国では 花嫁の嫁入り道具にでも 鎧が必要なのかな?」
アリシアが一瞬呆気に取られてから軽く笑って言う
「ふふっ 大山さんたら面白い そんな事を言うのだったら 私、あちらの国へ行ったら 大和の人は 軍帽の下にちょんまげがるの!って言っちゃうんだからっ」
大山が笑って言う
「はははっ それは困るな 今の内に謝罪して置かねば」
アリシアが微笑んでから言う
「…父が とても好きだったんです」
アリシアが飾り鎧を見る 大山が一瞬呆気に取られてから表情を落として言う
「そうだったのか… それは 失礼な事を…」
アリシアが顔を左右に振ってから 大山の言葉を遮って言う
「それに ハープは母が!だから ハープを弾く時には 父の好きだった物を傍に置いてあげたいなって!」
アリシアがわざと嬉しそうに微笑む 大山が悲しく微笑んで言う
「…そうか うん きっと お母上やお父上も 喜んでいる筈だ アリシアが安全なこの国で お母上の作られた曲を弾いていられるのだ お父上は 安堵もしているだろう」
アリシアが微笑んで言う
「はいっ」
大山が微笑み頷く アリシアがレクイエムを奏でる 大山が微笑して飾り鎧とハープを見てアリシアを見てから言う
「演奏中に 話をしても?」
アリシアが音楽を奏でながら 大山へ向いて微笑んで言う
「慣れた曲なら お話しながらでも弾けますので」
大山が頷いてから言う
「ペジテのレクイエム… お母上が作られた その曲だが 確か アールスローン戦記に出てくる ペジテのお姫様が弾いているであろう曲として 作られたと言っていたね?」
アリシアが言う
「はいっ」
大山が軽く手を組んで言う
「その物語と言のは 一体どんな話なのかと思ったのだが アリシアは その内容の方は 覚えているのだろうか?良ければ 是非教えてもらいたいのだが」
アリシアが一瞬呆気に取られてから考え 微笑んで言う
「…ふふっ 大山さん その物語は 少し面白いんですよ」
大山が意外そうに言う
「面白い…?ほう?それはまた意外な?私はてっきり レクイエムと言う曲が作られるほどだから 悲しいお話かと 思っていたのだが?」
アリシアが言う
「あ、それは… 物語自体は悲しいお話なんですが そのお話に付けられている… えっと… エピソードっていうのかしら?そちらの方が とっても不思議で」
大山が不思議そうに言う
「ほう?それはまた… ますます気になるな?」
アリシアが一度微笑んでから言う
「では まずは 物語の方から!」
大山が微笑んで頷き言う
「ああ」
アリシアが一度曲を止め プロローグを奏で始める アリシアが曲に合わせて言う
「昔々… アールスローンの戦乱の最中 ペジテと言う国に 1人の美しい お姫様が居ました」
大山が微笑み相づちを打って話に聞き入る アリシアがハープを奏でながら語る
「 ペジテの姫は竪琴を奏で アールスローンの神様に祈りました ”どうかペジテを敵から 守る 強い兵士を与えて下さい” 姫の願いに 神様は姫へ とても強い守りの兵士を与えました しかし とても強い守りの兵士は 神に作られた兵士なので 決して相手を傷付ける事をしません ペジテの姫は困り 再び竪琴を奏でながら 神様へ祈りました ”どうかペジテの敵を 殺める 強い兵士を与えて下さい”」
大山が思わず反応してアリシアを見る アリシアは続けて言う
「 神様はペジテの姫の 醜い言葉に嘆き 姫の前から消えてしまいました――」
大山が頷いて言う
「ふむ…」
アリシアが大山の様子に微笑すると 曲調を少し変えた別の曲を弾きながら語りを続ける
「 ペジテの姫の願いが届き ペジテの敵を殺める とても強い攻撃の兵士が与えられました とても強い攻撃の兵士は ペジテの敵を次々に殺めます しかし、とても強い攻撃の兵士は ペジテの敵を全て殺めても 戦いを止めません とても強い攻撃の兵士は アールスローンの悪魔に作られた兵士だったのです やがて、とても強い攻撃の兵士は とても強い守りの兵士と戦い2人は姫の前で力尽き死んでしまいました ペジテの姫は 自分の願いによって作られた 2人の兵士の死を嘆きレクイエムを奏でました」
大山が寂しそうに微笑して軽く頷く アリシアがレクイエムを奏で 語りを続ける
「 ペジテの姫の悲しい音色に 神様は2人の兵士を生き返らせてあげました しかし、攻撃の兵士と守りの兵士は 再び争いを始めてしまいます 困った姫は 神様に言いました 『攻撃の兵士は守りの兵士を 守りの兵士は攻撃の兵士を守る様に して下さいと』 姫の願いによって 2人の兵士は互いを守り 互いで争う事をしなくなりました ペジテの姫は 最強の兵士を手に入れたのです――」
大山が微笑して感心して言う
「ほう… それは良い」
アリシアがレクイエムを止め軽く笑う 大山が微笑して言う
「では ペジテのレクイエムは 2人の兵士を蘇らせる 復活の曲と言う事だったのか …ふむ 少々意外ではあったな?」
アリシアが顔を左右に振って言う
「物語は これだけでは終わらないんです 私が普段弾いているのは ハープの旋律だけだから ずっと同じ曲調になってしまうけれど 2人の兵士が復活する場面では 他の楽器も入るので もっと 賑やかになるんです でも、終幕は やっぱりハープだけの 寂しいソロ演奏になります その理由は…」
大山が不思議そうに言う
「ふむ…?もしや また2人の兵士が 争いを行ってしまうのかな?神様に生き返らせてもらったとは言え 攻撃の兵士は悪魔の兵士だ」
アリシアが軽く笑ってからもう一度顔を左右に振ってから言う
「神様は 悪魔に作られた攻撃の兵士に 命令を聞かせるため 神様の刻印を与えているんです だから攻撃の兵士は守りの兵士やお姫様を 裏切ったりはしないんです 安心して?」
大山が一瞬呆気に取られた後軽く笑ってから言う
「うん…?あっはっは 分かった お陰で安心したよ」
アリシアが一瞬呆気に取られた後軽く笑う 大山が言う
「是非 続きを聞かせてもらいたいな」
アリシアが微笑して頷き ハープを奏でながら語る
「 ペジテの姫が 最強の兵士を手に入れると ペジテの敵であった敵国の王子が アールスローンの神に願いました 『どうか私に ペジテの姫に従う 守りの兵士を止める兵士と 攻撃の兵士を殺める兵士を 与えて下さい』 神様は王子の願いを叶えて 守りの兵士を止める兵士を 悪魔は 王子の願いを叶えて 攻撃の兵士を殺める兵士を与えました――」
大山が真剣に聞き入る アリシアが語りを続ける
「 王子の兵士によって ペジテの姫の2人の兵士は殺されてしまいました しかし 2人の兵士は神様に与えられた命なので 何度でも蘇ります しかし、王子の兵士は姫の兵士を殺める兵士なので 姫の兵士が何度蘇ろうと 何度でも殺してしまいます 姫は嘆き願いました 『どうか2人の兵士を 永遠に眠らせて下さい』――」
大山が悲しそうに聞き入る アリシアがレクイエムを奏でながら語る
「 ペジテの姫の2人の兵士は 永遠の眠りに付きました 神様は言いました 姫に与えた2人の兵士のために 毎夜レクイエムを奏でるのなら 2人の兵士は永遠に眠り続けるだろうと――」
アリシアがレクイエムを奏で終える 大山が軽く拍手をしてから言う
「なるほど ペジテのレクイエムは やはり 悲しい物語だったのだな 姫のために用意された2人兵士を 永遠に眠らせるための曲と言う事か」
アリシアが微笑して言う
「はい」
大山が頷く アリシアが軽く笑う 大山が思い出して言う
「…うん?おや しかし、その話はそれでお終いなのだろうか?ペジテの姫君は その後どうなったのかな?王子の国に支配されてしまったのだろうか?」
アリシアが言う
「王子様は ペジテのお姫様に恋をして お姫様を自分の国へ連れて行くんです でも、お姫様は 毎夜 レクイエムを奏でては2人の兵士を思い涙を流してばかりいるので 王子様はそれを嫌って 自分の国の神様に願うんです お姫様がレクイエムを奏でない様にと 2人の兵士の事を 忘れさせて欲しいと」
大山が言う
「ふむ 確かに 王子の言う事も分からなくは無いな?」
アリシアが言う
「王子様の願いは叶って お姫様は兵士たちの事を忘れ レクイエムを奏でなくなるんです」
大山が言う
「ほう それで?」
アリシアが大山を見て言う
「王子様の願いが叶うと お姫様もまた 自分の国アールスローンの神様にお願いするんです 『私が忘れてしまった 何かとても大切な事が 無事でありますように』と でも、お姫様は アールスローンの地を離れてしまっているので お願いは届かないんです」
大山が言う
「ほう… それは困った」
アリシアが苦笑してから言う
「お姫様は兵士たちの記憶を奪れると 今度はペジテの事を思い 毎夜竪琴を奏でるんです 王子はそれも止めさせようと神様にお願いするんです やがて 王子様のお願いのせいで お姫様は何もかもを忘れ 何も思い出せない事に悲しむんです すると」
大山が聞き入る アリシアが言う
「王子様の国の神様が そんなお姫様を不憫に思い お姫様の記憶から王子の事を 王子様の記憶から お姫様の事を忘れさせ 2人は再び2つに分かれると その後は争う事さえも忘れてしまう… 王子様の国の神様は 忘却の神様だったって言うのが 物語の終わりなんです」
大山が悩み疑問しながら言う
「ほう… 忘却の神様か それはまた 不思議な… 王子は一体何処の国の王子だったのだろうか?それさえも 忘れてしまったのかな?」
アリシアが苦笑して首をかしげた後 窓の外の月を見上げて言う
「王子様については 分からないんです アールスローンにやってきたと言う事は きっと別の国の人だろうとは思うんですが ペジテに関しては 今はもう その国名はなくなっていますけど アールスローンの南西部にあったとか それから、ペジテのお姫様は アールスローンの女帝陛下を示していると言われていて ずっと昔に 一度アールスローンの大地を離れ 再び戻ったと言う記録もあるんだとか …でも 私おかしいと思うんです」
大山が疑問して言う
「うん?何がかな?」
アリシアが苦笑して言う
「忘却の神様に全てを忘れさせてもらったのに ペジテのお姫様は 自分がお姫様である事は 忘れてしまわないのかなって?だって、自分のために戦い続ける兵士さんたちを忘れるくらいだから 自分の事なんて とっくに忘れてしまうんじゃないかな?って …私なら そう思うんですけど?」
大山が呆気に取られてから笑って言う
「はっはっは 確かに… だが、お姫様が自分の事を忘れてしまっては大変だな?きっと 周りの人々が助けてくれたのだろう?自分たちの女帝陛下… あぁ いや、お姫様なのだから …大切なのは 例えどれほど強い力を手に入れようとも 争いは結局何も生みはしない 無意味な争いはしない様に と言う戒めなのだろう」
アリシアが呆気に取られて言う
「あ… そっか… あはっ なんだ ずっと悩んでいたのに…?」
大山とアリシアが笑う
【 アールスローン国 法廷 】
役員1が言う
「国防軍最高責任者であった 総司令官を殺めた罪は重い 他にも 国防軍総司令本部の者たち6名を射殺した… 言うまでも無く 軍法会議の決定は 被告の死刑であって相応しいだろう」
ハイケルが黙っている 役員2が言う
「…だが、その総司令官を初めとする 6名の役人たちは 皆 あの黒の楽団から個人的なワイロを受け取り かつ、国防軍の私有化を図っていたとの事 …これも事実だ よって被告の行いは正当化される事も否めない」
周囲にどよめきが起こる 裁判官が木槌を叩いて言う
「静粛に」
場が沈静化する 裁判官が言う
「被告は 総司令官を初めとする それら6名の者たちが 黒の楽団と関わっていた事 また 国防軍の私有化を図っていた事実を知り 国防軍の威信を取り戻すべく 事件を起こした …これで 間違いは無いか?」
皆の視線がハイケルへ集まる ハイケルが間を置いて言う
「…違うな」
周囲にどよめきが起こる 裁判官が目を細めて言う
「違う と?では…」
ハイケルが顔を上げ 裁判官へ言う
「俺は レーベット大佐を殺された その仇討ちをしただけだ …国防軍がどうなろうと 知った事じゃない」
周囲のどよめきが高まる 裁判官が木槌を叩いて言う
「静粛に 静粛に!」
周囲が何とか沈静化する 裁判官がハイケルを見る ハイケルが目を細める 裁判官が少し間を置いて言う
「…ハイケル元少佐 ここでの発言は 貴方の罪状に大きく反映する 発言は慎重に行いなさい」
ハイケルが言う
「慎重も何も無いっ 俺は何度も同じ事を言っている!俺がやりたかったのは 国防軍の威信を取り戻すなんて事じゃない!俺にとって 国防軍など…っ!」
ハープの音がポロンと響く 裁判所に居る全ての人が驚き視線を上げる 皆の視線の先 赤い御簾の先から女帝の声が届く
『 形あるものは 何時かは朽ち行く… わらわの盾は 朽ちて逝ったか… 』
ハイケルが目を細めて思う
(国防軍総司令官は 国家家臣アールスローン国女帝の親兵… 形だけの御簾が下ろされていると思っていたが まさか 本人が来ていたのか…っ!?)
