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キミが消える未来(あした)から  作者: 秋桜
第二章『紅の乙女椿』
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戻らぬもの

 

 生徒玄関の前にある階段を上って、すぐ左にある『視聴覚室』に入った。

 川岸さんを双子の姉と言ったこの一つは恐らくというか、その妹さんに当たるんだろう。

 今気づいたけど、キリッとしたあの細目はどこか疑いの目で見る川岸さんと似ていた。


「お時間は取らせないので、どうぞ座ってくださいっす」


 真ん中に机と椅子が二つ、端っこにもう二つ同じなのが片付けられていて黒板には新聞記事。

 黒板から見て反対側にあるロッカーには写真が飾られている。

 妹さんと向かい合うように真ん中の椅子に座る。


「……その、なんというか、言い訳みたいになっちゃうんだけど」


 言葉が見つからなかった。

 具体的に答えようにも、信じてくれるか否か。

 頭の中で渦巻くあの光景を説明できるのか、僕は。


「あっ! 自己紹介がまだっすね〜。私、川岸港っす!」

「か、川岸さん、えっと……あの、噂話とかって信じたりする?」

「確証を持てない噂話には首を突っ込む気にはなれませんが、それが何か?」

「……旧校舎でね、あったことは、本当はッ──」


 ───(おまえ)のせいというか?

 それとも、信憑性の少ない『うんめーさん』の話でもするか?

 己の命を守るため、起こりうることに気づかなかったがために。


「先輩?」

「……ごめんなさい」

「謝って欲しくて呼んだわけじゃないっすよ? ただすこーし、お願いを聞いていただきたくて」

「お願い?」


 断る権利は僕にはない。

 彼女には問い質す(ただす)権利があるのだから。

 それを甘んじて受けよう。


「私と、『デート』してくれませんか?」


 ……え? デート?


 ♢


 荷物を取りに図書室へ戻る途中、階段下を見ると怖い形相を浮かべた二人が仁王立ちしていた。


「ユキちゃん。さっきの子、誰?」

「千乃。正直に言って。誰なの、あの女」


 世の男たちが一度でも鉢合わせれば、破局か絶命かの選択肢を強いられる……通称『修羅場』。


「あ、あの、女の子は一年生で……」

「へぇ、()()なんだ」


 ヤバい! 火に油を注いでしまったか!

 いや、こういう場合こそ冷静な対処を……!


「あっ、先輩! 待ちました?」

『待ちました?』

「ま、ままま全く! あ、あああっ、そうだ! 図書室に荷物を忘れて!」

「千乃、忘れ物」

「ありがとう、那月」

「……家でじっくり聞くから」


 那月からカバンを受け取ると何故だか腰が引けてしまう。どこにも逃げ場がないんだよ〜!?


「なんか話し声聞こえたんですけど、もしかして……先輩の彼女さんですか?」


 ちょ、ちょっと何を匂わせる発言を!?

 二人だって勝手に言われて、ほら……え?


「わ、私はユキちゃんのクラスメイトで勉強を教えてもらってるだけだし……」

「私も、千乃とはもっと違うものだから」


 落ち込んでいるようで、どこか嬉しそうで。

 川岸さんも思った以上のことが起きたらしくニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべてる。

 一人この状況を楽しんでいると言える。


「そうっすか、残念っすね〜。彼女さんじゃないなら、()()()がデートしても問題ないっすね。行きましょ、先輩!」

「デート……?」

「……ですって?」

「い、いやいや、そんな疚しい(やましい)ことじゃないんだ! 帰ったら説明するから!」


 その場から逃げるため川岸さんと駅のほうまで走って行った。


 ♢


 樹の使っているであろう駅に辿り着く。

 後ろでは膝に手をついて肩から息をする川岸さん。

 周りにはすっかり人もいない、ポケットのスマホ画面は既に午後六時を回っていた。

 辺り一面が真っ暗に近い暗闇同然、足元に気をつけつつ二人して駅のホームの椅子に腰掛ける。


「先輩の女性関係って案外恐ろしいもんすねー。私も女の子なんすけどね、怖いっすね」

「僕が言えたことではないんだけど、怖いよ」


 たわいもない会話だけがホームに響く。

 無人駅というものなのか、駅員は見当たらない。

 外灯が左右に三つほど並んでいるだけの明かりでも電車時刻表がよく見える。

 電車時刻表には毎時間、二本しか通っていない。

 つまり、この後の電車が午後六時の最終電車。


「えっと……川岸さん」

「みなみと同じ呼び方なんで、湊でいいっすよ。私もユキちゃん先輩って呼ぶんで」

「湊さんはいつもこの時間に、帰宅なの?」

「新聞部でよく遅くなるんですけど、勉強一筋のみなみは勉強しろって……」


 返す言葉が見当たらなかった。

 ほとんど話したことはないけれど、みなみさん勉強熱心だと思う。

 普段から見ていた、聞いていた光景が消えてしまうのは僕もよくわかってる。

 旧校舎で変わり果てた姿のみなみさんを見たであろう湊さんが、気にしてないだなんて……嘘だ。


「あんなに怒られて嫌だったのに……怒られたいだなんて変っすねー、私」


 必死に涙を堪えているのがわかるくらいに、声が震えていた。

 僕に出来ることなんて、あるはずないのに。


「あの、湊さん、実は……」

「あっ、ちょうど今の時間帯の最終便っすね。続きはまた明日聞きますんで」

「う、うん」


 電車が揺れる音が鳴り響き、ゆっくりホームに近づいてくる。

 車内に入り、ドアが閉まりながらも手を振る湊さんに何も伝えられなかったと後悔の念が残る。

 当然の報いなのか、それとも……自分だけが救われるなんて間違ってると怒られているのか。

 自分の不甲斐なさと無力さにズキリと心が痛んだ。

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