異能力バトルと学園モノは基本的に同時である事が多いような気がしている
ご主人様の異能についての詳細を把握した日から2週間後の昼過ぎ。私は朝早くからご主人様に召喚され、とある場所にやって来ていた。
「へぇ………ここが」
ここは『トップヒーロー養成専門学校』という場所の第一校舎。ここが何処なのかを端的に言えば、この惑星において存在している職業である『ヒーロー』を養成、育成する為に存在している専門の学校、その内に存在している校舎の一つである。
この学校は全国各地から受験生が集まる程度には有名だが、将来の治安維持を担う人員を確保する為なのか入試試験の難易度は段違いで、偏差値は最高峰と言っても過言ではない。その分、入学に必要な基準値を超えているなら何人でも入学可能だという、少々特殊な国立の専門学校である。
実はご主人様、私を召喚したその日に専門学校への入学手続きを行なっていたらしい。それだけ私を召喚出来たのが嬉しかったのだろう。んで、今日は入学の為に試験を受けに来ているのである。
期日で言うと既に4月に突入しているのだが、なんとこの専門学校の入学可能期間は3月の末日まで。今日は4月4日で、入学式が4月10日なので、本当にギリギリな最終試験日が今日らしい。最終試験日ともあり厳しく見られるそうなので、油断は出来ないという。
と言っても、筆記試験は今日の午前中に済ませたらしい。ではこれから何をするのかと言えば………まぁ分かる人には分かるだろうが、異能を利用した実技試験だ。
「ご主人様、とても目立ってますわ。どうしてですの?」
「えっと、キングプロテアさんの服装じゃないかな………ほら、他の人はみんな高校の体操服でしょ?」
「あぁ、なるほど」
大きな運動場の中、500人以上の入学希望者が居る中で唯一ゴスロリドレスを着用している私は相当に目立つらしく、周囲の受験生達の視線が痛い。まぁ視線自体は特に気にならないのでどうでもいいけど、鬱陶しさはある。
視線の煩わしさを誤魔化すようにご主人様との雑談を小声で楽しんでいると実技試験の開始時間になったようで、運動場の前方にある物見櫓というか高台的な場所に1人の男性が立っているのが見える。
「これより、トップヒーロー養成専門学校の今年度最終実技試験を開始する。君達が本当にトップヒーローになりたいと願うなら、最後まで絶対に諦めないように」
高台に立つ男性は黒髪黒目の細マッチョで、一見強そうには見えない。しかし隣のご主人様が言うには、彼はこの専門学校で教員をしているヒーローの中でもトップクラスに強いヒーローなのだという。
数年前までは世界ランキング100位以内とかいう凄いヒーローだったそうだが、今はヒーローと教員を両立しているのだそう。次の世代のヒーローを育成し、今よりも更なる平穏を求めているのだとか。なんとも高潔な男である。優男みたいな雰囲気してるのに凄いことだ。
「今回の実技試験は教員とのタイマンだ。しかし目的は我々教員に勝利する事ではなく、君達がこれまでにどれだけの研鑽を積んできたのか、君達の保有する異能がどれだけの力を秘めているのかを調べる為の試験だ。勝利は必要ない。ただ示せ、己の可能性を我々に示してくれ」
ふむ、良い発破の掛け方だ。勝利ではなく可能性を示せ………ふーむ。となると、私の助力は最低限の方が良いのかな?そりゃあ、私はご主人様の異能によって召喚・契約された異界の悪魔だけれども、私1人の力を示したとしても、それは多分ご主人様の可能性は示せてないよね。
それに多分、ご主人様みたいな使役系や召喚系の異能保有者って、召喚したり使役したりしてるものの力もそうだけど、異能保有者本人も戦えるのを示さないといけないんじゃないかな、とか思ったりして。だって分かりやすい弱点だもの。
………まぁ、だからってご主人様に今の考えを伝えたりはしないけど。だってこれ、私の試験じゃなくてご主人様の試験だし。それに、私もご主人様がどれだけ出来るのか見ておきたいしね。別に私に全てを任せるような軟弱者でもいいけど、出来るなら権能を扱えるくらい精神的に強い子の方が良いじゃん?まぁ、頼まれたんなら力は貸すけども。
「対戦順は受験番号の通りに行う。呼ばれた者から順に前に出て来てくれ。その後は職員の誘導に従うように」
などなど、実技試験の説明を終えると、優男は奥へ引っ込んでいった。その直後から受験番号通りに受験生達がどんどん呼ばれていき、50番目まで呼ばれると一時的に呼ばれなくなった。
「そういえば、ご主人様の番号って幾つですの?」
「僕の番号は………498番だね」
「受験生が500人くらいですから………最後の方なんですのね」
「多分、受験申し込みが遅かったからだと思う」
「あ、なるほど」
何かしら意図的に番号が振り分けられてるとかじゃないんだ………深読みする所だったぜ。最近アリスに連れられて行った遊園地にあっためっちゃ難しい謎解きハウスみたいなのやってクリアしてきたから、若干疑心暗鬼なんだよな私。
クリア者がマジで両手の指の数くらいの難しいやつだったんだけど、器用さの権能をある程度使えるような状態でも尚難しかったからねあれ。何もしてなくても自然と入る器用さ補正以外、全ての権能、準権能、魔法禁止で頑張ってたのもあるけど、それでも私の肉体スペックなら余裕かなぁって思ってたわ。めっちゃ難しかったよね………