女帝の言葉が続く
『 共に倒れ 兵は散り逝った… これ以上 わらわの兵士が散り行かぬ様 わらわは願い ここにお頼みする… 我らアールスローンの神へ わらわの願いを聞き入れ ペジテを守る 強き兵士を 』
ハイケルが呆気に取られ疑問して思う
(ペジテを守る強き兵士 守りの兵士 …つまり 新たな 国防軍総司令官の任命か)
ハイケル以外の者が御簾へ向かって跪く ハイケルが視線を強める しばしの沈黙の後 ハープの音がポロンと鳴って場の静寂が消える ハイケルが疑問する 裁判官が立ち上がり 木槌を叩いて言う
「陛下の御言葉を頂いた!これにて 閉廷!」
木槌が打ち鳴らされる ハイケルが疑問する
ハイケルが法廷から出て来て立ち止まり 振り返って見上げ言う
「閉廷とは言ったが まさか 釈放されるとは…」
ハイケルが歩きながら思う
(女帝陛下の発言は 即時決行 …となれば 兵の減数を抑えるため 俺のレギスト復帰も有り得るのか?)
ハイケルが苦笑して言う
「…まさか な」
ハイケルの歩く先 車が一台有り 軍曹が降りて叫ぶ
「少佐ぁーーっ!」
ハイケルが声に気付き僅かに驚く
【 車内 】
ハイケルが助手席に居て顔を向けて言う
「…部隊はどうした?今日は平時訓練だろう?」
軍曹が運転しながら笑顔で言う
「はっ!あいつらにはいつも通り 通常訓練の1から行うようにと 言いつけて参りましたっ!」
ハイケルが言う
「…指示だけを与え 部隊を放って来たのか?あいつらの上官は 今も君しか居ないのだろう?」
軍曹が言う
「はっ!部隊の事は バックス中佐へ一時お願いを致しました!自分は今 半休休暇を頂いておりますっ!」
ハイケルが窓の外を見て言う
「そうか… わざわざ休みを取ってか …そうだな 私はもう 国防軍の者ではない 就業中に会いに行ける相手ではないからな」
軍曹がハイケルを見て言う
「少佐…」
ハイケルが軍曹を見る 軍曹が慌てて前を向く ハイケルが苦笑して言う
「ふっ… そう言えば 今日初めて 陛下のお声を伺ったぞ」
軍曹が僅かに驚いて言う
「陛下のっ?」
ハイケルが言う
「ああ、国防軍トップであった 総司令官に関する裁判ともなれば 女帝陛下の親兵と言う名目上 御簾位は降ろされると思っていたが まさか 本人が座していたとはな …流石に驚いた」
軍曹が言う
「そうですね… 国防軍の総司令官が陛下の親兵であるというのは ある意味 童話の中の話だけだと… 自分はその程度にしか 思っていませんでした」
ハイケルが言う
「ああ、私もだ… しかも 通常何ヶ月と掛かるだろう 今回の裁判でさえ 陛下のお言葉が降りたと言う事で 即刻 閉廷だ …次の出廷日時を言い渡される所か 完全酌量されてしまった」
軍曹が驚いて言う
「えぇええっ!?」
ハイケルが苦笑して言う
「このまま 国防軍への復帰まであれば 大佐のお導きかとも思うが… 流石にそこまでは無いだろう」
軍曹が表情を落として言う
「少佐…」
ハイケルが苦笑して言う
「もう”少佐”では無いと 何度言ったら覚えるんだ?軍曹」
軍曹が言う
「自分はっ!少佐は 必ずレギストにお戻りになると!そう信じているでありますっ!…ですのでっ!」
ハイケルが軍曹を見て言う
「”ですので”?」
軍曹が表情を落とす ハイケルが外を見て気付いて言う
「とめてくれ」
軍曹がハッとして車を止める ハイケルが車を出て言う
「あいつに用があるんだ」
軍曹が外を見て気付く ハイケルが苦笑して言う
「半休を取ってまで 迎えに来てくれた事 感謝する …だが、何度も言うが 私はもう」
軍曹が笑顔で言う
「法廷は閉廷したとは言え 国防本部への呼び出しは まだある筈であります!自分は半休だけでなく休暇も沢山余っておりますので いつでも足代わりにお呼び下さい!」
ハイケルが困って言う
「軍曹…」
軍曹が笑顔で言う
「それでは!マスターに宜しくお伝え下さい!お疲れ様でありましたっ!少佐ぁ!」
軍曹が敬礼する ハイケルがしょうがないと言った表情で軽く敬礼を返すと 軍曹が笑顔を見せた後 車を発車させる ハイケルが軽く溜息を吐いて苦笑して言う
「…分からん奴だ」
ハイケルが言った後 店へ入る
【 軍曹の家 】
夜 軍曹の車が家の前に着く 軍曹が車を降り歩いた先で気付いて立ち止まる 高級車から使用人が出て来て後部座席のドアを開けると アースが出て来る 軍曹が苦笑して言う
「何だ 兄貴か …てっきり祖父上かと」
アースが言う
「アーヴィン 話がある」
軍曹が疑問する
【 マスターの店 】
ヴァイオリンの音色が響く マスターがコーヒーを淹れている カウンター内で充電中の携帯電話が着信する マスターが気付き携帯画面を見て苦笑してから 屈めていた上体を戻して視線を向ける 視線の先でハイケルがヴァイオリンを弾いている
ハイケルがカウンター席に座って言う
「牛ヒレステーキのセット」
マスターが衝撃を受け怒って言う
「ねぇって言ってるだろっ!?何処の喫茶店に んなメニュー載せてる店があるんだっ!?」
ハイケルが不満そうに言う
「なら何でも良いが 肉だ 俺は肉食なんだ」
マスターが笑って言う
「よく言うぜ 肉なんて買えねー癖に」
ハイケルが不満そうに言う
「だから ここでバイトしてるんだろっ!?飯は出してくれるんじゃなかったのか!?」
マスターがツンとして言う
「肉以外の料理ならな?」
ハイケルが不満そうに見る マスターが言う
「言っとくけどなぁ?エビの体だって 肉だろう?」
ハイケルが言う
「肉であっても魚だろう!?大体 お前の作るエビフライは 何であんなに不味いんだっ!?」
マスターが衝撃を受けて言う
「うっ!し、失礼な奴だなぁっ!?俺が作るエビフライが不味いんじゃなくて お前が作る料理が上手いだけなのっ!」
ハイケルが言う
「なんだ その苦し紛れの言い訳は?そもそも店で出すのなら もう少し練習するなり学ぶなりしろ」
マスターが不満そうに言う
「喫茶店で食べるモンなんて サンドイッチ位だ 料理はあれば良い程度なんだよ… ほらっ 文句言わずに食え!」
マスターがエビフライ定食をハイケルの前に出す ハイケルが不満そうに見た後 エビフライを食べて言う
「不味い!」
マスターが衝撃を受けて言う
「言ってくれなくて良い!分かってるって言ってるだろ!?」
ハイケルが溜息を吐きつつエビフライ定食を食べながら言う
「…このエビフライ 本当に溶き卵に通してるのか?それから小麦粉も…」
マスターが衝撃を受けてから言う
「っ!?…卵になんか通すのか?それから小麦粉…??」
ハイケルが衝撃を受ける
溶き卵に剥きエビが通され 手際よく小麦粉が付けられる ハイケルが言う
「…それから もう一度溶き卵に入れて それから パン粉を付けるんだ …こんな初歩的な事も知らずに 店の料理にしていたとは 呆れる」
マスターがメモを取りながら苦笑する ハイケルが言う
「初めて食べた時も 不味いとは思ったが あの時は あいつまで居たんだぞ?…御曹司殿が」
ハイケルが不満そうな顔をする マスターがエビフライを見つつ言う
「ああ、そう言えば さっきその御曹司殿から 着信があったぞ?」
ハイケルが衝撃を受け怒って言う
「何故 言わなかったっ!?」
マスターがエビフライを上げつつ言う
「就業時間はとっくに過ぎてたし 就業時間外に話す事って言えば ゆっくり相談事か何かだろう?おまけに 御曹司殿のお話し相手の 元少佐殿は バイト中だったわけで…プククッ!」
マスターが笑う ハイケルが僅かに頬を染めつつムッとして言う
「クッ… 俺だって好きでしている訳じゃない まさか 釈放されるだなんて 思ってもみなかったんだ」
マスターが言う
「今頃 檻の中で不味い飯を食ってるか 死刑台に送られているか… そうなると思ってたんだろう?」
ハイケルが他方を向いて言う
「当たり前だ 国防軍は国家組織だ その最高責任者である 総司令官と近辺の者を射殺した奴が 釈放など される訳が無い」
マスターが言う
「だが、その連中は 黒の楽団と繋がっていて 国防軍を手に入れて 国を乗っ取る勢いだったんだ 釈放は無しにしても 終身刑位かと 俺は思ったけどね」
ハイケルが目を閉じて言う
「ふんっ… どちらにしても 自由を得るだなんて 考えなかったんだ」
マスターが言う
「だから 今まで 少佐として手に入れた賞与も給料も 何もかも 孤児院に寄付しちまってたんだろ?…院長先生 心配してたぞ いくら少佐とは言え 孤児院出身の奴が 毎月あんな高額寄付して やっていけてるのかって」
ハイケルが携帯を充電器から外して言う
「…何とかなっていたさ」
マスターが呆れて言う
「携帯の充電も出来ずに 店の電気使う奴が よく言うぜ… お前もしかして今 仕事所か 住む場所さえ無いんじゃないの?」
ハイケルが携帯を操作しながら言う
「心配するな 住む場所は変わっていない ただ そこに 電気が無いだけだ」
マスターが衝撃を受ける ハイケルが携帯に言う
「軍曹 私だ 遅くなってすまない 急ぎの用ではなかったか?」
マスターが呆れて言う
「電気が… 無い…?まさか…っ!?」
マスターがハイケルを見る ハイケルが携帯に疑問して言う
「うん?なんだ?よく聞えないぞ?軍曹?」
携帯から軍曹の声が聞える
『少佐… 真にっ!申し訳ありませんでしたぁっ!しかしっ!自分は本気で… 本気で!少佐と共にっ!レギストでっ!でも… でもっ… っ…ぅう』
ハイケルが疑問して言う
「でも?なんだ?軍曹?」
【 軍曹の家 】
軍曹が暗い部屋の中で座り込み携帯を握り締めながら悔しがって泣いている 軍曹が涙を拭い携帯に言う
「…ズズッ …しかしっ!これで少佐は 再び少佐でありますっ!やはり 少佐はレギストの隊長であって 自分はっ!自分は…っ …りませんがっ!…ぅぐう…」
【 マスターの店 】
マスターがエビフライを油から上げている ハイケルが疑問しながら携帯へ言う
「軍曹?おいっ 何を言っているのか分からん 今何処に居る?家か?」
ハイケルが店の時計を見る 時計は23時近くを回っている ハイケルが軽く息を吐いてから言う
「…とにかく、今日はもう遅い 明日…」
マスターがハイケルの後ろでエビフライを食べて言う
「うまーいっ!」
ハイケルがムッとする 携帯から軍曹の声が届く
『はいっ!少佐からお電話を頂きましてっ!真に有難う御座いましたぁっ!少佐ぁ!どうか… どうかあいつらを 宜しくお願いしますっ!自分は… 自分は!草葉の陰から 少佐の率いる我らレギストの活躍を!常に応援しているでありますっ!どうかっ!お元気で…っ!』
ハイケルが疑問して言う
「草葉の…?何を言って…?軍曹!?」
携帯が切れる ハイケルが切れた携帯を見て首を傾げる ハイケルの後ろでマスターが叫ぶ
「うまーいっ!いやぁ… ハイケルちゃん うちで料理係りとして 働かないかぁ?」
ハイケルが振り返り怒って言う
「誰がハイケルちゃんだっ!気持ち悪い呼び方をする… なっ!?あーーっ!?」
ハイケルが空になった エビフライを見て言う
「全部っ!?俺の分はっ!?」
マスターが疑問して言う
「さっき俺の作った奴食べただろう?」
ハイケルが怒って言う
「あんな不味いもので満足出来るかっ!折角作ったものをっ!」
マスターが笑顔で言う
「今教わった奴を 明日俺が作ってやるから~ いや、ホント旨かったわ~」
ハイケルが怒る
【 道中 】
ハイケルが夜道を歩いている ハイケルが怒って言う
「折角教えてやったというのに 1つ残らず食ってしまうとはっ まったく… あいつは昔からっ …まぁ」
ハイケルが手にしている紙袋を見てから微笑して言う
「明日の朝食が手に入ったのは 予想外の戦利品だったな …これで良しとしよう」
ハイケルが歩きながらふと思い出して思う
(…そう言えば)
ハイケルが携帯を取り出し操作をしながら思う
(もう一度掛けたが 繋がらなかった… あの時は 電話を終えて風呂にでも入っているのかと 放って置いたが 掛かって来ないな?…上官からの着信に 折り返さないとは …いや、私はもう あいつの上官ではなかった 分かっていないのは 俺も同じか…)
ハイケルが苦笑して操作途中の携帯を止めて 携帯をしまい 歩き始める 間を置いて携帯が着信する ハイケルが一瞬驚いた後苦笑して携帯を取り出しながら言う
「やはり 掛けて来たな あいつらしい…」
ハイケルが嬉しそうに携帯の画面を見て驚き 表情を硬くして着信させる 携帯からオペレーターの声が届く
『国防軍レギスト機動部隊隊長 ハイケル少佐のお電話で 間違い御座いませんでしょうか?』
ハイケルが言う
「…ああ」
ハイケルが心の中で疑問する
(ハイケル”少佐”だと?出廷日時の連絡時には いつも ハイケル”元少佐”と言っていた筈だが…?)
