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キミが消える未来(あした)から  作者: 秋桜
第二章『紅の乙女椿』
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一輪の花

 

 翌日。学校へ行くと何やら騒がしいほどに人のコソコソ話が廊下や教室の扉前など、場所を選ばずに話している。

 内容は不特定多数、何を話してるかさえ聞こえはしないが……『殺人鬼』や『医者』という言葉が妙に強調して聞こえた。


「おはよう、三嶋さん」

「おっはよー! ユキちゃん!」


 いつも通り席に座るや否や、朝一番に話しかけてくる三嶋さんと挨拶を交わす。

 この人は相変わらず元気で何よりかな。


「ユキちゃん、聞いた? 殺人鬼の話」

「ちらほらと周りから」

「ふーちゃんがね。昨日、赤色の傘を差す女の人を見たんだって」


 昨日、というと外は暗くなっていたが雲一つない星空な気がするけど。

 夜空も晴れているほうで、外灯の明かりがよく見えていたから日差し避けというわけでもなさそう。


「なんでも……その女の人、()()()だって噂なんだよ」

「馬鹿馬鹿しいな、その噂」

「あっ、樹」

「よっ、千乃」


 頭をポンポンと雑に撫でる樹。

 後ろにいたなら、隣にくればいいのに。


「殺人鬼、って……たまたま通りがかった女性が同じ色の傘を持っていただけじゃないか」

「むーっ、神崎君。信じてないなぁ?」

「オカルト系なら、興味持ったけどね〜。あっ、それならあの()も大体この時期か」

「あの噂?」

「確か、丁度この時期で……ヤベッ!? 予鈴だから続きは後でな!」


 キーンコーン カーンコーン


 タイミングよく鳴り響く予鈴。

 樹は慌てて隣の2ーBのクラスへと戻っていき僕も慌てて授業の準備を用意した。


 ♢


 放課後。珍しく今日は三嶋さんの勉強会もなく樹と同じ電車なので共に先に下校、残った僕と那月は同じ道なのでゆっくり歩く。

 話す話題こそすれ違いそうだけど、こうして誰かと一緒に歩く帰り道も初めて? であってるかな。


「どうしたの?」

「ううん、なんでもない。それより学校には慣れた?」

「うん。だいぶ慣れたかな」


 疑問に思ったことを忘れて、話題と足を進めると道端に顔を出すように咲いている一輪の花。

 確かこの花は……なんだっけなぁ。


「……椿(つばき)

「そうそう! 椿だよ、ってよくわかったね」


 この赤色の花弁(はなびら)に艶のある葉、一眼見ても名前を当てることは難しい花……椿。

 お姉ちゃんがよく育ててたんだけど、僕が育てようとすると枯らしちゃうから。

 ──でも、道端に一輪だけってどうやって芽生えたんだろう?


「漢字は出てきたんだけど、名前が出てこなくて──」

「────千乃。早く帰ろうか」

「あっ、ちょっと!」


 早歩きで歩いていく那月を追いかける。

 どこか悲しそうな表情を浮かべた那月の顔が頭の中をチラついた。


 ♢


 午後七時半。

 早めに夕飯を食べた後、真冬さんは先にお風呂へ。僕と那月は向かい合うようにソファーに腰掛ける。


「……あ、あのさ、那月。な、なんか僕、怒らせるようなことした……というか、その……」


 夕飯を食べているときも、食器皿を洗って片付けている時も一切会話などなく黙々としていた那月。

 帰り道で見かけた椿の花。

 あの花を見てから、那月の様子があまり優れてないように見える。


「僕で良かったら、相談でも────」

「────大丈夫だから、放っておいて」


 俯いて頭を抱えてしまった那月。

 それほどまでに重く、深く悩んでるのに僕は何一つもできないのかな。


 だから、()()()()()────。


「────!?」


 刹那、脳裏に浮かんだある光景。

 薄らとしか見えなかったのに、光景と呼ぶのは些かすぎる。

 キーンッと頭の中にまて響いてくる何かに意識が持っていかれそう。


「千乃!? 千乃ッ!? 大丈夫、千乃!?」

「大丈夫、だよ……ちょっと頭痛がした、だけ」

「大丈夫なわけない! 部屋まで連れて行くから、ほら肩貸して!」


 されるがままに那月に肩を担がれる。

 ゆっくりと階段を上っていき、自分のベッドへ寝かされる。


「ごめんね、那月……」

「気にしてないから、千乃は休んでて。頭痛薬と水を持ってくるから」

「……ありがとう」



 午後十時過ぎ。

 頭痛薬を飲み、少し眠っていたけれどなんだか目が覚めてしまった。

 ……たぶん、二人共寝ている頃だろう。

 スマホの画面を開き、保存されているビデオを再生する。


『あははっ! こーらっ! ユキ!』

『あっ! お姉ちゃんが怒った!』


 ビデオに映るのは、幼い僕と夏の制服姿のお姉ちゃん。

 家の庭でビニールプールを作ってはよく水をかけあって、暑さを凌いでいた。

 ────十年前の冬、僕のお姉ちゃん……久遠明乃は当時十七歳という若さでこの世を去った。

 両親の残した財産と引き取ってくれた真冬さんのお爺さんが居てくれたおかげで、今の僕がいる。


『ユキ、お姉ちゃんのこと好き?』

『大好きっ!』


 今も昔も、僕の心を支えてくれるのはお姉ちゃんとの思い出だけ。

 いくら楽しい思い出や過ごす日々が変わろうとも心の底にある思い出には敵わない。


『ユキ、大好きよ』


「……僕もだよ、お姉ちゃん」


 椿の花言葉。気取らない優美さ。

 お姉ちゃん、どうして?

 なんで、僕を一人にしたの?

 零れ落ちる涙を隠すように、布団に蹲って強く瞼を閉じた。

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