九話 テロに巻き込まれました
初日の調子で、コマドリの色々な都市を見て回った。その度にいろんな馬車を借りたり、歩いたりでのんびりと旅を俺たちは楽しんでいた。
お互いアンデッドだからその気になれば不眠不休でも動けるし、食事だって要らないけれど、やっぱり元人間としてはその辺りしっかり補給したい。心が人間ということを忘れたら、取り返しがつかなくなる気がしたからだ。
そんなこんなで観光巡りし、ついに俺たちは首都ロルドンにたどり着いた。首都というだけあって人も多く町並みもとても綺麗だ。特に街の中央にあるロルドン城は目を引く美しさがあった。だけれどその美しさよりも気になるものが俺にはあった。
それは他の街を巡っていたときも目についたもの。魔族だ。魔族が首輪をはめられ、働かされたりペットのように扱われたりしていた。つまりこれは奴隷だろう。それを街行く人たちは気に止めもしない。これが当たり前だと言わんばかりに。
この国では魔族の奴隷は一般化されているようだ。ボロボロの姿をした魔族は、正直魔族と言えども可哀想に見える。俺たちがいた村を襲ったゴブリンの同族も見かけた。労働力として酷い仕打ちを受けているようだった。
もしかしたら、村を襲ったあいつらは奴隷から逃げ出したゴブリンだったのかもしれない。だからと言って罪もない村を襲ったのは許さないが、それでもなぜか申し訳なく思うほど、奴隷にされた魔族たちは辛そうだった。
俺が奴隷なんて廃止された日本からやってきたからこう思うのかもしれない。もしかしたら魔族の奴隷がいないと回らないものもあるのかもしれない。そうと考えないと正直見てて不快で辛かった。ルーシィは逆にどう思っているんだろう。相変わらず表情は変わらない。何も感じてないのだろうか。
そんなことを思いながら、俺たちはこの街最大の観光名所であるロルドン城へと向かう。ロルドン城は一般公開されているから、玉座の間以外は自由に見ることができる。もちろん衛兵が見張りに着くが。【人魔英雄物語オンライン】ではよくこういう城にはストーリークエストで入っていたとはいえ、その城とはまた違う城。わくわくで胸がいっぱいであった。城門にたどり着いて武器を持ってないかチェックを受けた後に城内へ。
そうして入った城内はまさに王の住んでいそうな(実際住んでいるんだけど)素晴らしいもの。白い壁に無数の絵画がかけられ、見る者の目を引く。さらにところどころ金の細工がされていて、この城の主、その富の高さを理解するには十分だった。
さすが観光名所になるだけはあるな。そう思いつつゆっくり二人で歩んでいる時だった。
「動くな!!」
突如城内に響き渡る怒声。なんだと振り向けば、赤ずきんを被った鎧姿をした何人かのグループが剣を抜いてこちらを脅していた。これは一体。
「【紅珠の翼】だ! 【紅珠の翼】が現れた!」
観光客の一人が悲鳴を上げる。【紅珠の翼】、旅行の途中で聞いたことがある。確か魔族で構成されたテロ組織だったはず。どうして城内にそんな奴らが。くっ、この状況では攻撃はできない。観光客に被害が出てしまう。俺たちは結局何もすることができぬまま、奴らにつかまり、そのまま連れていかれてしまった。
その行先は玉座の間であった。