オペレーターが言う
『明日からは 国防軍上層部に置いての事件以前と同様に 国防軍レギスト駐屯地へ出隊して下さい 尚、貴方の軍階は 事件前同様に 国防軍少佐 IDやその他も 全て同じ物を使用 国防軍17機動部隊の指揮権も同様です これからも国防軍の権威と 国家への威信を持って 邁進するようお願い致します …連絡事項は以上です』
ハイケルが呆気に取られて驚いた後慌てて言う
「どう言う事だ?何故突然?」
オペレーターが言う
『これは国防軍並びに国家上層部からの命令です もし、国防軍17機動部隊への復帰を望まないと言う事でしたら 改めて 国防軍脱退の申請を執り行って下さい 貴方の身柄は既に 国防軍17機動部隊へと戻されております』
ハイケルが呆気に取られていると通話が切られる ハイケルが気付き携帯を見ながら言う
「…国防軍並びに 国家上層部からの命令… 国家上層部?女帝陛下の…?」
ハイケルが携帯をしまいながら歩き出し考える
(国防軍への復帰に 何故 国家上層部が関わる?俺の釈放には 女帝陛下のお言葉が強く影響したが …それにしても 元国防軍だった者が 同じ国防軍へ戻るとなれば わざわざ国家上層部が 命令を下す理由は無い筈… 何故だ…?)
【 ハイケルの部屋 】
ハイケルがベッドに横になって思う
(…まぁ 良いか レギストに復帰する レーベット大佐に託された部隊だ それに …また 暑苦しいあいつが 少佐少佐と来るのだろう)
ハイケルが軽く苦笑して目を瞑り思う
(…そう言えば 今考えても 可笑しな電話だったな …とは言え どうせ明日になれば 駐屯地で会うんだ そこで…)
ハイケルが眠りに着く
【 国防軍レギスト駐屯地 】
ハイケルが言う
「…久しぶりだな」
隊員たちが呆気に取られていた状態から慌てて敬礼して言う
「お帰りなさいませっ!少佐!」
ハイケルが軽く頷いてから言う
「今日から再び お前たちの隊長として 国防軍レギスト機動部隊の指揮を担う事となった …私が居なかった間の 変更事項などは無いか?あるなら今報告を」
隊員たちが顔を見合わせた後答える
「少佐がいらっしゃらなかった間の 変更事項は ありませんっ!」
ハイケルが言う
「…そうか」
ハイケルが周囲を見渡し僅かに疑問する 隊員たちも不穏な様子 ハイケルが一度気を取り直してから言う
「では 通常訓練を開始しろ」
隊員たちが返事をする
「はっ!」「通常訓練の1 開始ーっ!」
隊員たちが腕立てを開始する ハイケルが軽く息を吐き 再び周囲を見てから思う
(あいつは…?何故居ない?)
ハイケルが立ち去る 隊員たちが見ている
【 ハイケルの執務室 】
ハイケルが部屋に入り周囲を見渡し 机に向かうと 椅子に座り周囲を確認しつつ ノートPCを取り出して電源を入れる ハイケルが思う
(俺が居た時と 何1つ変わっていないな… ここは 部隊を預けた あいつが使っていたはずだが…)
ハイケルがノートPCの起動に気付き IDを入力してログインする ハイケルが一つ一つを確かめる様子で作業を進める
ハイケルが隊員名簿を見ながら思う
(隊員の増減は特に無い… 特異事項なども無し… 隊長であった俺が あれだけの事をしたと言う割に 大した変化は…)
ハイケルが軽く息を吐きつつ名簿を見終えて最初のページへ戻す 画面には 国防軍レギストの概要と名簿の人数が表示されている ハイケルが何と無しに見て気付き疑問して言う
「うん?」
ハイケルが名簿を開こうとして考える
(隊員名簿は一通り確認した 増減は無かった なのに… 何故 隊員数が1人足りない?)
ハイケルが隊員たちの顔写真と名前だけを見ながら足早にページを送り 見終えた所で首を傾げて言う
「…全員居る 何故だ?隊員名簿に記載されていないのは 別ページに記載される 隊長の私と 副長の…」
ハイケルがハッとして別ページを開く 画面にハイケルの顔写真と名前が映った所で ハイケルが驚いて言う
「無い…?副長のページが… どう言う事だっ!?」
ハイケルが焦ってノートPCを操作してから机を叩く しばらく考えてから携帯を取り出して通話ボタンを押し耳に当てながら思う
(…出ないっ!いつもなら 1コールを待たせたと 謝罪するあいつがっ!くそっ!)
ハイケルが携帯を切り考えてからハッとして 携帯を操作して耳に当てながら思う
(…出ろっ!)
携帯が着信してマスターの声が届く
『は~い こちら 喫茶店マリーシア』
ハイケルが慌てて言う
「俺だっ!」
【 マスターの店 】
マスターが受話器を持ちながら呆気に取られて言う
「…ハイケルか?どうした~?そんなに慌てて…?」
受話器からハイケルの声が届く
『今すぐ調べろっ!あいつをっ!ヴォール・アーヴァイン軍曹はどうなったっ!?』
マスターが呆気に取られて言う
「はぁ?」
【 国防軍レギスト駐屯地 】
車両保管所から軍車両のジープが急発進する 駐屯地の出入り口 警備兵2人が呆気に取られて顔を向けた状態から慌てて門を開いて退避する 開かれた門すれすれにジープが走り去る 警備兵2人が驚いたまま顔を見合わせる ハイケルが表情を怒らせながらジープを運転している 荒い運転でジープが走り去る
【 国防軍レギスト訓練所 】
隊員たちが腹筋を終え一息吐いている 隊員Aが周囲を見ながら言う
「あれ…?少佐は?」
隊員Bが言う
「通常訓練1の時から居ないけどー?」
隊員Aが頭を掻きながら言う
「ああ… 少佐が居なくなるのはいつもの事だけど 通常訓練の3が終わる頃には戻って来てるだろ?それか軍曹が呼びに行ったり」
隊員Cが言う
「ああ、なら 軍曹が呼びに来ないから 気付いてないのかもな?誰か代わりに呼びに行くか?」
隊員Aが困って言う
「う~ん…」
隊員Aが隊員たちを見渡す 皆がビクっとしてそっぽを向く 隊員Aが隊員Bを見る 隊員Bが衝撃を受け言う
「えぇえ~っ!?」
【 ハイケルの執務室 】
隊員Bが嫌そうな表情で屋主の名前を確認し 一度強く目を閉じてから気合を入れ 硬く握った拳でノックをして 再び強く目を閉じて言う
「バイスン隊員でありますっ!」
隊員Bがそのまま待つが返事は無い 隊員Bが疑問してもう一度ノックをして言う
「少佐ぁー!」
隊員Bがそのまま待つが返事は無い 隊員Bが疑問して扉のノブに手を掛け ゆっくり回すとドアが開く 隊員Bがビクっと すくみ上がってから恐る恐るドアを開けて言う
「しょ… 少佐ぁ~…?」
隊員Bが室内を見渡してから言う
「…居ない?」
隊員Bが首を傾げる
【 軍曹の家 】
ハイケルが周囲を見渡し 門にあるインターフォンを押す 間を置いて周囲を見渡し言う
「…気配は無い …居ないのか」
ハイケルが息を吐きジープへ戻る 運転席に戻り考える
【 国防軍レギスト駐屯地 】
隊員Aが警備兵2人と話している 警備兵1が言う
「ああ、ハイケル少佐だろ?少し前に ジープかっ飛ばして どっか行ったぜ?」
隊員Aが驚いて言う
「えぇえっ!?」
警備兵2が苦笑して言う
「にしても、本当に かっ飛ばして だったよなぁ?驚いたなんてもんじゃねーよ」
警備兵1が苦笑して言う
「あぁ… あんな感じで 国防本部にも 乗り込んだのかもな?」
警備兵2が噴出して笑う 隊員Aが不満そうに言う
「少佐はっ!」
警備兵1と2が気付いて 警備兵1が言う
「ああ、悪い悪い 別に悪気があって言ったんじゃないんだ 俺たちだって 感謝してるって …だから 正式連絡はなかったけど 門を開けたんだ」
警備兵2が苦笑して言う
「まぁ… 開けなかったら 怖いしな?」
警備兵1と2が噴出して笑う 隊員Aが不満そうに2人を見る
【 車中 】
ハイケルがジープを運転していると携帯が着信する ハイケルがハッとして車を路肩に止め 携帯を取り出して相手を確認すると 軽く息を吐いて着信させて言う
「何か分かったのか?」
携帯からマスターの声が届く
『当~然~ …とは言ってもな ハイケル お前にとっては 嬉しくない情報だぜ』
ハイケルが溜息を吐きつつ言う
「少しは分かっているつもりだ レギスト機動部隊の副長から 除名されている …家にも居る様子が無い 俺のIDで調べられる範囲にも無かった となれば 国防軍の上層にでも左遷されたか?」
【 マスターの店 】
マスターがコーヒーを淹れながら言う
「今までより高いの地位へ 移動させられる事は 左遷とは 言わないの」
受話器からハイケルの声が届く
『分かっている …だがそれはっ』
マスターが苦笑して言う
「まぁ、本人の意思とは離れてるんだって事を 言いたいのは分かるけどな?」
受話器からハイケルの声が届く
『…それで?』
マスターが受話器を保留して 客へコーヒーを持って行く マスターが戻って来て 受話器を首に挟みつつ PCを操作して言う
「お前さんの想像通り ヴォール・アーヴァイン軍曹は 昨日付けで国防軍レギストを脱退 その代わり ヴォール・アーヴァイン・ハブロス公爵は… 聞いて驚け?ハイケル」
受話器からハイケルの声が届く
『早く言えっ』
マスターが苦笑して言う
「お前が以前 射殺した 元国防軍総司令官の弟が就任していた 国家家臣である 女帝陛下の親兵副長 ヴォール・アーヴァイン・防長として戒名されている… つまり 女帝陛下の専属兵士 陛下の盾になったんだ」
