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キミが消える未来(あした)から  作者: 秋桜
第一章『うんめーさん』
9/59

二人の天国

 

『用具室』を出て、その先の『学習室』を通り抜けると昨日見つけた女子生徒の制服と頭蓋骨。

 気休め程度にしかないけれど、手を合わせる。


「一階を探索しようにも昨日は反対側から現れた……今日も出ないとは限らない」

「でも、そうなると川岸さんが心配だよ。彼女の安否も大切だし……何より相手は」


 人間? 女の子? それとも……化け物(バケモノ)

 呼び方に困っているわけじゃない。

 では、ナニに困っている? 明らかに人ではないモノなのに。


「おい、大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫、それよりまだ調べてない場所もあるから調べようよ」


 真正面を向いて懐中電灯で辺りを照らす。

 このまま奥へ行けば、階段と右側に教室があって行き止まり。

 階段は後回しにして右側の教室『職員室』に入った。

 十人ほど座れる椅子と机、左奥に同じく二つ。

 窓際に置かれた花瓶の花は当然、枯れていた。


 ────ん? 枯れてるにしては、水が明らかに新しい。


 花弁に触れるだけでもパラパラと崩れてしまいそうな枯れた花の水を取り替えるのは至難の業と言える。


 ────他のところを探そう。


 机の中や引き出しにはめぼしいものはなく、それ以外の場所を探しているとカーテンの下に日記の1ページがあった。


『五月十四日・曇り


 今日、……とチョコレートを食べた。

 とっても甘くてほろ苦い味がした。

 親から離れて、学校から解放されて嬉しい。

 このままずっと二人、一緒にいたいなぁ』


 この文章を見る限りだと、一般的に見れば現実逃避のため旧校舎に、と思われる……けど。

 二人にとっての誰にも邪魔されない場所がこの旧校舎で……()()()()()()()


 左奥の机を調べていた樹から声がかかった。


「千乃、こっちにこんなものがあった」


 持ってきたものは、少し汚れた花柄の髪留め。

 何の花なのかはわからないけど、この汚れ……妙に茶色く濁っているように見える。


 ……まるで、誰かの()()のようだ。


「日記の1ページが見つかった。あと、見て欲しい部分があるんだけど……」


 樹に見せると、納得したかのように頷く。


「けど、なんで旧校舎なんかに」

「誰にも邪魔されない場所がもしかしたら、ここにあったのかも。あくまでも推測だがな」


 この旧校舎のどこか……二人が心中を謀った(はかった)場所。

 たぶん、そこに行けば何かわかるかもしれない。


『職員室』を出て、二階に続く階段を上った。


 ♢


 階段を上り切った途端、臭いがさらに強くなった。

 臭いの元が近いのか……凄い立ち眩みが襲ってくる。


「すごい、これ……」


 隣に立っている樹もさすがにこの臭いにはお手上げなのか、苦い顔をしていた。

 念のためバックから小包のチョコレートをポケットにいくつか忍ばせておく。

 もし、鉢合わせでもしたら……逃げ切る自信がない。


 とりあえず臭いから逃げるため、すぐ右側の『第二学習室』に入った。

 一階にあった『学習室』と同じ並べ方だが……一つだけ違うものがあると暗がりでもわかった。

 日陰なため、バックから懐中電灯を取り出して灯りを点けると、


「……ッ!?」


 足元から崩れていく。

 腰に力が入らなくなり、目の前の光景に頭を中が真っ白に塗り潰される。

 両手で口元を抑えて、喉の奥から出ようとする言葉と嗚咽を堪える。


 真面目な感じというか、生真面目を形にしたとてもいい女の子で……


『忘れ物を取りに来たので』


 明後日の方向に目は向いていて、涙が頰を伝っていて懐中電灯の光に若干の反射。


『有り難く頂戴します』


 首元から下にかけて制服を赤く染め上げていて────



 ─────川岸さんが、死んでいた。



 もし、一緒に行動していれば死ななかった?


 もし、引き止めれていれば死ななかった?


「なんでッ……なんで……ッ!?」


 大声は出してはいけない……気づかれてしまう。

 涙を拭え、僕は(お前は)()()()()()()()繰り返した。

 ────ここで惨めに泣くくらいなら、行動しろ。


「ぐっ……ゔぅッ……!」


 必死に声を堪えて、なんとか立ち上がる。

 袖口で涙を拭い、川岸さんの遺体の元に。


「……千乃、その、我慢しなくても俺が」

「大丈夫、だよ……」


 最早、一刻も早くこの問題を解決しないといけない。

 使命感というよりも、償いの気持ちでいっぱいだった。

 スカートのポケットからは会ったとき見た旧校舎の鍵とその他の束……それと、赤く染まってしまったハンカチ。それ以外はもう調べる気にはなれない。


「……ごめんなさい、川岸さん」


 再び会うことがこんな再会になったこと。

 強引にでも、帰らせるべきだったこと。

 自己満足でしかない己の謝罪に、堪えきれない怒りを覚えた。


 ……後ろを振り返ると樹が両手に一枚の紙を握っていた。

 破れてしまいそうなほどの力を込めていて、僕が見ていることに気づいた樹は紙を渡すと、


「俺はお前と同じ気持ちだ」


 と言って、後ろを向いてしまった。

 受け取った紙を読むと、力一杯に右の拳を握りしめた。


『五月十五日・雨


 私たちを引き裂こうと現れた邪魔な奴ら。

 だけど、占いを見ればわかる。


 こんな奴ら……()()()()()()()()()


 ねぇ、桂香』

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