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キミが消える未来(あした)から  作者: 秋桜
第二章『紅の乙女椿』
18/59

花言葉

 

 翌日の放課後。

 樹と事前に予定を立てていた僕は待ち合わせ場所の図書室へと来たの、のだが────。


「ユキちゃん先輩、こんにちゃっす♪」


 図書室のテーブルから身体を乗り出すように、こちらへ手を振るのは、川岸湊さん。

 樹から連絡→何かしらで湊さん→ということは……僕は一つの結論に辿り着いた。


 ────どうやら、罠に嵌められたようだ。


 話を進めていくと湊さんは新聞部の中でもオカルトスクープを探していたところ、偶然『旧校舎』の話をしていた僕を見て話を持ちかけたらしい。

 樹も有名人らしく、今回は湊さんに譲ったとか。


「神崎先輩からもOKをもらいましたし、あとはユキちゃん先輩のみっす! 新聞部川岸湊、無人駅近くの祠はぜひスクープにしたいっす!」

「こう言ってはなんだけど……僕としては、湊さんを巻き込みたくない」


 お姉さんである双子の姉、川岸みなみさんの死の真相を知ってる僕だからこそ言える。

 これはスクープどころではない。

 むしろ、判断一つ間違えれば……()


「私のことを思っていただけるのは大変嬉しいです。けど、私だってここで諦めるのは嫌なんすよ……約束なんすよ。みなみを驚かせる記事を書くって」


 堪えていたであろう涙の栓が抑えきれず、溢れ出す。

 大粒の涙がポツッ、ポツッとテーブルに落ちていく。

 泣かせてしまった僕に出来るのは、ポケットからハンカチを渡す以外出来なかった。

 だって、みなみさんを見殺し同然に死なせたのは僕なのだから。


 ……暫くして泣き止んだのか、ハンカチを返してくれた。

 目は赤く腫れていて顔は少し怒っているようにも見えた。


「女の子を泣かせるなんて、ユキちゃん先輩は悪い人っすね。友達に言いふらしてやります」

「やめてください。僕が悪かったです」

「じゃあ、ユキちゃん先輩! 私が次に何を言うか、わかってますよね〜?」


 なんとも言い返せない目付きは、やはり双子だからなのだろうか。



 午後五時半。辺りは暗くなり、人が通ることはほとんど見当たらない。

 昨日と同じ時間帯とはいえ、油断はできない。

 カバンから懐中電灯を取り出し、トンネル入り口付近を照らす。


「あっ、そのまま明かりをお願いするっす」


 隣に立っている湊さんはカメラのシャッターを何度か押す。

 パシャ! とシャッター音がやけに響くこの静けさは少し不気味なはずなのに、湊さんは落ち着いている。


「なんだか、慣れてるね」

「そうっすか? 私はよく子供の頃からこうやって写真を撮ることが好きでしたから、姉とは正反対だって嫌み混じりに言われたっす」


 恐怖を和らげるつもりが、逆に触れてはいけない部分に触れてしまったようだ。

 気を取り直して、前へと進んでいく。

 昨日は取り壊された神社と祠、女性の声を聞いて一旦引き返した。

 今回は湊さんもいるわけだから、なるべく早く切り上げよう。

 ゴミが散乱としている場所を通り抜けて……と思いきや、湊さんが立ち止まりその場のゴミを漁り始めた。


「なにしてるの?」

「大抵、こういうゴミの中にはお宝が眠っていたり……おっ!? 早速見つけたっす!」


 そう言って取り出したのは、割符(わりふ)の片割れ。

 厄除け・方位除けなどに使われる割符の左半分。

 随分と汚れてしまっていて少しカビている。

『恋愛割符』と書かれているため、誰かの恋愛祈願なるものなのかな?


「一応、紙袋を用意したのでそっちに入れておくっすよ」

「ありがとう」


 カバンから素早く取り出した紙袋に割符をしまう。

 他にもないか、僕もゴミをあまり散らかさない程度に探ってみるとゴミの陰に一輪の白い花が咲いていた。

 名前は確か……シロツメクサだったかな。


「珍しいっすね〜、こんな場所に花だなんて」

「風に乗って種が芽生えたんだよ。そんなに難しいことじゃないよ」


 でも、何故一輪だけなのか?

 ふとカバンの中にあるものを思い出し、取り出してみる。黒い手帳とボールペン。

 名前を書けばその意味がわかるというオカルトグッズらしいけど、物は試しである。


『シロツメクサ』と書いてみる。

すぐに何かが出るわけないと思い、手帳を閉じる。


「結構高そうなものっすね、それ」

「樹からもらったんだけど、あんまり信用できないオカルトグッズなんだよ」

「へぇ〜、どういうオカルトグッズなんすか?」

「書いたものの意味を教えてくれるっていうんだけど……あれ?」


 そこには、真っ白な空白のページばかりが並んでいて、ペラペラと前後確認しても書いた文字はなかった。

黒いインクが出なかった?

