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キミが消える未来(あした)から  作者: 秋桜
第四章『宵闇駅』
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白い手紙

 

 真冬お姉ちゃんの通夜と葬儀は那月と二人で行い、お互いに何も喋らず何も話すことなく終えた。

 那月は遠慮して言葉の一つも話さず、ただ付き添ってくれた。きっと、気を遣っているんだろう。

 ────残すところ夏休みはあと一週間。

 那月と一緒に残りの休日を過ごそうと思っていた矢先。突然、玄関のインターホンが鳴り響く。

 時刻は午前九時半。さすがに制服だと大変だから、取り急ぎセーラー服を身に纏うことに。


 ピンポーン!


「はーい!」


 胸元のリボンをなんとか作り、階段を降りていく。

 待たせすぎてしまったかなと思いつつ、玄関のスコープドアを覗く。

 そこには、私服姿の樹がニコニコな笑顔を浮かべて玄関前に立っていた。


「どうしたの? 樹」

「いや〜、家にいると勉強の催促や監視の目があって上手く抜け出したところなんだ」

「なるほど、だから僕の家を避難所に」

「そうそう、いざとなれば住み込みに……ってそれは違うか。ちょっと中に入っていいか?」

「うん」


 半袖コーチシャツに紺のジーパンという夏の服装がとても似合っている樹。

 僕がもし、女の子なら放っておかないと思う。

 というか普通に家に上げることすら戸惑うものなのかな。


「おっ? セーラー服か。うん、これで異性だったら絶対口説いてる」

「樹の場合はオカルトや趣味に興味ある人じゃないと、それか理解してくれる人がいないと付き合わないんじゃない?」

「千乃のように理解してくれる相手がなかなかなぁ」


 下靴を並べて予備のスリッパに履き替えてもらう。

「お邪魔します」と礼儀正しく呟き、リビングに向かうと思いきやその場に立ち止まる。


「それで? 樹がここに来たのは勉強とか()()()()()じゃないんでしょ?」

「おうよ! ……とその前に、だ。線香だけあげさせてくれ」


 階段から見て一階の隅の居間。

 その室内の左斜め先にある仏壇には二つの写真立て。

 一つは明乃お姉ちゃん、もう一つは真冬お姉ちゃん。

 腐れ縁でもある樹の前ではあまり本音を口に出すのは些か申し訳ない気がして、言葉を飲み込んだ。

 線香をあげている樹を後にして、リビングで冷蔵庫に作り置きの麦茶を三人分用意する。

 テーブルの上に並べると丁度いいタイミングで樹がやってきた。


「麦茶、ありがとう。……んくっ、ぷはぁ〜っ! やっぱり麦茶だねー♪」

「ただの作り置きだよ。それで? 話って?」

「そうそう、覚えてるか? ()()()()()()

「……ッ!?」


 思いがけない言葉に耳を疑う。

『うんめーさん』。突然ある日、白い手紙が下駄箱に入っていてその内容に従うと必ず幸せになるという一種の噂話()()()

 その本質は白い手紙を受け取ってしまった人間は行方不明になり挙げ句の果て、白骨死体へ。

 もしくは酷く衰弱した状態で見つかり身体には()()()()残っていたという。しかも、狙われたのは二年生の女子生徒だけ。

 だけど『うんめーさん』は確かにあの時、僕が助けたはず。なんで今になって?


「実はな、此間の登校日の日……()()()受け取ったって奴がいたんだよ。文面は見させてもらってないが、内容は確かな『ほ し い も の なーに?』って」

「欲しいもの?」


 僕が実際に体験した『うんめーさん』は内容に従えば、必ず幸せになるというもの。

 欲しいものを聞くことはしなかったがむしろ、欲しがっていたほうだ。

 そんな『うんめーさん』が欲しいものなど聞くわけがない。


「でも、『うんめーさん』とは違うよ。『うんめーさん』は、あの人は苦しんでた。樹だって見てたでしょ?」

「ああ、見てたさ。けどな、千乃。本題はこれからだ。当然、そいつは半信半疑だったが『足が早くなりたい』って呟いた。すると次の日、()()()早くなった。俺も正直、信じてはいなかった。オカルト好きにとっては気になることだったが、止めてやるべきだった」

「どういうこと?」

「登校日から数日後の今日。そいつが家に帰ってないらしいんだ。登校日の日から」


 これまでの経験からしても、今まで体験したことを踏まえてもこの出来事は『うんめーさん』ではない。

 確実に違う存在と言える。


「で、そいつに連絡はしてるんだが繋がらない。また『うんめーさん』じゃないかって再び広がってる」

「根本的な理由にならないよ。全く何を伝えたいのかわからないよ、樹。どうしたの?」

「わからない。ただわかるのは、登校日で手紙を受け取ったのはあと一人いる」

「誰、って……まさか!?」

「俺だよ」


 ジーパンのポケットから取り出したのは、さっきの話通りの白い手紙。

 僕が初めて下駄箱にて入っていた手紙と酷似しているためか、少しばかり恐怖してる。

 同じものかはさておき、内容は────


『ほ し い も の な〜に?』


 手紙の中央の文面に大きく黒文字で書かれた文字。

 子供が書いたような書き方でありながら、これは良くないものと身体から警笛を鳴らしている。

 確信はまだないけれど、今は樹を説得しないことには変わりはない。


「樹、まだ願ってないよね? 願ってないよね!?」

「……ごめん」

「謝らないでよ! ねぇ、樹! 答えてよ!」

「一応、それだけを伝えに来たんだ。麦茶美味しかったよ、()()飲みに来る」

「ダメだよ! お願い! 樹もいなくなったら!」


 なったら、何? (おまえ)はどうせ見過ごす。

 見て見ぬふりをして事の現実に目を背けている。

 だから、()()()()()さえも見捨てた。

 友達すらお前は簡単に、落としてしまう。

 今度は親友か? それとも────那月?


「お願い、行かないで樹!」

「千乃。俺はお前と出会ったことが一番の喜びだ。毎日のように親に怒られ、叱られ、オカルトのことも誰も信用できる相手もいなかった俺に唯一、お前だけがまともに聞いてくれた。ありがとな、千乃」

「なに、それ。お別れなんか聞きたくない!」

「千乃、()()()


 玄関を開けて立ち去っていく樹を引き止めることも出来ず、そのまま空虚だけが心に沈む。


「樹!」


 慌てて玄関を開けて、樹の後を追う。

 あの手紙を受け取って、願ってしまえば終わる。

 五体満足とは行かず、変わり果てた姿での再会。

 そんなこと絶対にさせたくない!

 無人駅までの距離をなんとか走りきって、なんとかたどり着いたけどそこには誰もいなかった。


「樹、どこなの?」


 もしかしたら、もう────。

 不穏な空気が胸の呼吸を苦しませる。

 もしかしたら、もしかしなくても、樹は───。


「樹ィィ───────ッ!!」


 声の限り、名前を叫ぶ。

 だが、返答や応答もない。

 冷たい風が頰を撫でて、ただ後悔だけが心に沈む。


「樹、必ず僕が……!」


 堪えていた涙が頰を伝う。

 何も出来ず、何もしなかった無力で最低の僕は硬いコンクリートの地面に思いっきり握り拳を殴りつけた。

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