6話 2-3 ギルドとロプソー武具屋出張所
受付横の小さなスペース。広さは約3平米ほどの場所に棚と剣を立てかける場所があった。
ほとんどすかすかとなったその棚の前に、レミーは持ってきた細剣を引っ張る。
「土産物? そんなものをわざわざ荒くれ者達の冒険者たちが買うとでも?」
リアンは半ば笑いながら、レミーに尋ねる。
レミーは運んできた細剣を出張所の剣のスペースへと並べ始める。
「さっきの小っちゃい剣って、この細剣を間引いたときに出てくる物なんだよ~。だから、まあ」
細剣を並び終えたレミーは次に胸を張りながら棚の空いたスペースに、土産物の小さな剣を陳列し始める。
そして小さく紙に『今、売れてます! アヌス村の特産品!』とさらさらと書くと、棚の縁に貼り付ける。
「これでよしっと」
「おいおいおい、ちょっと待て」
リアンはその紙を見ながら、レミーへと声を掛ける。
「いったい何時から、この土産物が特産品になったんだよ! ウソ書いたらだめだろ」
「んーまあ。こういうのは言ったもの勝ちでしょっ! いつかは本当になりそうだし」
レミーは悪びれることなど一切なく、そう言ってのける。
リアンはそのレミーの様子に呆れた様にため息を吐く。
「まあまあ、良いじゃありませんか」
その様子を見ていたルージアがリアンを諌める。
ルージアは楽しそうにその小さな剣を眺めていた。
「あっ」
レミーは小さく声を上げると、急いで外へと飛び出す。
その様子にルージアとリアンは目を丸くして見つめる。
「これ、忘れてたっ」
レミーは1本の細剣を胸に抱えてすぐさま戻ってくる。
ドスンと受付の上にそれを乗せると、紙に非売品と書いて貼り付ける。
「んんん? レミー、これ売らないのか? というかなんでこれだけ非売品なんだ?」
「へっへ~、なんか最近採れるようになったんだけど、すごい人気なんだよね~、これ」
レミーはその細剣を鞘から引き抜く。
その剣は鞘から抜かれた瞬間、陽炎のようなものが昇り始める。
「あら~凄い綺麗ね~」
「こんなの初めて見るな……。新しい作物でも植えたのか?」
リアンはそう言ってレミーに質問するが、レミーは首を横に振る。
「いや~、何か最近普通の剣に混ざって採れるんだよね~。しかも何か高くしても売れるし」
「えぇ……よく分からないものを売るのかよ」
「まあ、剣は剣だし、大丈夫でしょ……っ!?」
突然、地面が揺れ始める。3人は咄嗟にしゃがみ込んで、辺りのものに掴まる。
天井からつり下がるランプは跳ね、受付のカウンターに置いてあったペンは落ち、綺麗に並べた細剣は床へと転がる。少しして、その揺れも収まり始める。
「あああ~、せっかく並べたのに~」
「ルージアさん、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。リアン君とレミーちゃんは大丈夫?」
「俺は大丈夫っす。レミーもあの様子なら大丈夫でしょう」
床に散乱した商品の前でがっくりとうな垂れるレミーを見ながら、リアンは安心したように声を上げる。
「最近、地震が多くなってきてますね」
「ええ、何でしょうね? 嫌なことの前触れじゃなきゃ良いけど?」
(何だか嫌な予感がする。アグナの大胃袋に何かあったのか……? 最近、冒険者達の帰還数の割合も減ってきているし……。てっきり別の出入り口でも見つけて、そこから脱出しているのかと思ったが違うのか? 1度、他の”アグナの管理人”たちに聞いてみるか?)
リアンは腕を組んで考え始める。
だが、その深謀はレミーの泣き声によってかき消される。
「ひ~ん、これ元に戻すの手伝って~」
崩れた棚、散らかった各種の武器、床に突き刺さった剣。
レミーは剣を引き抜こうと踏ん張っていた。
「アタシは建物にどこか異常がないかどうか見てくるから。リアン君はレミーちゃんの手伝いをお願いね。このままだと人が来たら怪我しちゃうし」
「うっす。おい、お前は細かいものの片付けをやれ。大きいものは俺が片付けるから」
「ひ~ん、リアンさ~ん、ありがとうございます~」
「俺の服で鼻水と涙を拭くんじゃねぇ!」
抱きつくレミーを引き剥がし、リアンは床に突き刺さる剣を引き抜く。
そしてリアンの嫌な予感もこの騒動によって、頭の片隅へと追いやられていくのだった。