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キミが消える未来(あした)から  作者: 秋桜
最終章『missin』
58/59

missin『g』

 

「僕は……殺さ────」


 ────それでいいの? 

 『黒兎』(この子)を殺さないでいいの?

 お姉ちゃんや樹に優衣さんに至るまでに人を巻き込んでそれでも尚、自分だけ助かろうとしてる。

 それでも、助けたい? 救いたい?


「違う、僕は」


 この子を殺しても、お姉ちゃんが帰ってくるわけじゃない。消えないわけじゃない。

 巻き込まれた人たちや死んでしまった人の無念も晴れるわけでもないなら、いっそのこと────。


「違う! 違う違う違う!!」


 そうやって(おまえ)が迷う間にもお姉ちゃんは傷ついてる。

 焦って何も出ない、考えても何も思いつかない。

 ゆっくり考えている間にもお姉ちゃんは消える以上に死が迫っているというのに。

 大好きなお姉ちゃんのためなら、できるだろう?


「違うっ、違ッ……!?」

「そうやってお前は悩んでいればいいさ、哀れな()()()()()


 頭の中で何か細い糸がプツッ、と弾けて切れた。


「……お前が、お前がお姉ちゃんを語るな!!」


 ────理性もなく歯止めもなくただ(お前)が容赦なく包丁を握りしめて、ただ振り下ろすのを僕が意識を無くすまでずっと見ていた。


 ♢


 ざわざわと周りが騒がしく、誰かが走る足音も聞こえる。

 扉を開閉する音、今日の課題の話をする話し声。

 とても眠くて腕を枕にして寝ているのに全く眠れる気がしない。

 何か思い出さないといけないのに。

 何かするべきことがあったはずなのに。

 ただ今はひたすらに眠っていたいと願うばかり。


「ユキちゃん」


 この後の授業は確か、数学で小テスト。

 範囲は昨日初めて習ったところから出てくるから、尚更覚えていないと大変。

 さらに授業中に眠っていたら指名されるに違いない。

 頭の中がぐちゃぐちゃになっていてなんだか憂鬱な気分なのに、誰だろうこの声は。


「もうっ、ユキちゃん! そろそろ授業だよ!」

「……んぅぅ……ん? 優衣、さん?」


 眠気がまだ残る目を擦りながら教室の時計を見る。

 次の授業まで残りおよそ五分。

 優衣さんが僕を起こすってことは、ノートでも写してもらおうとしているのかな。

 ────あれ? でも、優衣さんはあの時……。

 霞がかかったようにぼやけていて鮮明に思い出せない記憶。きっと、()()()()()()()かな。


「どうしたの?」

「うーん、なんだか上手く思い出せない。大切なことのようで大事なことなのに、あんまりわからない。それに、優衣さんが夢の中に出てきた」

「え!? 私がユキちゃんの夢の中に!? もうっ、そんなこと言っても何も出ないからね!」

「本当のことなんだけど、思い出せないんだ」

「────思い出せなくたっていいことはあるんだから、それでいいんだよ。ユキちゃん」

「なんか、言った?」

「ううん、それよりも! ノート見せて! 今日小テストだからさ……」


 学校、なのかな。ここは学校で、僕は高校生。

 ()()()()()()三嶋優衣さん。

 左右にぶら下げた綺麗な黒髪のツインテールと若干の幼さが残る童顔はとても可愛らしい。

 いつも元気いっぱいで明るい雰囲気の持ち主。

 よく授業前にはノートを見せて、次の課題なんだっけと日常茶飯事。

 そこもなんだか面白くて怒る気にもなれない。


「そういえば、樹は?」

「神崎君? なんか今日は朝から苦手な英語だからって隣の教室で唸ってたよ」

「英語か〜、僕も苦手だな〜。読み方とか意味とか、それ以前に読みにくいからわからない」

「ほほう、ユキちゃんにも苦手分野があるのですな! これは私が有利かもしれませんね!」

「優衣さん、英語得意なの?」

「勿論だよ! 例えば────`you only me’」

「な、なんて? 発音良すぎてわからない」

「秘密だよ〜! だって────」


『────あなたは私だけ、なんだから』


 英語得意なのは意外だけど、ここまで発音良いとなると負けていらないかな。

 樹に今度優衣さんが得意なの教えてあげないと。

 むしろ、英語得意なら数学も同じ感じな気がするのに逆にわからない。


「それより、写さないでいいの? そろそろ始まるけど」

「なんとか写してみる! ユキちゃん貸して!」

「もし間に合わなくても、また図書室で教えるよ」

「ありがとう! ユキちゃん! 大好き!」

「それは一言余計だよ。早く書かないと」


 どこか悲しい思いをしていて、それを助けたいとしていた気がするのに何も思い出せない。

 それこそ僕が英語を苦手とするように。

 あともう一つだけ夢に出ていたことがある。


 それは、僕が────お姉ちゃんを殺していた。


 ♢


 ここはとある廃ビル内に位置する部屋の一つ。

 暗くて光も届かず、隙間風からの冷たさ。

 室内に充満しているのは血生臭さを超える腐敗臭とも取れる臭い。

 部屋の右には白いベッドに座る男の変わり果てた姿で左手を伝って床に一滴、また一滴と赤い雫が落ちていく。

 その男の顔は絶望していて暗く冷たく、どこか優しい夢を見ているかのように安らかで。

 右手には赤いダイヤが嵌められた指輪が握られていてその内側がこちらからでもよく読める。


『you only me』


 誰かに送るはずだったのか、それとも外したのか。

 それを知るのは、missing(誰もいない)

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