ハイケルが驚き ハッとして思い出す
【 回想 】
ハープの音がポロンと響く 裁判所に居る全ての人が驚き視線を上げる 皆の視線の先 赤い御簾の先から女帝の声が届く
『 形あるものは 何時かは朽ち行く… わらわの盾は 朽ちて逝ったか…』
女帝の言葉が続く
『 共に倒れ 兵は減り逝った… これ以上 わらわの兵士が減り行かぬ様 わらわは願い ここにお頼みする… 我らアールスローンの神へ わらわの願いを聞き入れ ペジテを守る 強き兵士を…』
【 回想終了 】
ハイケルが呆気に取られて言う
「ペジテを守る 強き兵士… 女帝陛下の盾…」
マスターが言う
『国防軍の一部隊の軍曹から 国家家臣 しかも 陛下の親兵副長っつったら 閣下の敬称で呼ばれる立場だぜ?出世所の話じゃねーよな?』
ハイケルが呆気に取られている マスターが言う
『まぁ、元々ハブロス家ってのは 高位富裕層の中でも 上から1、2番に数えられる 大富豪だ 今更っちゃぁ今更なのかもしれないが ハイケル… ハイケル?聞いてるか?』
ハイケルが何とか言う
「…ああ」
マスターが言う
『…おい 大丈夫か?』
ハイケルが俯いて言う
「…ああ」
マスターが言う
『とりあえず、そう言うことだ お前がレギストに復帰出来たのも きっと ヴォール・アーヴァイン・防長閣下の お陰って事だろう?何しろ 陛下の片腕とも言える立場の人間が 国防組織とは言え ちっぽけなレギスト機動部隊の隊長を指名する位 いくらでも出来る筈だ …まぁ 前の陛下の盾だった 元国防軍総司令官を始末した奴を ってのには 多少苦労したかもしれないが… 居なくなった奴に何した奴だって事よりも 新しい盾になる彼の希望の方が 重視されるってもんだ …ヴォール君に感謝しろよ?ハイケル?』
ハイケルが沈黙する
【 国防軍レギスト訓練所 】
隊員たちが集まって言う
「館内には居なかったぜ?」「敷地内にも居なかった」「訓練して待つとしても どうする?訓練所の使用は何処も許可がねぇと …お?」
隊員たちの下に隊員Aが歩いて来る 隊員Cが言う
「あ、何処行ってたんだよ?お前が帰って来ない間に 俺たちで少佐を探し回ったけど 何処にも居なくて お前は?」
隊員Aが言う
「正門前の警備の奴に聞いて来たんだ 少佐は外出したって」
隊員たちが驚いて言う
「えぇえ!?」「外出って…」「…じゃぁ 俺らはどうする?」「すぐ… 戻るのかな?」
隊員たちが考える 隊員Aの携帯が着信する 隊員Aが疑問しながらも着信させると 聞いて驚く
「少佐が!?」
隊員たちが隊員Aを見る
【 ハイケルの執務室 】
隊員Aがドアをノックして言う
「アラン隊員でありますっ!」
ドアの中からハイケルの声がする
「入れ」
隊員Aが言ってドアを開ける
「はっ!入ります!」
隊員Aが入室して敬礼する ハイケルが顔を向ける 隊員Aがハッとして言う
「お帰りなさいませっ 少佐!」
ハイケルが一瞬疑問した後言う
「…私が外出していた事を 知っていたのか」
隊員Aが言う
「はっ!正門警備の者に 少佐のお戻りを伝達してもらいましたっ!」
ハイケルが言う
「…そうか」
ハイケルが視線を逸らす 隊員Aが言う
「はっ!」
ハイケルが隊員Aを見て言う
「…それで?」
【 国防軍レギスト訓練所 】
隊員Cが言う
「少佐の場合は やっぱ射撃訓練所での練習かな?」
隊員Dが言う
「軍曹だと 筋トレばっかだったからな 久しぶりに拳銃ぶっ放してスカッとしたいね!」
隊員Eが言う
「案外 少佐が居なかった時と同じで良い… とか言われる可能性もありそうだよな?少佐結構 訓練内容に興味ないって感じだからよぉ?」
隊員Dが言う
「あ、それ俺も思ってた いつも通常訓練終わった後 そーだなぁー?って感じだし」
隊員たちが笑う 隊員Bが言う
「軍曹の場合はー あれやって これもやってー あれもやりたいー みたいなー?」
隊員Dが言う
「そうそう!んで 就業時間オーバーしちゃうんだよなぁ?」
隊員Eが言う
「あぁ この所帰りが遅くて かみさんに言われてるんだよ 貴方っレギストと家族と どっちが大切なのっ!?ってよ?軍曹に言って欲しいぜ」
隊員たちが笑う
【 ハイケルの執務室 】
隊員Aが言う
「はっ!通常訓練が終了致しましたので ご指示を頂きたく 参りましたっ」
ハイケルが言う
「…そうか」
隊員Aが待つ ハイケルが少し考えてから隊員Aを見て言う
「アラン隊員」
隊員Aが一瞬驚いた後敬礼して言う
「はっ!少佐!」
ハイケルが言う
「では、私が戻らなかったら 何をする予定だった?」
隊員Aが一瞬呆気に取られた後慌てて言う
「は?…は、はいっ!えっと…」
ハイケルが見つめる 隊員Aが焦りながらも必死に言う
「はっ!我々の指揮官、副指揮官であります 少佐や軍曹が居られない場合は… 別命があるまで 待機… かと」
ハイケルが言う
「夜まで待機するつもりか?ともすれば 明日になるか 明後日になるか… 二度と戻らないかもしれないぞ?」
隊員Aが焦って言う
「す、すみませんっ じ、自分の考えではっ 少佐や軍曹を お探しするものかと…」
ハイケルが苦笑して言う
「フッ… 先程のは 国防軍隊員の心得 とやらだったか」
隊員Aが言う
「は、はいっ」
ハイケルが言う
「そんなものもあったな」
ハイケルが立ち上がる 隊員Aが反応してハイケルを見る ハイケルが言う
「分かった … 昼まで 射撃訓練を行え 射撃場の使用を許可する」
隊員Aが敬礼して言う
「はっ!了解いたしましたっ!」
ハイケルが窓の外を見る 隊員Aが部屋を出て行こうとして立ち止まり ハイケルへ向いて言う
「あ… あの 少佐」
ハイケルが振り返らずに言う
「なんだ」
隊員Aが表情を落として言う
「その… 軍曹は …本日 お休みでしょうか?」
ハイケルが沈黙する
「…」
隊員Aが慌てて言う
「えっと あの… 昨日は 特に その様な連絡事項は 無かったと記憶しておりましてっ その… 少佐のご帰還もっ 軍曹なら… きっと 喜んで 我々へ知らせてくれた筈だと… それに…」
ハイケルが唇を噛み締めて黙る 隊員Aが不安げにハイケルを見る ハイケルが間を置いて言う
「…るか …な奴」
隊員Aが疑問して言う
「え?しょ、少佐…?」
ハイケルが振り返って怒って叫ぶ
「上官の指示も聞かずにっ!勝手な事をする奴の事などっ!知るかっ!!」
隊員Aが驚いて呆気に取られる ハイケルがハッとして言う
「…すまん」
隊員Aが何とか言う
「い、いえ…っ あのっ 自分が…っ!」
ハイケルが言う
「私は今 気が立っているんだ 少し落ち着いてから向かう それまでお前たちだけで 訓練を行っていろ」
隊員Aが呆気に取られた後慌てて敬礼して言う
「はっ!承知しました!少佐!」
隊員Aがドアを開け立ち去る ドアが閉まるとハイケルが一息吐く
【 国防軍レギスト訓練所 】
隊員Aが戻って来る 隊員たちが気付いて言う
「お、戻って来た!」「お勤めごくろー!」
隊員Aが到着すると皆が集まり言う
「で、どうだった?」「射撃訓練ゲット出来たかー?」
隊員たちが笑う 隊員Aが間を置いて苦笑して言う
「…ああ、昼まで射撃練習だって 射撃所の使用許可出すから 先行ってろってさ」
隊員たちが喜んで言う
「やったねー!」「ひっさしぶりだー」
隊員たちが向かう 隊員Aが苦笑してから頷き続く
【 国防軍レギスト 射撃訓練所 】
隊員たちが射撃訓練を行っている ハイケルがやって来る 隊員が気付き敬礼しようとする ハイケルが言う
「続けろ」
隊員が微笑して言う
「はっ!」
ハイケルが移動する 隊員たちが訓練をしている様子をハイケルが見ながら考えている ハイケルの脳裏に記憶が蘇る
【 回想 】
ハイケルが携帯に疑問して言う
『うん?なんだ?よく聞えないぞ?軍曹?』
携帯から軍曹の声が聞える
『少佐… 真にっ!申し訳ありませんでしたぁっ!しかしっ!自分は本気で… 本気で!少佐と共にっ!レギストでっ!でも… でもっ… っ…ぅう』
ハイケルが疑問して言う
『でも?なんだ?軍曹?』
携帯から軍曹の声が聞える
『…ズズッ …しかしっ!これで少佐は 再び少佐でありますっ!やはり 少佐はレギストの隊長であって 自分はっ!自分は…っ …りませんがっ!…ぅぐう…』
ハイケルが言う
『軍曹?おいっ 何を言っているのか分からん 今何処に居る?家か?』
ハイケルが店の時計を見る 時計は23時近くを回っている ハイケルが軽く息を吐いてから言う
『…とにかく、今日はもう遅い 明日…』
携帯から軍曹の声が届く
『はいっ!少佐からお電話を頂きましてっ!真に有難う御座いましたぁっ!少佐ぁ!どうか… どうかあいつらを 宜しくお願いしますっ!自分は… 自分は!草葉の陰から 少佐の率いる我らレギストの活躍を!常に応援しているでありますっ!どうかっ!お元気で…っ!』
【 回想終了 】
ハイケルが視線を落として思う
(…あの電話は こう言う事だった …くそっ 何が草葉の陰からだっ そう言う事は… 死ぬ間際にでも 言えば良いんだっ!)
