泣いている女の子
……あの後、なんとか怒りを抑えた。
だが、この日記の1ページを見る限り二人を邪魔する奴ら……つまり、親や教師、いじめていたクラスメイト。
殺せばよかった。
この臭いが物語っていると言える。
────でも、疑問が残る。
殺せば終わるのに、何故歯型が残っていたのか。
『天国』だというのならそのまま心中して終わればそれは、永遠とも言える。
だが、もし……心中ではなく、別の事だったら。
そんな憶測めいたことが頭を過る。
謎の解決を優先しよう……川岸さんのためにも。
「約束する。必ず終わらせるから、安らかに」
手を合わせて川岸さんの前で約束する。
当然、返事など返ってこない。
だけど、そうしないといけない……罪悪感が心の中で勝っていた。
『第二学習室』を出てすぐの廊下にて、いきなりカバンの中にあるガラケーが鳴り出した。
プルルルッ、プルルルッ!
とりあえず、電話に出ることにした。
「もしもし……」
『……さがし、もの…………し……て……』
プツッ……と言って、電話は切れた。
探し物というのは、一体なんのこと?
しかも、それをどうするのかわからないまま電話が切れてしまった。
────バックの中を一度整理しよう。
日記のページが三枚、花柄の髪留め、鍵の束、安全ピン付きの名札、小包のチョコレート、懐中電灯に写真。
粗塩、手袋……それ以外に目立ったものは拾っていない。
「おい、千乃。ゆっくり調べてる暇なさそうだぞ」
樹に肩を叩かれたかと思えば、不意に目の前にあの女の子が立っていた。
『……ねェ……か、し……あ、ル……?』
青白い身体で血走った瞳。床を猫背で歩く女の子の足には赤黒い何かで濡れていた。
脳裏にフラッシュバックする、川岸さんの遺体。
「はぁ、はぁ……っ!」
……冷静に、冷静になるんだ。
『……ねェ、か、し……ア、ル……ッ?!』
「あるよ……でも」
刹那、樹と目を合わせて一気に一階へと走った。
ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ!
物凄い音と共に後ろを走る女の子。
否、もう呼んでしまっても構わない。
『うんめーさん』と。
『ォかシ、チョォォダ────いッ!!』
今にも襲いかかって来そうな『うんめーさん』。
僕は、バックから小包チョコレートを手掴み感覚で持つと背後に投げる。
……よし、視線が完全に逸れた。
「樹! 僕がこれからすることに合わせて投げて!」
「何か策があるんだな!? わかった!」
小包のチョコレートをパクパクと口に放り込み、満足していないのかこちらに向かって再び走り出す。
「樹! 今!」
「おう!」
そう言って『うんめーさん』に向かって……粗塩を振りかけた。
最初は何をされたか不明だったけど、次第に何をされたか理解してもがき苦しみ出した。
『ウワアぁぁアァアアッ!! 痛ィ! 痛ィヨォォ!』
効くかどうか賭けだったけど、どうやら当たりのようだ。
『うんめーさん』が再び走り出した時、樹に渡していたのは家から持ってきた粗塩。
粗塩は本来、清めの塩としてお葬式とかに渡されるものが多いけど……僕が持っていたのは昔、ある人に貰っていたから。
しかも、それは穢れを払う厄除けの塩なためダメージは大きいはず。
『イヤダァ! イヤダァァァァッ!!』
青白い身体がだんだんと歪な姿に変わっていく。
先ほどまで細かった身体はさらに骨のようになっていき、髪の毛は白髪だらけの老婆のような色合いに。
声からわかる通り、だいぶ弱ってきているように見える。
「どうする、このままかけるか?」
このまま……そうだ、このままケガレを払ってしまえばいい。
川岸さんの仇も、今まで居なくなっていた女子生徒の無念も、全部消せる。
さぁ、やってしまおう。
お前が生き残るにはその手段しか────!
『────女の子は泣かせちゃいけないの』
頭の中で響いた、亡き姉の言葉。
────泣かせちゃいけないから、この時はこうするんだよね、お姉ちゃん。
『イヤダァ、イヤダァァァッ!!』
僕は『うんめーさん』に近づくと、そっと頭を抱き寄せて優しく撫でる。
「ごめんなさい、痛かったよね。寂しかったよね」
泣いていた声がゆっくりと、落ち着いた感じになっていく。
「大丈夫だから、泣き止んで」と言って頭を離すと名残り惜しそうな顔を浮かべるや否や、再び泣き始めてしまった。
『……ケ、ィカ……ゴメン、なサい……わたし、ナクした……!』
探し物……もしかして。
バックから『花柄の髪留め』を取り出すと、両手にしっかり握らせる。
『こ、レ……け、ぃか……の……』
「大切なもの、なんでしょう? 今度は無くさないようにね」
『────ありがとう!』
真っ白な光に包まれて『うんめーさん』は消えた。
最後に見た姿は、『うんめーさん』ではなく一人の少女の姿だった。




