十話 拘束から逃れます
玉座の間に連れてこられ、他の場所にいた観光客も集められたようで、そこは沢山の人で溢れかえっていた。皆同様に手首を紐で縛られ自由を奪われていた。勿論俺たちも同じように縛られた。
玉座にはコマドリの王と思われる人物が座っており、拘束はされてないが槍を喉元に突きつけられていた。
しかしこの程度の拘束、その気になればすぐ引きちぎられるが、暴れるわけにはいかない。無関係な人を巻き込みかねない。
そうやって俺たちが動かずいると、テロの親玉と思わしき存在が現れた。他の奴等より一回り大きい、おそらくオーガか何かだろう。赤ずきんのせいで顔はわからなかった。
そのオーガと思わしき人物が王に向けて言った。
「王よ、我らの要求は奴隷解放を宣言と、魔族の人権確保! おとなしく受け入れてもらおうか」
そういうと手に持っていたハルバードを床に叩きつけた。床には無数のヒビが入り、オーガの力の強さをしめす。王と思わしき小太りの男はそれに怯えるが、直ぐに顔をキッとして言い返す。
「たとえ殺されたとしても、魔族なぞに屈するか!」
「そうだな、お前はそうだろうな。だがこれでどうだ?」
そういってオーガは観光客の一人を立たせるように指示する。そうして立たせた観光客の首を一瞬の内にはねて見せた。
辺りに悲鳴と血の臭いが充満する。それらをオーガと思わしき人物が再度床にヒビを入れることで黙らせる。王は悔しそうな表情でオーガを睨み叫んだ。
「卑怯ものめ! 野蛮な魔族め!」
「これから三分ごとにこいつらの首を飛ばす。お前が早くyesと言ってこれにサインすれば、死人は減るぞ?」
ここで俺は考えた。仮に王が屈しなかった場合、首が飛ぶのは俺たちだ。俺は構わないがルーシィの首が飛ぶのだけはごめんだ。いや、アンデッドだから戦闘毎に三回までは殺されても問題ないが、それでもルーシィが一回でも死ぬのだけはごめんだった。
何とかしてこの状況を脱出しなければ。俺は頭を回す。何やらオーガらしき人物が人族と魔族の歴史や、魔族も人族も同じ生き物だから差別はおかしいだとか、人族はこうしないと話を聞かないからこうするのだとか言ってるが気にしてられない。何としても生き残る方法を考えなければ。
そうして考えていると、ふと頭に浮かぶ。これなら行けるんじゃないかと。かなり恥ずかしいが、打開案にはなるだろう。そう思った俺は声を出した。
「と、トイレに行きたいんだが……」
周囲から冷たい視線。痛い。だがこれしか浮かばなかった。オーガらしき人物は一瞬硬直したが、やがて手下と思わしき人物に告げた。
「監視をつけるが構わんな?」
俺は素直にうなずき、監視の魔族と一緒にトイレに向かう。そうして付いていき、道中を覚える。この城の中身は随分と素直な構造をしていた。だからこそ覚えやすかった。
そうしてトイレに着いたのなら、もう暴れても問題ない。魔族が着いたと言葉にするより早く、拘束を引きちぎりスキルを即座に発動させる。叫ばれるわけにはいかなかった、故に最速で仕留める。
「ファストブロウッ!」
俺の裏拳が音を置いて魔族の額にめり込む。頭蓋骨が陥没した感覚が手の甲から伝わる。確実に仕留めた。魔族が絶命して仰向けに倒れようとするのをギリギリで止める。さすがにこの装備で倒れられたら音で気づかれるかもしれない。それを避けるためだ。
ゆっくりと死体を引きずりトイレの中にしまう。これで少しの間バレることもない。そっと音を立てないように玉座の間に向かう。そしてルーシィにメッセージが送れないか試してみる。
【人魔英雄物語オンライン】ではNPCにメッセージは送れなかったし、そもそもこの異世界で使えるのか不安だが、試せる以上試した方がいいだろう。さて繋がるか。一抹の不安を覚えつつメッセージを行ってみると、脳内で何かが繋がる感覚。これはもしやと思っていると、声が直接脳内で響き渡る。
(ゼノ、どうしたの?)
上手くいった、成功だ。俺は喜びたいところだが落ち着いてルーシィに状況を伝える。
(拘束から逃れた。今から助けに行くから、そっちにいる魔族の数を教えてくれ)
(……なるほど、トイレは嘘八百だったわけね。さすがゼノ。で、人数だけど三人と一人よ。今はオーガぽい魔族がどうやって城に侵入したか王に説明してる。城内に協力者がいたみたいよ)
(なるほどそれで警備が多いのに少ない数でバレることなく潜入できたのか)
納得しつつ音をたてないように進んでいく。そうして進みつつルーシィとこのあとどうするか話し合う。ルーシィの話だと彼女は人質集団のど真ん中。身長も相まってそうそう何かしても見つかるリスクは少ない。三人の手下は人質を囲うように配置。オーガらしき人物は王の前に立っているようだ。
さてと、そろそろ玉座の間に着く。意識をさらに集中させる。通路を抜けて、壁に背を預けてその先を覗き見る。ルーシィからもらった情報通りに奴らが立っていた。さあ反撃を始めようじゃないか。俺は静かに拳をぐっと握り締めた。