四話 村人と仲良くなります
あの宴の翌日。嬉しいことにこの異世界転生が夢落ちということはなく、俺とルーシィはしっかりと泊めてもらった家で目が覚めた。その事に安心してほっと息をついた。
ルーシィはまだ眠っている。読書と睡眠が好きな性格に設定していたからそれも特に不自然でなく、眠る彼女の頭をそっと撫でた。サラサラと流れる髪は撫でていて心地よくて、ずっとこうしていたいと思うが、眠らせっぱなしというのもいけないので起こすことにした。
「ルーシィ、朝だよ」
彼女の体を揺する。その度に時間差で大きな胸が揺れるのが眼福だがそれはさておく。2、3度揺すれば彼女は目を覚まして、目を擦りながら体を起こす。そしてこっちを向いていつもの通りに挨拶してくれる。
「おはよう……ゼノ」
「ああ、おはよう」
お互いにベッドから降りて服を着直す。そうして外に出ればそばの井戸端から話し声が聞こえてきた。小さくて聞き取りづらかったが、山賊がどうとかといってたっけ?だけれどあまり詳しく聞くことはしなかった。こういう話に限らず盗み聞くのはあまりよくないと個人的には思っていたからだ。
そして俺達はそのまま村長の元に向かった。昨日は世話になったと例をするために。村長のは相変わらず豪快に笑って気にするなと言ってくれた。皆ばか騒ぎがしたかっただけだからと。それを聞いてやっぱりかと思ったけど、実際楽しかったし気にする必要は無いかなって思った。
「まだまだ宴はしたり無いし、もうちょっと滞在していきな兄ちゃん!」
旅人と伝えたからか、このあとすぐに旅に出るとでも思ったのだろう。村長はそんなことを言ってきた。事実すぐ離れてダンジョンにでも戻る考えだったが……村長の爽やかな笑顔に引かれて別にいいかなって思った。時間に追われている訳ではないし、宴会は見てるだけでも楽しいし、もう少しここにいてもいいかな、そんな考えが浮かんだ。ルーシィに目を向ける。彼女も特に異論はなさそうで、ふっと微笑んできた。
「それじゃあ、もう少し滞在していきますね」
「おう、そうこなくっちゃな!!」
その言葉が満足だったのか村長はまた豪快に笑った。俺もその笑いっぷりに釣られて笑ってしまった。そうして何だかんだで俺とルーシィは暫くこの村に滞在することになった。村はとても居心地が良くて、ずっとここにいたいと思わせるほどだった。村の人たちと一緒に土いじりを手伝ったり、子供達と追いかけっこをしたり、ゆったりとした時間を過ごしていた。
気が付けば少しの筈が結構な時間滞在してしまっていた。それだけ長い間いれば俺とルーシィの関係も大方予想されてくるようで、俺とルーシィの左手の薬指にはめられたエンゲージリングを見られたのが決定打となった。
あんな美人を、隅におけないなとからかわれることも増えた。だけどそれも特に不快という訳じゃなくて、ルーシィと一緒に笑いあったりもした。だけれど、いつまでもここにいるわけにはいかないだろう。
せっかくの異世界、ただ田舎でのんびり暮らすというのは勿体ないだろう。いつかはルーシィと一緒に本当に旅に出て、この世界を巡ってみたいと思う。
そうしてまた日が沈み、家に泊めてもらう。今日も沢山村の人達を手伝った。良いことをすると気持ちがいいとは本当だな。胸がスーとしていく。そんな心地よい疲れと睡魔に従い、俺は眠りに落ちていく。明日、明日この村を出よう。そんな決意じみたものを抱きながら、俺は眠りについた。