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キミが消える未来(あした)から  作者: 秋桜
第四章『宵闇駅』
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おかえりなさい

 

『宵闇駅』と書かれた看板とやや壊れかけで整備されていない駅のホーム。

 電車は勿論、外の景色は暗い。

 改札口へと続く階段の先も何が出て来るかわからない恐怖に足を止めてしまう。

 僕が降りたのを確認したのか、電車はそのまま左方向へと発車した。

 唯一の明るさとも言える外灯もホームと線路内、薄らと反対側が見える程度。

 リュックサックにしまっていた懐中電灯を取り出して右手で持つ。

 まずホームのコンクリートの床を照らしてみる。

 普通の駅のホームと変わらないけど、どこかからか滲み出てくる何かに身体が恐怖する。

 周囲を確認するように歩いてみるとガラス張りの広告板に大きく貼り出されたポスターが一枚。


『宵闇駅へようこそ 切符は忘れずに』


 その下に左右の矢印で左は忘却、右は追憶と書かれている。案内ポスターにしては質素だと思うが、これはこれでどこか不気味と思えてくる。

 忘却と追憶、何か意味があるのかな?


忘れ物(おもいで)を取りに行くなら、左へ行こう。追憶(ほんとう)を知りたいなら右へお行き』

「……ッ!?」


 風が通り抜けて行くように声は右から左へと消えていく。子どもの声? でも、子どもの声にしてはやけに落ち着いている声だった。

 どうする? 左か、右か。どちらから行く?


 ────────千乃


「樹?」


 ────────千乃


「どこ? どこなの? 樹ッ!」


 反響する僕の声だけが駅のホームに響く。

 当然、誰にも届かない声。虚しさだけが心に残る。

 数少ない手掛かりを頼りにここまで来たのに、無駄足だったのかな。諦めたくない。

 探索を進めよう。あまり暗くなるのは得策とは言えないから。

 ゴミ箱、ベンチ、線路内と探しても何も見つからないどころか何もない。

 行き場のない苛立ちだけが湧き出て来る。

 どうしようもない不甲斐なさ、これじゃここに来た意味すらないようなもの。

 やっぱり行くしかないのかな。

 意を決して()()()階段を降りていく。

 さっきの声は左は忘れ物のことを思い出と言った、ならこの先にあるのは一体なんなのか。

 確かな根拠すらない僕の考えを僕が一番、今疑っているというのに。

 左側の改札口へと続く階段を下へと降りていくと、中学生の時の通学路が広がっていた。

 後ろを振り返っても急な斜めの坂で、さっきまであった階段すらない。


「えっ? なんで、この場所に?」

『……はぁ、今日の夕飯どうしようかな』

「僕!? えっ!? どういうこと!?」


 中学校の校門から出てきたのは当時の姿の僕。

 ぶつぶつと独り言を呟いていたあの時を今こうして見ていると少し恥ずかしい。

 見ている僕からしたらすごくおかしな風景だけど、確かこの時にはもう樹と出会ってたんじゃないかな。

 上り坂を上がって……そうそう、お地蔵さまのところで……あれ? なんでスルーしちゃうのさ。

 もしかして、樹が先に帰ったとか? それはない。

 樹はああ見えて時間は守るし、前もって連絡はするから。

 でも、樹の姿が一向に見えないまま当時の僕はそのまま帰路を歩いて行った。


「樹が連絡なしに帰るなんてなかった。どういうことなの?」


 樹と最初に話した坂の上にあるお地蔵さま前まで歩いていくと、その隣に花束が置いてあった。

 お地蔵さまの足元には二つ花瓶があるのに対して、隣に花束を置く理由とは?

 他にはカメラ、缶ジュースにお菓子、雑誌など。

 まるで()()()()()()()()()()()()()


『左は忘れ物(おもいで)を取りに行こう。そこにはあなたが忘れてしまったものがそこにある、たとえなんであろうと』

「……ッ!?」


 風が吹き抜けるような声が静かに通り過ぎる。

 同時に、背後からの気配に振り返ると駅のホームに僕は立っていた。

 さっき見た光景といい、突然のことで頭の整理が追いつかない。結局、樹はどこに行ったの?


「今度は右側に行ってみよう」


 考えるのを後にして、懐中電灯の明かりを頼りに右側の階段を降りていく。

 こっちも別の改札口へのだとすると今度は何を見ることになるのか。


『ゆ、ユキちゃん、い、一緒にご飯食べよ?』

『……いいよ』


 教室の窓際から二番目の席で、普段とは違ってオドオドしている優衣さんとややご機嫌斜めの僕。

 いつもなら強引に来るのに、少し違う雰囲気。


『あ、あの、さ……こ、今度、一緒に』

『……なんでそんなに僕にこだわるの? 同じ同性の友達連れて行きなよ』

『そ、その、私みたいのじゃ、みんな気持ち悪いって言ってきて』


「優衣さんはいつもなら明るくて隣のクラスとも仲良くできる普通の人で、最近では那月とも仲良くなってたから」


 だから、と言ってもそれが追憶(ほんとう)とは限らない。だが、少なくともこれが本当なら。

 今の僕とこの僕は、どうして違うの?

 もしかして────僕が……なの?


 ────やっと


 ────わかってくれたね


「誰? 誰なの!? 僕に一体、何を見させているの!?」


 ────思い出してくれた?


 ────お兄ちゃん


「だから何を……ッ!?」


 目の前に現れたのは、小さな女の子。

 白いワンピースを身に纏っていて片手にぶら下げているのは、ぼろぼろになった兎のぬいぐるみ。

 所々から綿や縫い目が剥き出しになっているの対して女の子の衣服は真っ白、一切汚れてすらいない。


『おかえりなさい、お兄ちゃん』


 笑顔なのに女の子の顔は一切、笑ってなどいなかった。


 ♢


 残すところあと少し、というところなのですがここで一つ確認を。

 我らが主人公である久遠 千乃。彼が何故女装をし始めたのかはいつぞやにて語らせていただきます故、それ以上に最も重要なことをお忘れではありませんか?

 えっ? 回りくどくてめんどくさい?

 そんなことは言わずにお聞き願いたい。

 だって、とても重要なことを二つほど述べさせていただかなければ次回の話にはついていけない。

 これは大きく出過ぎかと思いますが、さほどではありませんので。


 さて、一つ目は『幻の駅』。

 名前は申し上げなくてもご理解なされているご様子。話が早くて助かります。

 これは、皆さまがよーく見ると────あら不思議と思えるものです。


 そして、二つ目は『噂』でございます

 噂だけだって? いえいえ、そんなことはありませんとも。詳細を話させていただきますと楽しめないと思いますので省略します。

 もしかしたら、お気づきの方もいらっしゃると思いますが他言無用でお願いします。

 ぜひとも皆さまには発見、及び考察して各々の真相に導いていただけたら幸いでございます。

 誰が広めて、誰がそれを教えて、『噂』を形にしたのか。それも見つけていただけたらより一層……。


 では、引き続き第四章をお楽しみくださいませ。

 きっと、()()()()()が終わる頃には。

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