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キミが消える未来(あした)から  作者: 秋桜
第四章『宵闇駅』
34/59

失った代償

 

 目の前は真っ暗闇で覆われていて、足元は霧が包み込んでいてそれでもなんとか見える。

 いつも着ている女子制服、黒のストッキングに淡い緑色のシュシュでサイドテールを────あれ?


「……ない。ないないないないっ、ないッ!?」


 肌身離さず付けているシュシュがない。それにサイドテールも解くのは寝る時とお風呂の時だけ。

 それなのに、シュシュがない────どこに?

 あれは一番大切な物なのに、何処に()()()()


「落とした? ……いや、違う!」


『お姉ちゃぁぁぁぁぁん!!』


 屋上で、僕を庇って、真冬()()()()()は────。


『お前がコロシタんだろう? ふふっ』

「僕が、お姉ちゃんを」

『さぁ、お前も落ちなよ』


 ドンッ! 


 そのまま後ろ向きに前から突き落とされて────


 ♢


 重い瞼をなんとか持ち上げる。薄らとカーテンの隙間から陽の光が差している。

 勉強机の上の壁にかけられた服がふと目に入る。

 ベージュのロリータ風のワンピースに白と黒が絶妙に合わさったヘッドドレス。

 言葉は冷たいけれども、家族思いでとても優しかった()()()()()

 人前では抵抗があって、呼ぶときは真冬『さん』。

 いつだってあなたは僕を気遣ってくれた。

 でも、そんなあなたはこの世にいない。


「真冬、お姉ちゃん」


 ずっと前から慣れておけば良かったと思う。

 ずっと前から伝えておけば、いなくならずに済んだのかもしれない。

 でも、どこにもそんな確証なんてない。


「……ぅっ……! お姉ちゃん……!」


 悔やんでも、泣いても、呼んでも戻ってはこない。

 明乃お姉ちゃんに続いて、僕は真冬お姉ちゃんまでも失ってしまった。

 それは、誰でもない僕自身が巻き込んでしまったが故の過ち。否、一生を持っても償えない。


「泣いてると、お姉ちゃん怒るよね……きっと」


 生前の姿が目に浮かぶ。

 こうやってただ泣いてるだけだと、お姉ちゃんは怒る。

 なら、せめて生きてる僕がやることをやらないといけないよね。

 夏の制服に袖を通して黒のストッキングを履いて、机の引き出しにしまった淡い緑色のシュシュを取り出す。

 後頭部で結んだ長い髪を垂らすようにシュシュで縛って、再度制服を見直してカバンを持つと、


「真冬お姉ちゃん、行ってくるね」


 写真立てにそっと声を掛けて部屋を後にする。

 階段から降りてリビングへ向かうと、那月の姿はなくて代わりにテーブルの上に書き置き。


『先に出ます。あまり体調が悪ければ休んで、ご飯は冷蔵庫にしまいました。那月より』


 心配かけ過ぎたなぁ。もしかしたら、聞かれてたかもしれない。

 でも、今はなんとか大丈夫。

 そんな気がして僕は勢いよく玄関を開けた。


 ♢


 今日は登校日。日差しはそんなに強くなく風もなんだか涼しくて、雲もちらほら見えている。

 一応登校日までの課題はなんとか終わらせていたがたぶん、()()予感がする。

 下駄箱で靴を履き替えて、階段を上って教室の扉を開けると僕の席で話をしている顔見知りの二人を見つけた。


「おはよう。三嶋さん、樹」

「あっ……お、おはよう、ユキちゃん」

「お、おう! おはよう、千乃。今日もシュシュが似合うな!」


 なんだかタイミングを間違えたっぽいかな。

 それとも、僕に気を遣っている?

 三嶋さんはともかく、樹が僕のことを褒めるなんて今日は雨でも降るかも?