ハイケルが怒りの視線を上げ 素早く銃を抜き 隊員たちが苦戦していた的を 遥か後方から次々打ち抜く 隊員たちが呆気に取られる
【 皇居 女帝の間 】
赤い御簾の向こうに人影がある 軍曹がそれを見て呆気に取られていると アースが言う
「陛下 陛下の新たな盾を お持ち致しました」
軍曹がぼーっとしていると 後ろから軍曹の尻部が蹴られる 軍曹が驚き一度仰け反ると アースが小声で怒って言う
「ぼさっとするなっ 跪けっ!」
軍曹が不満そうに言う
「えぇっ?」
アースが表情で諭す 軍曹が渋々跪いて頭を下げる 御簾の奥から女帝の声が届く
「 安じょう… 強ゆること 無かれ…」
アースが敬礼して言う
「はっ」
軍曹が声に顔を上げる 女帝の声が届く
「 その方 天より戻りし わらわの盾か…?」
軍曹が視線を落とす アースが煩わしいそうに再び蹴ろうと足を上げる 女帝の声が届く
「 返事に苦しいか… なれば その方 真 神より与えられし 守りの兵士たるを その身に 伺うが良い…」
軍曹が疑問する 女帝が言う
「 わらわの剣よ… ここへ…」
女帝の言葉に 女帝の御簾の前横に佇んでいた男(ユラ)が顔を上げる 軍曹が疑問する
【 マスターの店 】
マスターがコーヒーを淹れながら言う
「…でぇ?」
ハイケルがそっぽを向いて言う
「ふんっ」
マスターが苦笑して言う
「あのなぁ ハイケル?店に来てくれるのは嬉しいが… せめて 制服は脱いで来てくれないか?」
ハイケルがコーヒーを飲みながら言う
「レギストの任務として来ているんだ その必要はない」
マスターが溜息を吐いてから言う
「レギストとしての情報収集なら そのレギストの情報部に命じれば良いだろ?俺は とっくに引退したの!」
ハイケルが言う
「レギストは国防軍の一部だ その国防軍の情報部へ 女帝陛下の情報を探れ などと命令出来る訳が無いだろう?」
マスターが表情を困らせて言う
「それじゃ やっぱり お前個人の依頼って事になるんじゃないのか?だとしたら」
ハイケルが言う
「俺個人ではなく レギストの少佐として 依頼している …部下たちだって あいつの復帰を願っているんだ」
マスターが言う
「…ハイケル レギストは国防軍の一部だって お前自身がさっき言ったよな?」
ハイケルが言う
「そうであって そうではない」
ハイケルがコーヒーを飲む マスターが衝撃を受けて言う
「何 カッコつけて言ってるんだっ そう言うのを矛盾って言うの!知ってる!?」
【 皇居 女帝の間 】
激しい物音が響く 軍曹が床に叩きつけられる ユラがやって来て言う
「立て」
ユラの手に鞘に収められた剣が握られている 軍曹が表情を歪めつつ起き上がり ユラを見上げ怒って言う
「挨拶も抜きに いきなり 何をするっ!」
ユラが表情を顰める 女帝が言う
「 この方は わらわの剣… アールスローンの悪魔より頂いた ペジテの敵を 殺める兵士…」
軍曹が一度御簾へ顔を向けてから 再びユラを見上げて怒って言う
「それならばっ 何故 陛下の盾とされる 自分を攻撃するのだっ!?攻撃の兵士は 神に命じられ 守りの兵士である自分を守るのでは 無かったのかっ!?」
ユラが剣を構えて言う
「守っているだろう?神の命が無ければ とっくに この鞘を抜き 刀身を用いて お前を攻撃している所だ」
ユラが鞘の付けられた剣を 軍曹へ振るう 軍曹が慌ててそれを避けて言う
「なっ!?なんと 無茶苦茶なっ!」
女帝が言う
「 わらわの盾よ 臆する事 なかれ…」
軍曹がムッとして言う
「自分はっ!臆してなどおらんっ!」
アースが慌てて言う
「アーヴァインっ!陛下へ対し なんと言う口をっ!お前はもう…!」
アースがハッとして口をつぐむ 軍曹が疑問してアースへ向く アースが頭を下げる 軍曹が疑問してアースの頭を下げた先を見る その先には女帝の赤い御簾がある 軍曹が表情を顰めて思う
(出家した俺は… もう兄貴とは 兄弟でも何でもないと言う事か…)
女帝が言う
「 その方 下がりなさい」
アースが礼を深くしてから横目に軍曹を一度見てから立ち去る 軍曹がそれを見て表情を落とす 女帝が言う
「 続きを…」
軍曹がハッとする ユラが軍曹へ剣を振り下ろす
【 マスターの店 】
マスターがPCを操作しながら後方のハイケルへ言う
「ペジテを守る守りの兵士ねぇ… アールスローン戦記なんて 確かに習った気もするが 何処か遠い話に思えてな?…何しろ 神様と悪魔にもらった不死身の兵士だもんなぁ?未だにそれを引用する理由が分からんが 陛下がペジテのお姫様の末裔だって言うんだから やっぱり 相応に近い実話だったって…」
ハイケルがマスターの話を聞いていると 突然胸が痛み左胸を押さえて表情を歪める マスターは気付かず話を続ける
「神様に~だとか 不死身の~って部分は 流石に嘘にしても そう例えられる位の優秀な兵士が居たって事なんだろうな きっと …となると?一体 どれだけ優秀な?…まぁ 間違っても一人で国防本部に 乗り込んだりなんて事は~?」
マスターが笑いながら振り返ると ハイケルが苦しんでいる マスターが一瞬呆気に取られた後 慌てて言う
「お、おいっ ハイケルっ!?」
ハイケルが肩で息をして言う
「…っ 大丈夫だ はぁ…はぁ…」
マスターが間を置いて言う
「まだ 発作があったのか?俺はてっきり もう治ったものかと」
ハイケルが落ち着いて言う
「ああ… 孤児院を出てからは すっかり無くなっていた 俺自身も忘れていた位だ」
マスターが言う
「再発したって事か?いつから?」
ハイケルが言う
「…大分前に 一度あっただけだ それから長くなかった …今回も 一時的なものだろう これでまた しばらくは」
マスターが心配そうに言う
「精密検査を受けた方が良いんじゃないのか?再発したって事は やっぱり その原因となる物がまだあるって事だ しっかり治してしまった方が 安心出来るだろう?」
ハイケルが言う
「大丈夫だと言っている」
マスターが言う
「根拠の無い 大丈夫は 大丈夫とは言わないんだ …検査代が無いって言うなら 立て替えてやるから」
ハイケルがマスターを見る マスターが溜息を吐いて言う
「…少しは 心配させないでくれよ これでも 一応 お前の… 近い奴だと思ってるんだ …大佐の仇討ちだって 出来る事なら止めたかった」
ハイケルが間を置いて言う
「…分かった …感謝はしている」
マスターが振り返って言う
「ハイケル?」
ハイケルが店のドアを開けて言う
「部隊を放って来ているんだ 戻らなければ… また、あいつらを困らせる」
ハイケルが出て行く マスターが溜息を吐いて言う
「はぁ… 本当に分かってるんだかねぇ?」
店のドアがゆっくり閉まる
【 皇居 】
【 回想 】
女帝が言う
『 わらわの盾よ… 臆する事無かれ お前は 神より頂いた兵士…』
軍曹がユラの剣を避け言う
『臆してなどおらんと言っているっ!自分はレギストで 少佐の御指導の下 鍛錬を積んできたのであるっ!見よっ!』
軍曹がユラの振るわれた剣を掴む ユラが驚く 軍曹がニヤリと笑んで言う
『どうだっ!?相手の手元の動きを見れば!次に振るわれる瞬間が分かるっ!この技は!…少佐の素晴らしき御指導の賜物であるっ!』
ユラが表情を強張らせる 女帝が言う
『 わらわの盾よ 臆する事無かれ…』
軍曹がムッとして言う
『であるからっ 自分は臆してなどおらぬと言っているっ!そもそも この技は!臆してなどいては行えないのであるっ!少佐の最初のご指導であったっ!自分は今でもっ!』
ユラが言う
『そうではない ヴォール・アーヴァイン』
軍曹がムッとする ユラが剣を引いて言う
『陛下は お前に 何もせず ただ耐えろと 仰っているのだ』
軍曹が衝撃を受け驚いて言う
『なっ!?』
軍曹が慌てて御簾を見る ユラが言う
『私の剣で お前が倒れる事は 決して無い それを身を持って証明して見せろとな?』
軍曹が慌てて言う
『ば、馬鹿を言うなっ!俺だって痛いものは痛いっ!ましてや さきほどのお前の攻撃を何度も受けたりしては それこそ 命の危険だって否めぬと言うものだっ』
ユラが剣を構えて言う
『そうであるなら お前は陛下の盾ではないと言う事だ …分かったら 耐えて見せろ!ヴォール・アーヴァイン!』
ユラが剣を振り下ろす 軍曹が強く目を瞑る 鈍い音が響く
【 回想終了 】
軍曹がハッと目を覚ます 病室のベッドの上 顔や体に包帯やガーゼが当てられている 軍曹が溜息を吐いて 表情を悲しめて言う
「少佐… 少佐ぁ… 自分は…っ レギストに戻りたいであります…っ!」
軍曹が涙を堪える
【 マスターの店 】
マスターが呆れて言う
「…はぁ?」
ハイケルが診断書を見せ付けて言う
「異常なしだ」
マスターが診断書を受け取り内容を確認する ハイケルが偉そうに言う
「むしろ 健康そのものっ!流石は レギストの隊長だと 褒められたぞっ」
ハイケルの脳裏に能天気な医者の姿が思い出される マスターが不満そうに言う
「そら… 本当にまともな医者だったのかぁ?金が無いから藪医者とか…」
ハイケルが衝撃を受け怒って言う
「ならっ その診断書を書いた医者の身の上でも探れ!こっちは お前が心配だと言うからっ これで安心させ…っ」
ハイケルがハッとして顔を逸らす マスターが呆気に取られて言う
「安心させ…?」
ハイケルが背を向けて言う
「とにかくっ!これで良いだろう!?まずは アールスローン戦記の内容だ!それから あいつや陛下の事でも 何でも良い 現状を探れっ!」
マスターが表情を困らせて言う
「現状を探れったって… おいっ ハイケルっ!?」
ハイケルが店を出て行って ジープに乗り込み去って行く マスターが呆気に取られてそれを見送ってから苦笑して言う
「あいつ… 俺を安心させる為に わざわざ就業中に抜け出してきたのか?…ははっ おまけに」
マスターがPCを起動させながら言う
「少佐少佐って追いかけてたヴォール君を 今度は あいつをあいつをって ハイケルの方が追いかけてるじゃねーの …ったく 可愛くなっちまって」
マスターが苦笑した後 PCが起動し操作を開始する
【 皇居 女帝の間 】
激しい物音が響き 軍曹が床に倒れ苦しがる ユラが前に立つ 軍曹が顔を向けて言う
「ぐぅ… こんな事を続けて 一体 何になるというのだっ!?」
ユラが剣を振り下ろす 鈍い音が鳴り 軍曹が悲鳴を上げる
「ぐあっ!」
軍曹が打たれた体を抱えてうずくまる ユラが顔を顰める 軍曹が表情を顰める 女帝の声が届く
「 神の手向けを…」
軍曹が驚くと ユラが剣を振り下ろす 軍曹が悲鳴を上げる
「ぐあぁあっ!」
軍曹が床に倒れ苦しがる ユラが軍曹に近付く 軍曹が強く目を閉じたまま思う
(俺は… このまま 殴り殺されるのか…っ)
ユラが剣を振り上げる 軍曹が思う
(なんで こんな目に会う!?俺は… 俺は…っ)
女帝の声が届く
「 ヴォール・アーヴァイン…」
ユラが動きを止める 軍曹が薄く目を開き御簾を見る 女帝の声が届く
「 わらわには… 見えぬ… その方 真 わらわの盾か…?」
ユラが剣を下ろし軍曹を見て言う
「陛下のお言葉に答えろ」
軍曹が何とか身を起こし言う
「自分は…っ ハブロス家に伝わる 由緒正しきアールスローン戦記の原本を受け継いだ 悪魔の兵士を守る 守りの兵士だとか…なんとかっ」
ユラが視線を細める 軍曹が気付かず言う
「それでもっ 自分は そんなもの 微塵も信じてなどいなかったのだっ!何故ならっ!ペジテの姫である 陛下の兵士になった者は その実は 唯 高位富裕層の者が選ばれているだけだと!そんな事は 子供でも知っている事なのだっ!」
女帝が沈黙する ユラが御簾を見る 軍曹が疑問して ユラと御簾を交互に見る 女帝が言う
「 続きを…」
軍曹が驚く ユラの剣が振り下ろされる
【 国防軍レギスト駐屯地 訓練所 】
ハイケルが突然左胸を押さえて苦しがる ハイケルが思う
(…クッ!また…?…ただの安心材料にと その為だけに受けた精密検査だったが 異常は無かった 俺さえも… 安心したと言う矢先…っ)
ハイケルが間を置いて苦しみから解放され 軽く息を吐いて落ち着く 2、3度肩で息をしてから ムッとして思う
(異常が無いのに 息が出来なくなるほど苦しくなる 一体何なんだ?…くそっ イライラする …いや、何故 この程度の事で 俺は こんなに…っ?)