何ならアリスの方がテキパキで余裕あったの凄いなぁって。普段から冒険者として色んな場所に行っては自分から首を突っ込んだりして無数の事件に巻き込まれてるだけある。シンプルに対応力が高い。私マジでそういうのはゴリ押しでしかやってきてないからなぁ。この辺はアリスの方が経験がある分長けてるんだよねぇ。
というか、アリスさんってば何事も慣れが早いんだよね。色んな技術に興味があって試してみるもすぐに飽きちゃうの、その辺りも原因だよなぁっていつも思う。相当な早熟なんだろう。その辺りはシンプルに凄い。
私も慣れはそこそこ早いタイプだけど、慣れだけが早いと言うか。一定ラインを超えると途端に成長しなくなるからずっと器用貧乏なんだよな私。まぁ器用の権能に目覚めた今ならそこで止まらずにもっと先にいけるから問題ないんだけど。
そうしてご主人様と雑談をしていると、遂にご主人様が呼ばれた。呼ばれた通りに道を進んでいく。
「遂に僕の番………」
「緊張なさってるんですの?」
「当然だよ………これまでこんな事になるなんて考えた事なかったから、余計にね………」
「まぁ、大丈夫なのではなくって?ご主人様が全力を出し切れば、きっと良い結果になるでしょうし」
そもそも全力を出し切るのは当然なのだが。
「全力………よし、やるだけやってみようかな………!」
あ、これでやる気出てきた?それなら良かった。特に何か深く考えてたとかでもないんだけどな。
そうして指示の通りに歩いていくと、あったのは相撲の土俵みたいな、シンプルに地面が多少盛り上がっているだけの場がある広い空間だった。そこには既に試験官だと思われる教員が立っている。容姿からして男性のようだ。
「よく来たね。今日の試験を担当する清水だ。早速だが、実技試験を開始しよう」
「は、はい!」
ご主人様は言われるがままに土俵に上がり、拳を構えた。
「制限時間は10分。制限時間までに全力を出し切って見せてくれ」
「よし………いくよ、キングプロテアさん」
「えぇ、良いですわよ。存分にやりましょう」
それから10分。私は基本、ご主人様を補助するような動きを徹底していた。攻撃に移ると即座に終了してしまう程度には私が強いので、そもそも経験が少ない事もあってそこそこ苦手な防御や回避を重点に立ち回っていた。まぁ器用の権能があるので問題は無かったが。
それにしても………教官も素手だけど、ご主人様も私も素手だな。まぁ武器を事前に持ち込めるようなタイプの試験じゃなかったから受験生側はそりゃそうだろうなとは思うけども。
「よし、これで終了だ」
「はぁ、はぁ………」
「ご主人様、大丈夫ですの?」
ご主人様はめちゃめちゃ疲労していた。ま、そりゃそうだ。これまで本格的な戦闘訓練なんてやった事なかった奴が戦おうってなってもね。そりゃこうなるわい。
「松村君は戦闘訓練、今日が初めてだろう?それでも最後まで喰らいつけていた。これは評価が高いぞ」
「あらご主人様、評価が高いんですって」
「それは、はぁ、良かったです、はぁ………」
「それと、スカーレットさんだったかな?」
「ええ、ご主人様が召喚した悪魔ですわ」
「君は強いな。恐らく、私よりも圧倒的に。今回は松村君の為に遠慮したのかい?」
「あら、バレちゃいました?」
「あぁ。しかし、召喚系の受験生はあまり見ないからな。どう評価すれば良いのやら………そうだな、スカーレット君1人でもやるかい?」
「ふむ………全力でやっても?」
「すまないが、大怪我はしたくないのでね。それは勘弁してくれないか?」
「仕方ありませんわね。場外くらいで許して差し上げます」
権能を使って椅子型の悪魔を創造し、ご主人様をそこに座らせておく。こっそり座っている人間の疲労が回復し易くなる子として創ったので、まぁ多少休んでもらった方が良いだろう。
「ではスカーレット君、いつでも仕掛けて良いかい?」
「えぇ、いつでもどうぞ」
教官が訓練を受ける側みたいな受け答えをしているが、私は一応受験生側なんだよな。まぁ良いけど。
それから10分。私は完全に器用さ由来の技巧により、教官をずっと翻弄していた。
教官も強い。何より、戦闘が巧い。その挙動からして、恐らく異能は視覚系。多分世界がスローモーションに見えたりするタイプの異能なのだと思う。だから私が素早い攻撃を仕掛けても対処可能で、どんどん速度を上げて行ってもそこそこ対応出来ていたのを見るに、スローモーションの倍率を上げる事も可能なのだと思う。
勿論、教官の肉体そのものが素早く動ける訳ではないので一定以上の速度を超えると教官でも対応不可能になっていったが、通常の人間相手なら容易く屠れる速度に対応できている時点で素晴らしいと言う他ない。
結局、私は教官との戦闘訓練が楽し過ぎて、場外に押し出すとか完全に忘れてしまっていた。ご主人様に声をかけられるまで気が付かないくらいには楽しくなっていた。
「スカーレット君は実に強いな。君、まだまだ速度を上げられるだろう?」
「ええ。ですが、清水教官もお強いですわね。私、ついつい楽しんでしまいましたわ」
「それは良かった。しかし試験中なんでな。松村君も多少は休めただろうし、そろそろ次だ」
「そうですわね………ご主人様、帰りますわよ」
「うん、もう大丈夫。清水さん、今日はありがとうございました!」
「あぁ、良い結果を報告するから楽しみにしていてくれ」
その日の試験はそれで終わった。試験を見ていて思ったが、ご主人様はまず体力を付けた方が良い気がするなぁ。
ここ最近忙しくて投稿忘れてました。来週出るかは怪しいです