「変に褒めないでよ、樹らしくない。三嶋さんは課題終わったの?」

「えっ? あ、あぁ! そ、そうだよ、終わらなくて神崎君に聞いてたんだけど……(チラッ」

「そ、そうなんだよ〜。でも、まだ千乃が来てないから千乃に頼もうとしたんだけどさ、そんなわからない問題もなかったみたいだから終わった!」

「二人共、気持ちは嬉しいけど。気を遣わないで、大丈夫だから」


 あんまり友達には気を遣って欲しくない。

 お姉ちゃんが死んだのは僕のせいだし、三嶋さんや樹には普通でいて欲しい。

 いつもと同じように明るい笑顔で元気よく声を掛けてくれないと、一日が始まらない。


「じゃ、じゃあ、俺、そろそろホームルームだから戻るわ!」

「う、うん! またね〜!」

「……はぁ」


 誰にも気づかれないように僕はそっと息を吐いた。

 ────気を遣わないでって言ったのに。



 時は過ぎて、午後十二時半。

 登校日といえども半日で終わるため、大体がこの後に遊びに行くや勉強会。僕はこのまま家へ帰る予定。


「千乃、その……!」

「那月、帰ろう? お昼ご飯、何にしようか」


 話しかけてきた那月にそう言うとカバンを持って教室の扉に手をかけた。

 刹那、勢いよく教室の扉が開かれる。


「千乃〜! ご飯食べに行こうぜ!」

「ユキちゃん、行こうよ! ほらっ、那月ちゃんも!」

「え、ちょっと樹!?」

「わ、私も!?」


 半ば強制的に連れて行かれた僕と那月。

 場所はというと、僕の家からコンビニまで三十分くらいかかるのと同じくらい歩いた先にあるファミレス。学校の反対側なので意外と近いし、たまに行ってみたいとは思ったけどこういう形とは思わなかった。

 奥へと押し込まれるように座らせられ、隣は樹で向かい側に那月、斜め右に三嶋さんが座る。


「さて、何頼むか。これ一応おすすめだぞ!」


 樹がメニュー表を広げてこちらに見せて来たのは、250グラムのジューシーハンバーグという大きなハンバーグ。

 デミグラスソースと和風おろしを選べるらしいが、お昼ご飯にこうガッツリは遠慮しておきたい。

 夕飯は軽く魚料理にしようかな。


「ジューシーハンバーグ? でも、お昼にこんなに食べたら夕飯が食べれなくなりそうだけど」

「いいの! 夕飯のことなんて考えない! ユキちゃん、ちゃんと食べないと大きくなれないよ!」

「えっと、それはどういう意味?」

「私だって大きくなるんだから、ユキちゃんも同じくらい伸びて欲しいの!」

「千乃、それだったら和風ランチがあるよ。日替わりで鯖の味噌煮もあるみたい」


 那月は普通にこの空気に溶け込んでる。

 僕がただ暗いだけなのかな。いや、違う。

 樹と三嶋さんは落ち込んでる僕を笑顔にするためにわざわざファミレスまで誘って、励ましてくれてるんだ。

 嬉しいけど、ちょっとぎこちない二人。


「和風ランチにしようかな。お味噌汁付いてくるみたいだから」

「じゃあ、俺はさっきのジューシーハンバーグ!」

「私はこのナポリタン! それとデザートは……」

「デザートも?」

「勿論! ユキちゃんもたくさん食べなよ〜?」

「ベクトルの方向が……でも、美味しそう。那月は何にしたの?」

「千乃と同じ和風ランチ」

「樹、飲み物どうする?」

「それは各自ドリンクバーで……」


 真冬お姉ちゃん。僕には大切な人たちができたよ。

 腐れ縁でオカルト好きの親友、樹。

 クラスメイトで元気いっぱいの女の子、三嶋さん。


 そして、那月。

 那月は家族同然で大切な人、だけど僕の心の奥ではたぶん違う感情。

 なんとも言えない、抱いたことのない気持ち。

 でも、まだ隠しておこうと思う。

 伝えてしまったら壊れてしまうと思うから。

 だから、お願いします。

 僕から大切な人をこれ以上、奪わないでください。

 お願いします、神様。


「千乃?」

「ユキちゃん?」

「千乃、大丈夫?」

「え、あっ、うん! 大丈夫! ドリンクバー行こうよ!」


 自分の気持ちに蓋するように、僕は早足でその場から離れた。今の関係が壊れてしまわないように。

 ゆっくりと軋む音を聞かないようにして。

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