ハイケルが表情を強め手を握り締める 隊員たちが集まって来て敬礼して言う
「通常訓練の3!終了致しましたっ!」
ハイケルが隊員たちを見る 隊員たちがハイケルを見てから 後方小声でコソコソ言う
「やっぱり射撃訓練かな?」
隊員がニヤリと笑んで言う
「良いねー楽だしっ」
ハイケルが言い掛ける
「では 昼まで 射撃訓練…」
隊員たちが僅かに微笑する ハイケルが言い掛けていた言葉を止めて言い直す
「…いや、実戦訓練を行う」
隊員たちが一瞬呆気に取られた後 慌てて敬礼して言う
「…はっ!」
隊員たちが返事はしたものの疑問して顔を見合わせる ハイケルが言う
「各自 2人1組となり 対戦を行え 武器の使用は原則禁止とする 相手がダウンするまで 実戦だと思って戦え!」
ハイケルが手を握り締める 隊員たちが驚いたまま慌てて敬礼して言う
「はっ!了解っ!」
隊員たちが困惑しつつ 準備を行う
【 皇居 女帝の間 】
強く受け止めた音が響く ユラが一瞬疑問してからムッとして言う
「忘れたか?私の攻撃は 全てその身に受けろと 命じられた筈」
軍曹がユラの剣を手で押さえていて言う
「このまま殴り殺されるなど御免だっ 自分はっ!お前に殴られる為に 生まれてきた訳ではないのだっ!」
ユラがムッとして言う
「…愚かな」
ユラが軍曹の手から剣を取り戻し 再び剣を振るう 軍曹がユラの剣をかわし 隙を伺う 御簾の奥で女帝が沈黙して見つめている
【 国防軍レギスト駐屯地 訓練所 】
隊員たちの半分が地面に倒れている 2人組みの1人が地に膝を着いて言う
「待ったっ!参った!」
もう一人の隊員が振りかぶっていた拳を止め 苦笑する 地に膝を着いていた隊員が息を吐きながら地面に倒れる ハイケルが微笑して隊員たちの下へ向かう 負けた側の隊員たちがハイケルが来るのを見ながら苦笑して言う
「やっぱ 勝ち残った方の連中には お褒めのお言葉…とか?」
「軍曹じゃないんだ それは無いだろ?」
「いや、それ所じゃなくて 少佐なら 昇給や昇格もありなんじゃ…?」
「もしかしてっ 軍曹の代わりになる奴を 選出するするつもりだったりっ!?」
ハイケルが皆の前で立ち止まって言う
「…勝ち残った者 この中で」
隊員たちが注目する 負けた隊員達が唾を飲む ハイケルが言う
「立っていられない者 体力の限界だと言う奴は 彼らと同じく寝ていろ」
隊員たちが顔を見合わせる 負けた側の隊員の1人が後悔して言う
「あぁ~~っ本気でやっとけば良かったぁ~っ!」
勝った側の隊員たちが意気揚々と立って見せる ハイケルが皆の様子を見て微笑して言う
「そうか まだ体力はある様だな?…なら良い」
皆が疑問する ハイケルがニヤリと笑んで言う
「今度は お前たち全員で 私を倒してみろ」
隊員たちが驚く ハイケルが言う
「上官だからと遠慮はいらん …そうだな 私を倒し 最後まで立っていられたら 昇給でも昇格でも なんでもしてやる …これは 手っ取り早い それらの試験だと思え」
隊員たちが驚いたまま顔を見合わせる 間を置いてハイケルが微笑して言う
「…どうした?来ないのなら …こちらから行くぞっ!」
ハイケルが隊員を殴り飛ばす
【 皇居 女帝の間 】
軍曹がユラの剣を掴む ユラがムッとする 軍曹がニヤリと笑んで 力任せにユラの剣を引き剥がす 2人の力に剣が弾け宙を舞う 軍曹が瞬時に拳を握り ユラに殴り掛かって言う
「これまでの仕返しっ!」
ユラが軍曹を見て歯を食いしばる 女帝の声が響く
「 止めよっ!」
軍曹の拳がユラのギリギリで止まる 軍曹が間を置いて御簾へ向く 女帝が静かに言う
「 ヴォール・アーヴァイン その方は 神の兵士 何人たりとも 傷付ける事 許されぬ」
軍曹がムッとして言う
「そんなおとぎ話などっ 子供でも信じてはおらんのだっ!自分はっ 神の兵士などではないっ!ただの人であるっ!」
ユラが言う
「…お前はそれでも アールスローンの国民か?女帝陛下への言葉とは思えんっ 恥を知れっ!」
軍曹がユラへ向いて言う
「何を言うっ!?お前こそっ 無抵抗な自分を殴りつけ それで悪魔の兵士を装っているつもりかっ!?この様な事が アールスローンの国民に知れたら それこそ 笑い者であるっ!」
ユラが間を置いて言う
「…どうやら 本当に分かっていないようだな?」
軍曹が疑問する ユラが言う
「お前は国防軍の側に立つ者だろう?私は政府の側に立つ者だ その2人が 陛下の前で己の力をご覧に入れる… それがどう言う事なのか」
軍曹が驚く ユラが苦笑して言う
「分かったか?…そもそも アールスローン戦記など」
女帝が言う
「 ユラ」
ユラが言葉を止め 御簾へ礼をする 女帝が言う
「 わらわの盾は 間もなく定まる… ヴォール・アーヴァイン」
軍曹が言葉を呑んで顔を向ける 女帝が言う
「 今宵 もう一度 その方の定めを見極める その方が 真 わらわの盾であるのか 否か…」
軍曹が歯を食いしばり視線を落とす ユラが軍曹を見下ろしてから立ち去る 御簾の影が消える
【 マスターの店 】
マスターが言う
「…それで?」
ハイケルがカウンター席に座っている マスターが呆れて言う
「お前は 自分の憂さ晴らしの為に 勝ち残ったその隊員たちを 1人残らず殴り飛ばした と…?はぁ~ レーベット大佐が聞いたら どれ程 嘆かれるか…」
マスターが溜息を付いて顔を左右に振る ハイケルが不満そうに言う
「ただ殴り飛ばした訳じゃないっ 最後まで立っていられる奴が居ればっ 本気で昇格や昇給だってっ」
マスターが言う
「隊員たちは2人1組の対戦をした後だったんだろ?その後になって 万全のお前と戦うなんて フェアじゃないだろう?」
ハイケルが言う
「こっちは1人で あいつらは30人近く居たんだ 多少体力は減っていても フェアだろ?」
マスターが首を傾げて言う
「…俺は今まで お前が喧嘩をしてる所って言うのは 見た事がねーけど」
ハイケルが言う
「何故そこで喧嘩が出て来るんだ?訓練の一環だったと!」
マスターが言う
「訓練って言うのは 少なくとも 殴る事を楽しんでやって良いモンじゃないっ …増して 上官のお前が部下たちを殴って 気分を晴らすだなんて 論外だっ!」
ハイケルがマスターの言葉に怯み視線を落として言う
「…そうだな」
マスターが息を吐いて言う
「…いや、俺も少し言い過ぎた …けどな?ハイケル」
ハイケルが言う
「分かっている …お前の言った事は正しい …きっと大佐も 同じ事を仰るだろう」
マスターが心配して言う
「ハイケル…」
ハイケルが額を押さえて言う
「自分でも 間違っていたと …いや、間違っていると 分かっていた ただ… 押さえ切れなかったんだ …それだけだ」
マスターが息を吐いて言う
「どうしちまったんだ?ハイケル?…この所 お前らしくない …いや、お前らしいと言うか …そう、お前が得意だった完璧さが 消えちまってるぞ?」
ハイケルがマスターを見て言う
「完璧さ?」
マスターが言う
「ああ、お前はいつでも完璧だった 何でも出来て それが当たり前って面してて」
ハイケルが視線を逸らす マスターが表情を落として言う
「けどな、そうやって まるっきり全てを隠しちまってた お前の中の… 良い部分が表に出て来た事は 俺も嬉しく思ってる だが…」
ハイケルが目を細め手を握り締める 店の来客鈴が鳴る ハイケルがマスターを見上げ何か言い掛ける マスターが驚いていて言う
「…っ ヴォール君…っ!」
ハイケルがマスターの言葉に驚いて店の出入り口へ顔を向ける 店のドアを押さえた状態で 軍曹がハイケルを見て驚いて言う
「しょ… 少佐…っ」
ハイケルが驚いた状態から 改めて軍曹の姿を確認し 表情を顰めて言う
「何があったっ!?」
軍曹がハッとして慌てて敬礼して言う
「はっ!そ、その…っ」
軍曹が頭を下げて言う
「申し訳ありませんでしたっ!少佐っ!…自分はっ 少佐からのご連絡に 折り返し連絡を入れる事が 出来ませんで…っ!その…っ 少佐のお声を聞いてしまったら…っ 自分はっ 何とか塗り固めたこの決意が 崩れてしまいそうでっ…」
ハイケルとマスターが顔を見合わせる
マスターの店のドアに 準備中の札が掛かっている マスターがコーヒーを淹れながら言う
「なるほど… つまり、国家家臣最上位である 陛下の親兵 守りを司るヴォール君は 国防軍のトップであり 攻撃を司るユラ長官は 政府組織のトップだった… 女帝陛下をお守りする 盾と剣とは… これはまた、上手く言ったもんだな?」
マスターが軍曹へコーヒーを出す 軍曹が頭を下げてお礼しながら言う
「はい …自分の場合は 元々兄が 陛下の盾と国防軍総司令官の任務を兼務する と言う事に なっていたのでありますが… その… 実の所 現在国防軍と政府組織で ちょっともめている所がある様でして 兄は 陛下の盾役をしている余裕が 正直無いと… ユラ長官の方も 実質 長官の任務は 弟へ任せていると言う噂でして…」
マスターが苦笑して言う
「じゃぁ 結局 アールスローン戦記の 神様に貰った守りの兵士だとか 悪魔に貰った攻撃の兵士だとか… あの辺の話は~ ただの目くらましだった訳ね?」
ハイケルがコーヒーを飲みつつ衝撃を受ける 軍曹が視線を落としたまま言う
「どうやら その様でして… 自分は… 馬鹿で無知な為 陛下のお言葉を真に受けて ユラ長官の剣に耐えれば良いものかと… アールスローン戦記の守りの兵士は 攻撃の兵士に 殺められる事は無い と言う話も 結局は ただの子供騙しだったと… お恥ずかしながら 今更になって 分かりました所存でして…」
マスターが言う
「いんやぁ 恥ずかしがる事なんて無いよ ヴォール君?今 君の横にだって 同じ様に信じて 俺にアールスローン戦記を調べさせていた人が」
ハイケルがコーヒーを吹く 軍曹がマスターを見上げて疑問する ハイケルが平静を装って言う
「…それで、結局 何もかもが 富裕層どもの謀だったと言う事が分かった所で …何故 その為に こいつがここまで いたぶられる必要がある?」
軍曹が表情を落として言う
「それは 恐らく… 自分に そう言った裏世界の毒を 共有する意志があるかどうかと… そして、自分がユラ長官に這いつくばって許しを請えば 恐らくそれは 国防軍が政府組織にひれ伏すと言う事になり 逆をすれば…」
ハイケルが軍曹を見る マスターが言う
「それで?ヴォール君は当然」
軍曹がマスターを見上げて言う
「自分は勿論っ レギストのっ!…いえ、兄が統べます 国防軍に味方をするつもりです …しかし、陛下は自分に 神の兵士である自分は 攻撃をしてはいけないと」
