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キミが消える未来(あした)から  作者: 秋桜
最終章『missin』
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壊れた兎

 

 ────幾重にも頭の中で響く親の声。

 起きている時も、寝ている時も、食事をする時も。

 いつでも聞こえる親の声は最早、呪縛に等しい。

 だから────。



 家のリビングだろうか、テーブルと四人分の椅子。

 テーブルの右にある台にテレビ、来客用のソファー。

 キッチンにはエプロンをかけた女性、椅子には男性が座って足を組んでいる。

 誰かの母親と父親、もしくは記憶の一片?

 観葉植物が置かれた隅には用紙一杯になったゴミ箱。

 その用紙は数学のテスト用紙で高得点、花丸もついている。


『父さん! 学校のテストで一位なったよ!』


 リビングへ駆け出してきたのは、小さな女の子。

 赤いランドセルが楽しげに揺れていて女の子の表情も心なしかニンマリと嬉しそうに笑っている。


『だから、なんだと言うのだ。一度のみならず持続して一位にならないでどうする。医者の娘が聞いて呆れる』

『……ごめんなさい』


 父さんと呼ばれた男性は新聞を乱雑に床へ叩きつけてリビングを出て行く。

 女の子はすっかり元気を無くしてしまい、今にも泣き出してしまいそうなほど。

 キッチンにいた女性もチラッと見るが、そのまま作業に戻る。


「父さんに褒めてほしくてお小遣いで買ったノートも全部使って頑張った。それなのに褒めてくれなかった」


 いつのまにか隣に立っていたのはさっきの女の子。

 雰囲気や服装からは普通の子どものように思える。

 だけど、不思議とその姿に身体が震える。


「それからも必死になって努力した。風邪や寝込もうが関係ない、頑張ってきた────なのに」


 明るいリビングにテーブル越しで父親と母親、その母親の隣に座るのは()()()()()()

 先程の暗い表情とは違い、満面の笑みを浮かべる二人と女の子。

 その中心には、数字の形をした蝋燭が二本刺さっている苺のホールケーキ。

 テーブルの椅子に座っている女の子の誕生日を祝っている最中というところなのか。


『ハッピーバースデー、トゥーユー! ハッピーバースデー、ディア()()! ハッピーバースデートゥーユー! おめでとう!! 千紗!』


 千紗? どこか聞き覚えのある名前。

 千紗、千紗────あっ! ()()()()!?

 でも、あの隠し部屋で死んでいたのは父親。

 母親は殺されたと言っていたけど、こんなに仲が良いとは日記のページには書いてなかった。

 じゃあ二人を殺したのは、


「父さんと母さんに実子が出来た。私の妹で名前は千紗。出来の悪い私より優れた妹、しかも本当の子どもでいつも甘やかしていたのは千紗だった。いつも怒鳴る父さんもそれを黙って傍観してる母さんも、千紗には優しかった。────だから、()()()


 場面が変わり、明るさがほとんどない部屋で足元にランタンが置いてある。

 目の前には母親と思える女性の変わり果てた死体。

 首元から胸元、両腕に至るまで刺された跡が残っている。

 恐る恐るさっきの女の子が立っていた左側を見ると右手には包丁が握られていて赤い雫が一つ、また一つと床へ落ちていた。

 ガサガサになった髪に白いワンピースはかろうじて形を保っているけど赤黒く汚れている。

 細い手足は土で汚れ、顔には痣も見える。

 瞳は血走っていて呼吸も荒くなっていてその背後には腰を抜かした千紗さん。


「お、お姉ちゃん? お、お母さんは?」

「……ふぅ、ふぅ、ふふははは……あははは!」

「ヒィっ!?」

「母さんはね、母さんはね……クヒヒヒ! 死んじゃったよ〜? 私は悪い子、お前は良い子。じゃあ、教えてよ────なんで私が死なないといけないの? 私より頭が良い、私より優れてる、私より父さんと母さんに好かれる可愛い千紗。私より出来の良い妹! あははは! あははは!! ふざけんなッ!!」


 後退る千紗さんに一歩ずつ近づいていく女の子。

 情緒不安定というよりも壊れている。

 溜め込んできたストレスや不満、自分よりも優れた妹に対する劣等感。

 ただ実子という違い、愛情を充分に与えられなかった差が無ければ普通の姉妹になれたのに。


「お前に何がわかる!? 生まれたときから異常者だと言われ、親や周りには拒絶をされて……暗い牢獄に一人きり。与えられる食事は冷たくて、毎日が寒かった。壁越しでも聞こえる、今でも聞こえる!! 忌々しいあの親たちの声が!!」

「だからって……わ、私は……」

「殺して何が悪い? 私を心中相手に選ぼうとした母親、私が生まれたことへの劣情を抱いた父親、何も与えられなかったから殺して何が悪い!? ただ、ただ────愛して欲しかった、それだけなのに」


 頭を抱える女の子の目元から涙の川が流れる。

 どうして、と震える声で泣いてる女の子は赤く染まった手で必死に涙を拭う。

 恐怖に怯えながらも姉を呼ぶ千紗さんは近づいていく。


「従順に従え? 出来の悪い子ども? だったら、いっそのこと殺して欲しかったッ!!」

「……ごめんなさい、お姉ちゃん。私からもお父さんに謝るから、一緒に謝ろう? ねぇ?」


 ゆっくりと近づいていき、女の子を抱きしめる千紗さん。

 泣き止まない女の子に対して優しく落ち着かせるように「大丈夫だよ」と声を掛ける。


「千紗」

「なーに?」

「私ね────謝る気、ないんだよね」

「えっ───────」


 千紗さんが視線を下に向ける。

 自分のお腹に深く刺された包丁。

 抱きしめている相手の顔は────満面の笑みを浮かべていて、一気に抜き取る。

 その場に刺された箇所を抑えながら見上げる千紗さんに対して女の子は、


「謝ったって何も変わらないよ、あの男は。だから殺さないと気が済まないの。父さんも、母さんも、勿論、千紗もだーいすき。だから────死んでよ」


 容赦なく包丁の切っ先を振り下ろした。

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