真偽
夏休みが終わるまで残り三日と迫ってきていた。
学校の課題は終わらせてあるため『シホちゃん』のことに集中はできる。
けど、手掛かりとしてまずはその『手紙』がなければ『幻の駅』というのにも行けない。
そうでなければ、止める手段も見つからない。
考えていても無駄なのはわかっている。
何か他に情報が欲しい。何か────あっ。
真冬お姉ちゃんの持っていた新聞ファイルなら、あるかもしれない。
セーラー服に身を包み、お気に入りの淡い緑色のシュシュでサイドテールを作って早速、真冬お姉ちゃんの部屋へ。
僕の部屋が階段から右側奥に対して、真冬お姉ちゃんの部屋は反対側の左側奥。
那月の部屋は僕の部屋から出て左側にある、なんでも荷物が多いためこっちしか空いてなかったらしい。
あまり部屋には入ったことなんてないから、本人が見たらきっと怒るんだろうな。また、会いたいな。
体調こそまだ優れてはいないけど、足取りは軽い。
ゆっくりと歩いて行くと真冬お姉ちゃんの部屋の扉前に立つ。
「入るよ、真冬お姉ちゃん」
溢れ出そうになる涙を堪える。唇を噛み締めて。
それこそ、怒られる。泣いたってしょうがない。
扉を開けると埃が軽く舞うけど、気にしない。
手で埃を払って室内に入ると足元には新聞紙やメモ用紙やらで散らかっていた。
急いでいたのか、やたら年代や日にちがバラバラ。
右側にはベッド、左側には机と本棚。
「ちゃんと片付けないと、あれ?」
その内の一枚のメモ用紙が気になった。
無駄に余白が多い、というよりもほとんど書かれていないのが正しいのかな。
意を決して表向きにひっくり返してみる。
『神崎樹+三嶋優衣+立花真冬+S=?』
────S? Sって誰かのイニシャル?
もしくは何かの暗号? でも、それよりも──。
なんで、樹と優衣さんのことを知ってるんだ?
僕は一度も樹のことを話したことはない。
家に泊まっていたのも真冬お姉ちゃんは知らない。
さらに言えば、優衣さんだって高校生になってから。
どういうこと? 話したこともないはずなのに。
「そういえば、真冬お姉ちゃんの仕事なんて聞いたこともなかった」
気にならなかった、ではなく聞くことがなかった。
話せる話題が勉強か樹のオカルト話、たまに料理などで……アレ、誰ニ?
「川岸湊さんとだって少なくとも、夏休み中で連絡取れないだけでちゃんと学校でも会える。そうだよ、何を疑ってるんだろう、僕は」
そうでなければおかしい。否、そうでなければ。
落ち着かないと、落ち着かないと。
新聞紙、そうだ新聞紙! 『シホちゃん』のことについて何か情報が欲しい。
まるで何かから逃げるように僕は漁り出す。
片付けるのが当初の目的になりつつあったのに、今となっては悪化させる始末。
「『連続失踪事件』。文月さんが見せてくれた新聞紙と同じ内容。でも、こっちのほうが断然情報が多い気がする」
同じ内容の新聞紙を漁って探していると、三枚出てきた。
その内の一枚にはなんと『シホちゃん』の話題が掲載されていた。
やはり年月が経っているせいか、読みづらいけれどこればかりは仕方がない。
『『シホちゃん』と呼ばれる子どもが突然、現れて手紙を渡して来る。内容は『ほ し い も の あ る?』と』
さらに続きには、幻の駅についての説明書きがされていた。
『幻の駅、それは『シホちゃん』が死んだ場所。何故駅なのか、何故欲しいものを聞くのか、判明できず。
────ただ、一つ。ここで忠告をしておこう。
その駅から帰る方法は『シホちゃん』が納得しないと帰れない』
それ以降は、茶色く変色してしまっていて読めない。
この内容だけでも十分すぎる。
でも、肝心の白い手紙という話題が一切なかった。
やはり文月さんの言う通り、別の人間が書いているかなんだけど実際に会わないと成立しない。
「あとは、どう幻の駅に行くか」
手紙が必要なのか、願いを伝えなければなのか。
前者は真偽の疑いがあって、後者の場合では危険がある。
仮に願いを伝えたとしても三日後に代償として取られてしまう。さらに四日目に駅へ向かうのなら尚更。
「ああ〜、もうっ! どうしたらいいのかな」
不意に机の下にあった何かに気がつく。
四角いようでなんだか不思議なもの。
本人からの許可を得ないといけないのに、好奇心が勝って罪悪感なんて後回しに。
その何かを手に取ってみると、それは小さな箱。
鍵のかかった立派な錠前がぶら下がっていて、当然開けることはできない。
錠前は暗証番号とは違い、鍵式で南京錠。
小さな箱に入るものといえば限られてくる。
だが、これ以上は個人のプライバシーに反する。
「でも、どこかで見覚えのある箱なんだけど」
物探しを行いに来たわけではないので、あった場所に戻しておく。
夏休みの最後日くらいには全部片付けてしまわないといけないから、その時までは。
知りたい情報と足元の片付けを終えて部屋を後にした。
♢
数分後、文月さんと連絡を取るため自室に戻った僕はわかった情報をそのまま話した。
『なるほどな、一応納得できる話だ。だが、まだ確信には至れない。俺の息子がどうであれ、早いところ探さないとそろそろ、我慢の限界だぜ』
「でも、まだ納得できないんです。」
『居なくなった学生たちが渡された手紙を持っていて、数日後、連れてかれた。家に帰っているという話も聞かない、帰宅途中が大体だと』
「もう一回会えませんか? 見てもらいたい資料もあるので」
『わかった。合流先は『夜見井屋駅』でな』
プルルルッ! プルルルッ!
「ちょっと待っててください」
『おう』
文月さんとの電話が繋がったままのスマホを床に、黒い携帯をリュックサックの中から取り出す。
やはり、というよりも慣れてしまった。
スマホとは違う着信音で相変わらずの非通知。
そして、耳に当てればノイズ混じりの一方的な声。
『……よ、み……か……た……か、え……』
プツッ────ツーッ、ツーッ
それだけ呟くとそのまま切られる。
読み方? かえ? どういうこと?
『どうした?』
「ああ、いいえ。なんでもないです。それよりも、一つ知りたいんですけど」
『なんだ?』
「『シホちゃん』があの町で殺されたのに、死んだ場所だったからなんでしょうか? あの町、のほうがぼやかしているように聞こえるのに『場所』だと断定的に聞こえて」
『それがな、そうでもなさそうなんだ』
「え? どういうことなんですか?」
『『シホちゃん』は確かにあの町に殺された。だが今回の出来事に断定できることが一つあった。今年、行方不明になった学生たちの共通点が『夜見井屋駅』だったんだ』
詳しいことは会ってから話すと一方的に切られる。
確かに僕が優衣さんと降りた場所もあの駅。
調べてないところがまだあるとするのかな。




