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キミが消える未来(あした)から  作者: 秋桜
第三章『黒兎』
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由来

 

 午後七時半。夜遅くになる前になんとか電車に乗り込み、そのまま自宅への道を歩く。

 なんだか気まずい雰囲気で隣を歩く那月に対して真面に顔を見れない。

 チラッと覗くが那月は普通に平然と前を向いているし、僕みたいに挙動不審ではない。

 何を変に意識しているんだ、僕を落ち着かせるために抱きしめただけじゃないか。


「千乃、今日の夕飯どうしようか?」

「僕は特にない、かな」

「とりあえず喉でも乾いてるし、コンビニも近いから夕飯はコンビニ弁当でも大丈夫?」

「うん、大丈夫」


 会話が続く気がしない僕。

 端的というよりも言葉が思いつかない。

 コンビニは思ったより車も無ければ人もいない、こういう時間帯だからなのかな。

 適当に弁当でもと店内に入ると那月はお弁当売り場へ行き、僕は入り口入って右側の雑誌売り場へ。

 なんとなく気を紛らわせるものを探して雑誌を漁っていると、またあのオカルト雑誌を手に取っていた。


『黒兎に迫る!? 深夜の診察室』


 ページをめくると広告文を大いに使った説明が載っていた。


『夜な夜な深夜に開かれる診察。それは見たものにしかわからないものだが、ここに記述するのは他言無用でお願いする。引き返すなら今だ』


 もし、あの死体や川岸みなみさんを殺した犯人が同じだとするならこの情報は必要。

 引き返すよりも遠い引き戻せない場所に立っているのだから。


『さて、では話そうか。まず私が実際に体験した話だが、あの時の私は風邪を引いていて……』



 朝から体調が優れず、昼間は寝たきりで起きたのが夜の九時。

 喉の調子も悪く、ふらふらと酔っ払いのように覚束ない足取りで近辺の医者を探していると……一つだけ明かりを灯した診療所があった。

 外からでも明かりが漏れるほど私の目には眩しく思えた。

 やっとの思いで診療所の中へと歩いていくと、私のほかに若い女性が一人、看護師の女性よりも若くどこか男装の麗人のように顔立ちははっきりしていた。

 ゴホッゴホッ、と咳を込む私にそっとその女性は身体を支えてくれて待合室の側の椅子に座らせるとニッコリ笑う。

 待合室は受付の右側を通ってすぐで、二つある扉の出入り口に近いほうが診察室だと親切にしてくれた。


『深夜にやっている医者が近くになくて……』

『それは気の毒だ。この診療所は深夜でもやっているから、よかったね』

『えぇ、それはもう天にも昇るような気持ちですよ』


 その女性とは何故か話が弾んだ。

 この診療所は深夜までやっているから、いつでも来れると聞いて私は安心した。


 だが、一つ()()()()ことがある。

 深夜でやっている割には人の気配が()()()()()

 誰もいないというよりも、誰もいなかったというのが正しいと言われている気分だ。

 でも、他の診療所はどこも明日の朝から夕方しかやっていない。ここ以外はない。

 なんとか自分を強引に納得させると私は診察室へと足を運んだ。


 診断結果はただの風邪。

 二、三日安静にしていれば元に戻ると聞いてふぅ、と緊張していたのか自然と身体から力が抜けた。

 四日分の風邪薬を処方してもらい、再び待合室の椅子へ腰掛ける。

 隣で話をしていたあの若い女性が気になった。

 そういえば、診察室には私一人で入った。

 では、あの若い女性はどこへ?

 キョロキョロと深夜の廊下を見渡しても暗闇だけ。

 たぶん、私とは違って早く終わって帰ったのだろう。

 時刻は当に午後十一時を指している、明日は休んでゆっくり眠ろう。


『あれ、眠くなってきたな』


 体調が優れない故に、眠気に勝てるわけもなくそのまま重い瞼に従い意識を落とした。



 ────あれ、一体、どれくらい眠ってた?


 目を覚ますと目の前には二つの扉、座っている椅子を見てまだここは診療所の中だと悟った。

 寝過ぎてしまった。これでは次回来るとき、いい笑い物にされてしまう。

 椅子から立ち上がった私は会計を済まそうと受付に向かうと、誰もいなかった。

 入り口の扉は無用心に開閉できる。

 ということはまだどこかにいるのかもしれない。

 私はとりあえず、診察室へと向かうことにした。


『あっ、良かった。まだいるみたいだ』


 診察室の扉を軽くトン、トンッと叩く。

 ……返答が返ってこない。本当に誰もいないのか?

 失礼を承知で診察室へ入ると、こちらにも誰もおらずその代わり床にスクールバックが落ちていた。

 誰かの忘れ物か? いや、私が入ったときにはこんなものなんてなかった。


 ────ポタッ ポタッ────


 水? どこからか水滴が落ちた気がした。


 ────ポタッ ポタッ────


 まただ。どこから聞こえてくるのか、私は気になってしょうがなかった。

 たぶん、診察室の反対側にあるもう一つの部屋。

 そこから聞こえた気がする。

 診察室を出た途端、ガラリと空気が凍るように寒い。

 呼吸も少し苦しくなり身体が本能的に警笛を鳴らしている。

 まるで、()()()()()()()()()と言わんばかりに指先から手首まで震えている。

 だが、会計を済ませなければと使命感に駆られた私はその扉の向こう側を覗いてしまった。


『……ふふっ、美味しいなぁ』


 覗いた先には、()()()()()()()()あの若い女性。

 その死体は外見だけ見れば、学生で若い女性よりもさらに年下の()()

 目を大きく見開いていて口は開いたまま首元から、血を啜っては口元を袖で拭き取る。

 美味しい、と呟きながらその行為をする姿はとてもじゃないが普通じゃない。


 ────ガタッ!


『ひっ!?』

『……あれ、まだいたんだ。私の折角の楽しみを邪魔するなんて無粋だね、()()()()


 振り返った顔にはべったりと口元を染めた赤い血がポタッ、ポタッと床を汚していて心なしか死体から視線を送られている気がした。


『うわあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』


 入り口の扉から一目散に走り出した。

 後ろなんて振り返るな! 絶対に振り返るな!

 このまま走って家まで逃げ切れば……!


『どこに行くの? お・に・い・さ・ん♪』


 あれ? なんですぐ隣に?

 最後に目に映ったのは、三日月のように不気味に笑った赤い目の()()だった。



『……と、なんとか私は命掛けでなんとか生き残った。後日、あの診療所を探すとそれは既に潰れていたらしい。では私が見たあれはなんだったのか、それは誰もわからない。だが、調べていくうちにその診療所には小さな()()いたらしい。私の体験は以上だ』


 パタンッ、と雑誌を棚に戻す。

 頭の中で混み合っている疑問を他所にもう一度、雑誌のページをめくって見ると奇妙なものが書かれていた。


『追記。黒兎というのは、兎の名前に由来する。黒は深夜、兎は()(さぎ)が本来ならだが私の推測だが……()()()()にちなんでいると思われる。あくまでも私の推測だ』


 それで黒兎。でも、なんで人の血なんて。

 診察室、指輪、血を吸う、どういうことなんだ?


「千乃。どうしたの?」

「えっ? あ、ああ、お弁当作りの本を読んでいたら遅くなっちゃった。もう決めた?」

「私は……」


 僕の考えが正しければ次に襲われるのは────僕だ。

 あの時のように那月が傍に駆けつけてくれるような状況にいつもなるとは限らない。

 もし、この疑問に決着をつけるなら今日なのかもしれない。

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