ハイケルとマスターが顔を見合わせる 軍曹が言う
「そう 言われてしまうと… 自分は… どうやってユラ長官に勝てば良いのか 分からないのであります 攻撃をしないで… 攻撃をする相手倒す方法などと言うものが… 果たしてあるのか?もしくは… 本当に耐え続けねばならないのか… 自分には さっぱり分かり兼ね 誰に相談したら良いのかも 分かりませんでして …それでっ!」
軍曹がマスターを見上げる マスターが衝撃を受けて言う
「お、俺ーっ!?」
軍曹が立ち上がって言う
「マスターっ!どうかこの通りっ!」
軍曹が頭を下げる マスターが後ず去る 軍曹がそのままの体制で言う
「あの少佐にっ!一目置かれている マスターの情報収集能力にてっ!どうか自分に その方法をっ ご教授頂きたく 本日は唐突ではありますが お邪魔をさせて頂きましたっ!」
マスターが呆気に取られた状態から間を置いて言う
「…あ、ああ そう言う事?あはっ… あははっ いやぁ、びっくりした… ま、まぁ… なるほどね 今の君にとって 頼れるのは ”あの”少佐の 友人の俺な訳ね…?」
マスターが横目にハイケルを見る 軍曹が頭を下げたまま言う
「お恥ずかしながらっ 恐らく自分の兄もっ!この方法を見つけあぐねっ!丈夫さだけが取り得の自分にっ この大役を 任せたのだと思われますっ!自分は…っ 自分は今まで 家の事や何もかもを 兄へ任せっ 我が侭を押し通して参りましたっ ここへ来ては… 自分は この大役を果さぬ訳には 参りませんとっ…!」
マスターが苦笑している ハイケルが俯いたまま怒りを押し殺し 手を握り締めている
【 回想 】
マスターが軍曹へ言う
『…分かった』
軍曹とハイケルが驚いてマスターを見る マスターが苦笑して言う
『俺に出来る全てを持ってっ!ヴォール君の求める その方法を 探してみよう!』
ハイケルが驚く 軍曹が喜んで叫ぶ
『あ、ありがとうございますっ!マスターっ!』
マスターが苦笑して言う
『うん、なんとか 夜までには 見つけ出せるだろう それまで…』
軍曹が泣きそうな表情で言う
『助かりましたっ!マスターっ!…この御恩はっ!』
マスターが苦笑して言う
『まぁまぁ… それじゃ 多少遅れるかもしれないが その時は 女帝陛下の仰る通り 盾となって耐えていてくれたまえ』
軍曹が一瞬疑問して呆気に取られた後笑顔で言う
『了解でありますっ!マスターっ!自分はっ!必ずっ!』
【 回想終了 】
マスターの店のドアに 準備中の札が掛けられている マスターがPCを操作している ハイケルが言う
「…攻撃をせずに 攻撃する相手をを 倒す方法など …あるのか?」
マスターがPCを操作しながら言う
「さぁね… そんな方法は 考え付きもしないが…?」
ハイケルが怒って言う
「お前っ!」
マスターが顔を向けないまま言う
「…良く 耐えてたじゃないか?ハイケル」
ハイケルが疑問する マスターが言う
「お前がいつ 殴り掛かって来るかって ヒヤヒヤしてたぜ?…もしくは 殴り掛かって行くか か?」
ハイケルが怒りの視線を向ける マスターが操作を続けながら言う
「ま、引き受けちまった以上 方法を探り当てないとな?そうしないと 間違いなく 俺はお前に殴られるだろうから?」
ハイケルが怒りを忍ばせて言う
「…当然だ 俺は 裏切りが大嫌いなんだっ」
マスターが軽く息を吐いて言う
「裏切り… ねぇ… …俺がお前を裏切るって?」
ハイケルが反応してマスターを見る マスターが僅かに表情を落とし作業を続ける ハイケルが視線を逸らし怒りを抑える マスターが軽く息を吐いて言う
「…それにしても …家族が居るって言うのも なかなか 大変なもんなんだな?」
ハイケルが気を切り替えてマスターを見る マスターが言う
「孤児院の子供たちにとって 家族とか 富裕層ってのは 憧れの対象だったけど… どうやら あいつらはあいつらで 大変らしい…」
ハイケルが間を置いて言う
「…そう …らしいな」
マスターが微笑する
【 皇居 女帝の間 】
軍曹が表情を強張らせつつ立っている ユラが軍曹の前に立って言う
「陛下のお言葉への 答えは見つかったのか?」
軍曹がぐっと息を飲む 軍曹の脳裏に記憶が蘇る(女帝の間へ入る直前 軍曹が携帯を確認して 焦りの表情を浮かべ 女帝の間へ向く)軍曹が視線を落として考える
(…マスターは 多少遅れるかもしれないと…っ …その時は 盾として耐えて待てと そう仰っておられたっ ならばっ!)
軍曹がユラを見て両手を握り締めて仁王立ちする ユラが微笑して言う
「ふっ… それで良い 盾は 陛下の剣である私へ 攻撃などはしてはいけない …決してな?」
ユラがニヤリと笑い剣を振り下ろす 鈍い音が響き軍曹が顔を顰め思う
(…っ 少佐っ 自分はっ …少佐がご信頼を寄せる マスターを信じますっ!)
【 皇居 外周 】
ハイケルが目を開き 背後に皇居を見て言う
「到着した」
ハイケルの耳に付けられたイヤホンから マスターの声が届く
『よし、それじゃ早速 扉のセキュリティを解除する セキュリティカードをセンサーに通してくれ …後は素早く中へ入ったら 壁沿いに500メートル サーチライトに気を付けてな?』
ハイケルが言う
「了解」
ハイケルが言うと共に扉へセキュリティカードを通す 扉のセキュリティが解除され ハイケルが素早く中へ入り込む
【 マスターの店 】
夜の店先 ドアに準備中の札が掛けられている 老紳士がそれを見て残念そうに立ち去る 店内 マスターがPCを操作して居る イヤホンからハイケルの声が届く
『目標地点へ到着した ロックの解除を』
マスターがPCを操作しながら言う
「いや、ちょっと待て 館内の巡回が来てる筈だ 後20秒」
【 皇居 外周 】
サーチライトが壁沿いを照らす ハイケルが物陰に身を隠しつつ 周囲を確認しながら言う
「待つ必要は無い 進入と同時に そいつらも殴り飛ばす ロックの解除をっ」
【 マスターの店 】
マスターが言う
「鉢合せの状態じゃ いくらお前でも無理だ 余計なリスクは抑える …どうした?そんな初歩的な事も忘れている様じゃ 最終目的地へ到達する前にやられちまうぞ?」
イヤホンからハイケルの声が聞える
『…ライラ …するんだ』
マスターが言う
「ん?なんだって?」
【 皇居 外周 】
ハイケルが両手を握り締めて言う
「イライラするんだ… 早く…っ」
ハイケルが表情を怒らせて言う
「そいつを 殴り飛ばしてやらなければ 気が収まらんっ!」
イヤホンからマスターの僅かに動揺する声が聞える
『…っ ハイケル… 』
ハイケルがイヤホンを押さえて言う
「まだかっ!?」
イヤホンからマスターの声が届く
『ロックを解除する …良いかハイケル これだけは忘れるんじゃない ”決して殺すな” だ …行けっ!』
ハイケルの横で扉のロックが解除される ハイケルがドアを開け 突入する
【 皇居 女帝の間 】
軍曹が床に叩きつけられる 軍曹が苦しみながらも必死に立ち上がる ユラが顔を顰めて言う
「…何故だ?…何故未だに 許しを請わない?まさか まだ分かっていないとでも?」
軍曹が顔を上げユラを見て歯を食いしばって言う
「自分は…っ 自分は 神の兵士!守りの兵士であるっ!いくら殴られようともっ!決して負けないのであるっ!」
軍曹がユラの前に立つ ユラが呆気に取られた後 一度御簾を見てから笑いを抑え やがて押さえきれずに笑い出す
「…ははっ …ははははっ あっははははははっ!」
軍曹がムッとして言う
「何が可笑しいのだっ!?」
ユラが剣を構えて言う
「何が可笑しいかと?っはははっ 分からんのか?お前は子供か?まるで アールスローン戦記を信じる 子供の様な事を言う …神の兵士?お前が?ペジテの姫の 守りの兵士か?くっくっくっ…」
軍曹がムッとして構える 御簾の奥から女帝の声が届く
「 …ユラ 言葉を慎みなさい その方 わらわの剣であろう」
ユラが御簾へ畏まって言う
「はっ 不躾たる発言を 失礼致しました」
軍曹がユラを強い視線で見つめる ユラが軍曹へ向き 言う
「良かろう ヴォール・アーヴァイン お前の 盾としての覚悟 この私が最後まで見極めてくれる」
ユラが剣から鞘を外す 軍曹が驚き目を見開く ユラの剣が再三振るわれる 銀色の刀身に鮮血が舞う 軍曹が切られた傷を抑え膝を着く ユラが剣を振り上げ叫ぶ
「これで終わりだっ!死ねっ!ヴォール・アーヴァインッ!」
軍曹がユラを見上げ歯を食いしばってから 目を強く瞑って身を屈める 銃声が響く 軍曹の近くで甲高い金属音が鳴り 軍曹が驚いて顔を上げる ユラの剣が回転してすぐ近くの床に刺さる それを目で追ったユラと軍曹 軍曹が剣を見つめていると ユラが銃弾の来た方向へ向いて叫ぶ
「貴様っ 何者だっ!?」
軍曹がその言葉に驚いて顔を向け 目を丸くして言う
「…っ!しょ… 少佐ぁっ!?」
ハイケルが銃を放った状態でユラへ強い視線を向けて言う
「無抵抗な 私の仲間に 何をしている?」
ユラが床に刺さった剣を引き抜き 剣を振り払って言う
「…ふん なるほど?国防軍の兵士か 貴様こそ ここへ何をしに来た?ここは 貴様の様な下位の者が入って良い場所ではないっ!恐れ多くも 女帝陛下の御前であらされるぞっ!?」
ハイケルが一度軍曹を見てから銃を下ろし手を握り締めて怒りを押し殺して言う
「…知らんな そんな事っ」
ハイケルが銃を仕舞う 警備兵が大勢やって来て 武器を構える ユラが言う
「静まれっ!陛下の御前である 陛下へ武器を向けるなっ」
警備兵たちが困り武器を下げる ハイケルがユラの前に立ち言う
「お前が 陛下の剣だと聞いて わざわざ来てやったんだ 陛下がアールスローンの悪魔に頂いた 強き攻撃の兵士 …当然 国防軍の兵士などに 負けはしないのだろう?」
ハイケルがレイピアを抜く ユラが一瞬呆気に取られた後 ニヤリと笑んで言う
「…フッ 当然だ 陛下の剣である 私を 甘く見たか?武器を扱わぬ政府の者だと 高を括れば 痛い目に会うぞ?」
ユラが剣を構える ハイケルが微笑して言う
「そうか… それは 楽しみだ」
ハイケルがニヤリと笑む 軍曹が驚く ユラとハイケルが戦う ユラが追い込まれ ハイケルが突進する ハイケルがレイピアを振り上げ言う
「死ねーー!!」
警備兵たちが慌てて武器を構える 軍曹が慌てて叫ぶ
「少佐ぁーーっ!」
ハイケルのレイピアがユラの直前で止まる 軍曹が慌てて言う
「少佐っ それ以上は…っ!」
ユラが床に座した状態で ハイケルを見上げ怯えている ハイケルがゆっくり身を戻しレイピアを払い 御簾へ顔を向けて言う