いや、確かにこの目でインクが出ていたのは確認している。


「書き忘れたとか?」

「それはないと思いますよ〜? 私も見ていましたから」


 書いていた、そのはずなのだけど。

 ────もう一度、開いてみると薄らとページの一枚に文字が浮かび上がろうとしている。


「ほら、やっぱり書いた跡っすよ……!」

「まぁ、オカルトグッズだからね。気にしないで先に進もうか」


深追いしてはキリがないと思い、さらに奥へと進むとその先には……境内(けいだい)が広がっていた。

 祠など見当たらない……ましてや取り壊された痕跡すら幻に思えてくるような綺麗さ。

 違和感なくそこにまるで()()からあったかのような。


「驚かされたっすね〜。祠じゃなくて、まるっきり神社なんて」

「い、いや、昨日は本当に祠が……」


 パシャ!  パシャ!


 無常にも等しいカメラのシャッターが押される。

 でも、おかしい……あの時は確かに祠と取り壊された神社があって、コップとおはぎも……。

 ……一応、この場所も探索してみよう。


 入り口付近には鳥居がなく、代わりに大木(たいぼく)が二つ並んでる。

 左に案内板と白い紙が貼られていて、白い紙にはこう書かれていた。


『注意! 巫女さんの撮影・握手などは原則として禁止! お声掛けしたい方はお守り場へ』


 ワープロで書かれたのか、随分と字が統一してある。

 この巫女さんというのは人気ものだと聞いた。

 だから、この神社の参拝客も増えたのだと。


「うわぁ、神主さんっすかね〜。娘さんか、バイトの子を見世物にされるのが嫌だからってここまでやるんすね」

「僕もよくわからないけど、どこの馬の骨? にやらん! とかいう父親みたいな人だったんじゃないかな」


 理由は不明だけど、一つの家庭としては十分なのかもしれない。

 道に沿って歩いていくと、龍の口から水が出ている手洗い場……所謂、手水舎(ちょうずや)

 人が訪れているかも不明なのに、何故か柄杓(ひしゃく)は新品のような色。

 しかも、流れている水も透き通るように綺麗。


「あっ! 確か、作法としてはこの水で手洗い・うがいを済ませるんすよね?」

「やめておいたほうが」

「んっ……意外と美味しい水っすよ?」

「……度胸試し、じゃないんだよ?」


 人の注意も聞かずに湊さんは手水舎で手洗いを済ませてしまったようだ。

 ……仕方ない。後輩だけにやらせて僕がやらないのはよくない、巻き添えを喰らおう。

 柄杓を借りるとその一杯の水で手洗い、うがいを済ませ元にあった場所に戻す。

 本当の作法はどうだか、上手くは知らないがこのような形だったのかうろ覚えな気がする。


 ────────コロンッ


 足元に何かが落ちてきた────()

 赤い紐で結ばれた鈴がどこからか落ちてきたらしい。


「鈴、っすね」

「鈴だね……ちゃんと鳴るね」


 何事もないならいい、と安堵する。

 赤い紐の鈴をスカートのポケットへとしまうと右の賽銭箱のほうへと移動。

 こちらも手水舎同様、手入れがされているかのように綺麗だが……一つおかしな点があった。


 ()()()()()()()である。


 形はどうだかわからないが、二つ一緒に置いてあることから昨日と一致する。

 湊さんはなるべく巻き込みたくない、今は口を閉じておこう。


「……ユキちゃん先輩、お金貸してくださいっす」

「急にどうしたの!?」

「十円玉がないっす」


 僕の考えていることは裏腹にこの子は……。

 カバンの中の財布から五円玉を二枚取り出すと、そのうちの一枚を湊さんに渡す。


「五円玉? ……ケチ」

「お金を借りている立場で……まぁ、いいや。五円玉はご縁、十円玉だと遠のく。そう言う意味だって昔聞いたことがあるから」


 ────本当はお姉ちゃんの言葉だけど。


「じゃあ、ありがたく」

「僕も」


 二人して別々に五円玉を賽銭箱に投げる。

 賽銭箱の奥から他の硬貨とぶつかった音が聞こえた。

 互いに手を二回叩いて、お辞儀を交わす。


 とりあえず、これでいいのかわからないけど次のお守り場へと足を運んだ。

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