旧校舎の真実
五月下旬。梅雨入りが近くなっている頃、僕は一人……ある人のお墓参りに来ていた。
両手に花を持ち、手提げ袋を手首にぶら下げて。
「ごめんね、遅くなっちゃった」
誰が聞いているわけでもない、ただの独り言。
目の前のお墓に刻まれている名前にズキッと心が痛む。
────あの後、『うんめーさん』の噂はピタッとなかったかのように消えた。
噂自体に信憑性がない、ということもあるのだろうけど実際に体験した人にしかわからない。
だからこそ、言ってしまおう。
『うんめーさん』も一人の被害者である、と。
旧校舎で起きた失踪事件……手紙を受け取った女子生徒から始まった話だけど、なぜ二年なのか?
それは恐らく────いじめていたのが二年生だから。
友美子さんが一年生の当時、彼女はいじめに遭っていた。それを止めようと助けてくれたのが桂香さん。
いじめこそなくならなかったが二人の間には友情が芽生えた。
二人でよく食べていたのが、チョコレート。
────それを良く思わなかった連中は旧校舎に閉じ込めた。
手元にあったのはいつも二人で食べたチョコレートしかなく、それが尽きたら……。
見つけた日記の1ページからわかる通り、二人は心中という『天国』を選んだ。
そうすれば、苦しい現実から逃れられると思った。
────でも、生き残ってしまった。
目の前で眠るように死んでいる桂香さんを見て絶望感に襲われた。
喪失感とも言える心の穴には何も埋まらない。
誰にも助けてもらえなかったが故に、人生で唯一の友達を、桂香さんを死に追いやった奴らが許せなかった。
それが、失踪事件の真実でもあり『うんめーさん』が生まれたきっかけでもある。
当時、二人の間でハマっていたのが『占い』でその時が一番楽しかったんだ、と思う。
占いの運命と人を食べていたことから名付けられた。
「ごめんなさい……助けられなくて」
溢れる涙をなんとか押し殺ろそうにも止まらない。
もしも、あの時、なんて生者が吐く言い訳にしか過ぎない。
だから、せめて謝らせて欲しい。
────川岸さん、どうか安らかに眠って。
目の前のお墓で眠る彼女に言葉がそれしかなかった。
♢
翌日。創立記念日の次の日、学校は休校になった。
例の件で、学校中が大騒ぎ。目撃者もいないため警察による捜査と委員会やらでさらに三日ほどお休みに。
その間、不要な外出は控えるようにと言われているため樹はきっとネットサーフィンしてることだろう。
家にいた那月はというと、家事の手伝いをしてくれるようになった。
「千乃、終わったよ」
「早いな。ありがとう、じゃあ……」
僕の服のお古で申し訳ないけど、中学生の制服を着させてはいるが少々、困っている。
それは今後のような事がある場合を除いても外を歩く時の服装、というのが一番大事。
流石に古着のままというのは些かどうか。
〜♪ 〜♪ 〜♪ 〜♪
聞き覚えのあるメロディにスマホの画面を見る。
『真冬さん』と書かれた着信相手に口の中が苦くなる感じがした。
……ここは、無視しようかな。
「出ないの?」
「その、出たら絶対に……」
鳴り続けるメロディ。約五分後、着信音は止む。
経験者は語る。この人と話すだけで状態異常を起こしあまり話したがらない、と。
黙って見ないフリ、聞かなかったフリが鉄則。
ドンドン! ドンドンッ!
玄関を叩く音が室内に響く。
那月のほうは「行かないの?」と目で訴えかけている。
ドンドンッ! ドンドンッ!
「……開けよう」
はぁ、とため息を吐く間にも扉を叩く音は止んではくれない。
意を決して鍵を開けるや否や、力強くこじ開けられる。
「私が開けて欲しいときに開けない、私が電話に出て欲しいときに出ない……一体、どう説明する?」
白と黒が絶妙に合わさったヘッドドレス、ベージュの長袖にロリータ風のワンピース。
細い腕には白い日傘をぶら下げていることから、ここまで歩いてきたと思える。
「あ、あの、タイミング悪く出れなくて……」
「レディを待たせるとはいい度胸だな」
「いや、その」
「入らせてもらうぞ」
人の話を禄に聞かない、聞くことすらしない。
『冷酷なる白雪』こと立花真冬さん。歳は非公開。
見た目は二次元創作物に出てきそうなほどの美少女であると……自画自賛している。
前述の通り、変わった衣装を纏いながらも黙っていれば西洋風の大和撫子……なのだが。
物凄い自分主義で、相手が泣いていようが俯いていようが容赦なく切り込んでいく。
ある意味────お姉ちゃんの次に恐ろしい人。
「……千乃よ、私より若い女を連れ込むとは大層偉くなったようだな?」
「いや、さっき説明しようと」
「問答無用。貴様には遣いを命ずる、そうだな……来る途中に見た新作スイーツがいい。其方は?」
「私は……」
「わかった。私と同じだそうだ、早く買ってこい。次待たせれば……わかるだろう?」
……と、このように自己都合で動く人。
見た目だけは可愛いのに、口が悪いから……。
───────ドスッ!
目の前を何かが通り過ぎた。
視線の方向を見るとサバイバルナイフが壁に見事に刺さっていた。
「待たせるな。三度目はない」
僕は自分でも理解出来ない走り方で、徒歩三十分もあるコンビニへ買い物しに行った。
♢
さて、これで第一部は終わったわけですが。
いかがだったでしょうか?
皆さまに少し補足をさせていただきます。
助けられなかった少女、川岸さん。
『第二学習室』にて発見されました。
衣服は首元から下が赤く染まっていて……スカートのポケットから出てきたのは、鍵の束と赤く染まったハンカチ。
……あれ? 何か一つ足りない?
彼女に襲われたにしては不自然だと思いませんか?
ふふふっ……どう捉えるかはお任せします。
では、次の章にてお会いしましょう。