「…陛下の剣は 朽ちていた様だ 盾が朽ちれば 剣も同じく …そうではあられませんか?陛下?」
御簾の奥から女帝の声が届く
「 …由々しきや その方の 申す事 正しきかな」
ユラが驚き御簾へ向いて言う
「陛下っ!?」
女帝が言う
「 ユラ・ロイム・ライデリア… わらわへの奉仕 大儀であった」
ユラが縋る様に言う
「お待ち下さい陛下っ!私は まだっ!」
御簾の奥からハープの音がポロンと鳴る ユラが目を丸くして言う
「そ… そんな…」
女帝が言う
「 わらわは願い ここにお頼みする… 我らアールスローンの神へ わらわの願いを聞き入れ ペジテの敵を 殺める 強き兵士を…」
再びハープの音がポロンと鳴る ハイケルが目を細める 軍曹が呆気に取られて周囲を見渡す ハイケルが軽く息を吐き言う
「軍曹」
軍曹がハッとして 慌てて敬礼して言う
「はっ!少佐っ!」
ハイケルがレイピアを鞘へ戻して言う
「帰還するぞ」
軍曹が一瞬呆気に取られる ハイケルが歩き出す 軍曹がゆっくり喜び笑顔で敬礼して言う
「はっ!了解でありますっ!少佐ぁー!」
軍曹が急いでハイケルを追う 警備兵たちが戸惑う中 ハイケルと軍曹が立ち去る 警備兵が言う
「…っ へ、陛下っ!?」
女帝が言う
「 平に謹みを…」
警備兵たちが女帝へ敬礼する 御簾の奥で女帝が見ている
【 国防軍レギスト駐屯地 訓練所 】
ハイケルの前に隊員たちが整列して言う
「通常訓練の3!終了致しました!」
ハイケルが言う
「よし… では」
隊員たちが息を飲む ハイケルが言う
「2人1組にて 実戦訓練を開始しろ」
隊員たちが焦る ハイケルが言う
「どうした 直ちに開始しろ」
隊員たちが慌てて返事をして開始する
【 マスターの店 】
マスターが新聞を見て言う
「う~ん…?うん!どうやら ちゃんと言い付けは守った様だな?昨日の死亡者リストに 皇居警備関係者の名前は無しっと…」
マスターが頷き コーヒーを淹れる 店の来客鈴が鳴り 老紳士が入って来て言う
「今日は営業されているのかな?マスター?」
マスターが微笑して言う
「いらっしゃいませ はい、営業しておりますよ」
老紳士が軽く頷いて言う
「うむ 結構、結構」
老紳士がカウンター席に座る マスターが言う
「ブレンドで?」
老紳士が微笑して言う
「ええ、いつものを 頂きましょう」
マスターが微笑して言う
「はい」
マスターが用意しているとTVでニュースがやっている キャスターが言う
『では、最初のニュースです 本日 陛下のお言葉の下 国家家臣の新たなる任命が行われました これにより 女帝陛下の下へは アールスローンの神から与えられた 守りの兵士 ハブロス家ご出身の ヴォール・アーヴァイン・防長閣下が そして アールスローンの悪魔から与えられた 攻撃の兵士 メイリス家ご出身の ラミリツ・エーメレス・攻長閣下が』
老紳士が言う
「ほっほっほ メイリス家の次男坊が 悪魔の兵士とは… 何とも 頼りない御時世になったものだ」
マスターが老紳士にコーヒーを出す 老紳士がコーヒーを飲む マスターがTVを一目見てから言う
「今までは アールスローン戦記にある 守りの兵士… ではなく アールスローン信書にある 親兵防長 と呼ばれていた筈ですが?」
老紳士が言う
「ええ… 国防軍と政府の立場が 逆になった 恐らく 政府と国防軍の間にあるとされている 主権が移動されたのでしょう… これにより 陛下はペジテの姫として アールスローン戦記を基にした法に則り 改めて任命声明を行ったと言う事です」
マスターが言う
「アールスローン戦記を基にした法…?」
老紳士が苦笑して言う
「一般の者にしてみれば 何も大して変わりはしません 国防軍がアールスローン戦記を信じ 政府がアールスローン真書を信じている …信仰の違いと言う事だけですよ」
マスターが苦笑して言う
「なるほど 科学が発達した今でこそ 信仰は自由になりましたが 一昔前までは その違いによって争いが起きるほどでしたからね 富裕層の方々にとっては 今も信仰は大切で 陛下が自分たちの信仰を 一緒に信じて下さるというのは きっと光栄な事なのでしょうね」
老紳士が苦笑して言う
「いやいや逆ですとも アールスローン戦記もアールスローン真書も 信じないのが 不自由の無い富裕層方です 自分たちを救ってくれる神や悪魔を信じるのは それら富裕層以外の権力や財力に乏しい者 …そして きっと神も 悪魔も その様なものにこそ 力を与えるのでしょう」
マスターが微笑して言う
「それは 素敵なお話を伺えました 私も早速 アールスローン戦記を読み返してみます」
老紳士が軽く笑って言う
「ほっほっほ マスターは アールスローン戦記を信じられますか?」
マスターが言う
「信じている… とまでは言い切られませんが アールスローン真書は 神の使いが良い者で 悪魔の使いは悪い者だと 決め付けているじゃないですか?私は… 神の使いも悪魔の使いも どちらも協力して戦う アールスローン戦記の方が きっとこの国を守られると思うのです」
老紳士が言う
「ふむふむ 確かに マスターの仰るのは 一般の者が知りえる アールスローン戦記とアールスローン真書ですな そのままであったなら きっと大した争いも起こらずに済むのでしょうが…」
マスターが呆気に取られて言う
「一般の者が知る それが 富裕層の方々の下では 異なると?」
老紳士が苦笑して言う
「いやいや 多少は変わろうとも やはり本気で信じている者は居りません ただ それが政治の道具として使われる事は 信仰の名の下には 悲しい事です 今回の事も アールスローン戦記を基にした法に則り 任命が行われました そうなればペジテの姫を守る2人の兵士は一対の者 この法の下にあっては これからは政府も容易に 自分たちの攻長を変更する事は出来なくなります その対応策として 長官任命を行える 攻長の座に 自分たちの意見を通せる 下位の者を置いた これが政府の策でしょう」
マスターが言う
「では 攻長は変わらずとも 政府の長官は変わる… 攻長と長官が別々の家の者になると言う事に?それは アールスローン史上 未だかつて無い事になりますが」
老紳士が言う
「それを起こさせない為に 攻長は防長へ救いを求めるでしょう これにより実現するのが 正に アールスローン戦記の通り 攻撃の兵士を 守りの兵士が守る 物語の通りと言う事です これが国防軍の策」
マスターが言う
「なるほど… 政府長官を任命できる攻長を助ける事で 政府長官を現状のままで居させ続ける… 即ち 政府の力を抑えると言う事ですね?」
老紳士がコーヒーを飲んでから言う
「…と言うのが 今までのアールスローンでした 今度はどうなのか… どちらになるとしろ 剣を押さえ盾を持って耐え続けるだけでは 平和は続きません 単なる信仰の違いだけなら 両者は今までも 相応に力を合わせて この国を守って来られたのですから」
マスターが一瞬間を置いてから苦笑して言う
「何か… 良からぬ裏でも 無いと良いですね?」
老紳士が言う
「ええ まったくです…」
老紳士がコーヒーを飲む マスターが考える
【 国防軍レギスト駐屯地 訓練所 】
隊員Aが右ストレートを炸裂させハッとして言う
「あっ!しまった…っ」
相方の隊員が倒れて言う
「降参~」
隊員が焦る ハイケルがやって来て言う
「よし、では この中で…」
隊員たちが次々に倒れる ハイケルが衝撃を受ける 隊員たちが言う
「自分は体力の限界でありますー」「自分も もう立っておられません~」「自分も ダウンでありますっ!」
ハイケルが呆気に取られて言う
「…おい」
遠くから軍曹の声が聞こえてくる
「少佐ぁーー!」
ハイケルが振り向くと 隊員たちが身を起こして声の方を見て 軍曹が走って来るのを見て喜んで言う
「軍曹?」「軍曹っ」「ヴォール軍曹だ!」
軍曹がハイケルの横へ立ち 敬礼して言う
「初出隊に遅刻を致しましてっ!真に 申し訳ありませんっ!少佐ぁ!」
ハイケルが言う
「体はもう 大丈夫なのか?」
軍曹が喜んで言う
「はっ!丈夫さだけが取り得でありますのでっ!大丈夫でありますっ!」
ハイケルが微笑して言う
「そうか …では お前たちへ改めて紹介する」
隊員たちが疑問する ハイケルが言う
「本日付で 我ら国防軍レギスト機動部隊の軍曹として入隊した アーヴァイン軍曹だ」
隊員たちが驚く 軍曹が笑んで敬礼して言う
「はっ!アーヴァイン軍曹でありますっ!宜しくお願い致しますっ!」
隊員たちが呆気に取られる
【 マスターの店 】
TV画面に 軍曹の写真が映されレポーターが言う
『…ヴォール・アーヴァイン・防長閣下とラミリツ・エーメレス・攻長閣下は 常に女帝陛下の 一対の盾と剣として 御傍に控えられており これにより 女帝陛下の身は アールスローンの神々から 与えられた兵士によって』
マスターが苦笑してPCを操作し終えて言う
「ふ~ん なるほど… 以前のヴォール・アーヴァインの名じゃ 国防軍の機動隊員には登録出来ないもんな 仕方なく今度はアーヴァインの名で登録か …にしても、富裕層に与えられる 3構想の名前を2構想まで落とす事だって 本来じゃあり得ない屈辱事だってのに 最下層を表すの1構想の名前で登録されて喜ぶとは …ホントに可笑しな国家家臣様だな?」
マスターが苦笑してコーヒーを飲む
【 国防軍レギスト駐屯地 訓練所 】
ハイケルが言う
「私の推薦で 軍曹の初軍階にて入隊を許しはしたが 私はお前を特別扱いはしない 部隊において遅刻は厳禁 罰として 訓練所周回100週を命じる」
軍曹が敬礼して言う
「はっ!申し訳ありませんっ!直ちに行って参りますっ!少佐ぁ!」
隊員たちが呆気に取られている ハイケルが隊員たちを見て言う
「共に」
隊員たちが驚く ハイケルが隊員達へ向き直って言う
「基礎訓練を終了した程度で 立っても居られなくなるとは お前たちは基礎体力がまるで足りない 体力強化の為 同じく 訓練所周回100週を命じる ただちに開始しろ」
隊員たちがショックを受けて言う
「え~…っ」「そ、そんなぁ~」
軍曹が言う
「どうしたぁー!?そんな事ではっ 少佐の率いるレギストとして情けないっ!自分に付いて来るのだぁーっ!」
軍曹が走り出す ハイケルが言う
「尚、軍曹から30メートル以上遅れた者は 私が直々に実戦訓練を…」
隊員たちが衝撃を受け慌てて軍曹を追いかけながら叫ぶ
「軍曹ーっ!」「軍曹ー!お願いしますーっお待ちをーっ!」「軍曹ーーっ!」
隊員たちが軍曹を追いかける ハイケルがそれを見て可笑しそうに笑む 軍曹が大喜びで走っている 隊員たちが必死に追いかけている
続く