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キミが消える未来(あした)から  作者: 秋桜
最終章『missin』
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残された道

 

 ピタッと先ほどまでの笑みが凍りつく。

 真顔になったかと思いきや、ため息を吐いて再び笑い始める。


「……はぁ、遅すぎ。私の正体に気づくのに対して時間かからないはずなのに、お前たちはホントに愚かな人形だよ」


 みなみさんを殺したのは『黒兎』。

 どうやって殺したのかわからなかったけど、今になって思えば簡単だった。

 みなみさんは()()()()()()()

 旧校舎前で初めて知り合ったにしては警戒心がなさすぎて、先輩という名目でも不審。

 さらには口止め料と思われやすい小包のチョコレートを受け取るはずもない。

 湊さんに対しても厳しいみなみさんが僕から渡されたのを強引にでも払い退けてもおかしくなかった。

 何より、双子の妹の湊さんから疑われるのを避けるため。


「姉だの、弟だのと聞き飽きた。お前たちはここで必ず消してやる。その前にユきの、もう一度、夢を見ル気はないか? サい後の忠告だ。ナかなくても済む、イ心地良い世界を見る気はないか?」

「嫌だ」

「────そうか、残念だ」


 突然『黒兎』の姿が異形へと変わっていく。

 口元は三日月を描いたように歪み、目は血走っていて身体は猫背になり丸くなる。

 整っていた服装はよりボロく布切れのように、足は素足で泥がかかったように汚れている。

 最早、真面に視界を見ることすら不可能なほどに目は蠢き焦点すら合っていない。

 片手には変色した包丁が力強く握られている。


「千乃、下がってて。私が合図したら────」

『こ、ココココロ殺殺殺殺シ、殺シ、殺シテヤルッ!!』


 目の前に迫ってきた『黒兎』。

 距離を詰められ焦る僕にお姉ちゃんが廊下のほうへ突き飛ばす。


「痛っ……あっ!? お姉ちゃんッ!?」


 下品な笑い声を上げてお姉ちゃんの上に馬乗りになると、思いきり振り下ろす。

 寸前のところで避けるも頰に赤い線が出来上がる。

 床に深く刺さろうとも物ともせず、力任せに包丁を振り翳す。

 お姉ちゃんは隙を見て『黒兎』を突き飛ばし、距離を取る。


「この家のどこかに『黒兎』の────ッ!?」

『キサマらに何ガワカルぅぅ────ッ!!』

「早く行って! こいつは私が!」


 この家のどこかに『黒兎』に関するものなんて。

 ────否、脳裏に浮かんだのは南京錠で施錠された四角い箱のようなもの。

 あの人の部屋で見つけてそのままのはず。

 ならば、記憶が確かならきっと机の下にある。

 二階への階段を駆け上がっていき、あの部屋の扉を開ける。


「ここに、この机の下に……あった!」


 南京錠で施錠された四角い箱のようなもの。

 左右どこから見ても真正面以外の開閉口はなく、中身も音がしない。

 たぶん、お姉ちゃんが言ったものはこの中身なんだ。

 でも、この南京錠を開ける鍵が見つかってない。

 僕の部屋? いや、そんなわかりやすい場所には隠したりしない。

 一階の部屋は? 今お姉ちゃんが『黒兎』を足止めしてる、むしろ迷惑になる。


「じゃあ、他に鍵をどこに隠して────」


 プルルルッ! プルルルッ!


 スカートのポケットにしまっていた黒い携帯が鳴り響く。

 こんな大事な時に限って電話してくるとはなんとも不謹慎ではあるけれど、何故か手に持ってしまう。

 またいつもと同じく聞こえてくるのはノイズ混じり。

 怒りもピークになりそうになった僕は思い切って携帯を振り上げた。


『聞こえる? おーい、聞こえてますか?』


 電話越しに聞こえたのは、どこか懐かしくて()()()聞いていた誰かの声。

 頭の中が真っ白になってキーンと冷えていく。


「だ、誰、なんですか?」

『今はそんな話してる場合じゃない。一度しか言わないからちゃんと聞いて。その箱を開ければ『黒兎』を倒せる手段がある。でも、その代わりに誰かがこの世界を()()()()()いけない────誰かが本当に()()()()()いけない。正真正銘の消滅を意味する』

「消えないと、いけない?」

『今、ナツキは隣にいる? あの子は伝えてないだろうけど────()()()が消えようとしてる』


 お姉ちゃんが消える? 

 どうしてそんな大事なことを隠して……。

 やっと、やっとまた会えたのに。

 どうして、また居なくなっちゃうの。

『黒兎』を倒すためには箱を開けるしかない。

 でも、そうしたらお姉ちゃんが消えちゃう。

 もう二度と会えない────永遠に。


『残酷だけど、時間はあまり残されていないの』


 ────プツッ……ツーッ、ツーッ……


「箱を開けたら、お姉ちゃんが消えちゃう。でも、開けないとお姉ちゃんが死んじゃう」


 どっちの道を選ぼうとも結末が変わらない。

 このままにすればお姉ちゃんが死んでしまう。

 箱を開けて倒したとしても、お姉ちゃんが消えちゃう。

 鍵だって見つけてないのに……鍵?


「もしかして……」


 いつもサイドテールを作るために使い、肌身離さず持っていた淡い緑色のシュシュを外す。

 サラサラと髪が揺れると同時に床へ金属音が響く。

 百円玉にも満たない小さな鍵。

 たぶん、これが南京錠の鍵であり最後の選択。

 ゆっくりと鍵穴に向かって差し込み、右に回して南京錠が床に落ちる。


「ごめんね、お姉ちゃん」


 届かぬ想いを込めて箱を開くことにした。

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