5話 2-2 ギルドとロプソー武具屋出張所
ガタゴトガタゴト、あぜ道を1人で行くレミー。
昼下がりの刺すような日に光の下、レミーはひたすらギルドにある『ロプソー武具屋・出張所』を目指していた。
(思ったよりも収穫に時間掛かっちゃった)
頭に泥よけ用の手ぬぐいを結び、レミーは麻袋に包まれた荷物を荷車に乗せて引いていた。
頬には畑で作業したために泥痕が残っており、上着にも汚れが付いていた。
「ふぅ……ふぅ……」
額には汗が浮かび、作業用に付けていた革袋の中は蒸れる。
レミーは革手袋を外すと、涼しさを求めて手の平をひらひらと動かす。
(やっと着いた)
とある建物の前でレミーは荷車を止める。
その建物は石造りで2階建ての小さな建物。ちょうどレミーが荷物を下ろすために準備をしていたところ、中から大柄な男が1人出てくる。
「あ、リアンさーん! ちょっと手伝ってー!」
「……ん?」
手に書類入れを持ち、白いシャツに黒い髪をしっかりと七三に分けた男がレミーの声に反応する。リアンと呼ばれた男は石造りの階段をゆっくりと降りてくる。
レミーの前にずいっと立つリアン。彼の特徴と言えば黒縁の大眼鏡に赤い肌、そして額に生えた一対の角。丸太のように太い腕で麻袋に詰まった細剣の束を軽々と持ち上げる。一方でレミーは背に盾を数枚重ねて背負ってから、片手に小さな袋を持つ。
「親父さんは今日は一緒じゃないのか? あとお前の家で飼ってる馬狼の、えぇと」
「うちの子はデンって名前。デンは父さんと一緒に村の外に行ってるわ」
「ああ、そうなのか。あの親父さんも手広く商売やってるな」
「新しい品種の種も探してくるって、鼻息を荒くしていたわよ」
「お前の家、もう作物を植える場所ないだろ。どうするんだ?」
「さぁ?」
レミーとリアンは世間話をしながら並んで階段を上る。
そしてリアンは肩で扉を開けると、体ごと建物に入っていく。その後ろをレミーも続いて中へと入るとすぐ目の前には『アグナの大胃袋受付所』と書かれたカウンターがあった。
「ルージアさん、こんにちわー。バッキーちゃんで在庫がなくなったことを教えてくれてありがとうございますっ」
「あらあら、レミーちゃん。今日は1人なの? 荷物、重たくなかった?」
その受付所にふくよかで上品そうな婦人、ルージアがにこにことレミーへ微笑んでいた。そしてそのルージアの肩には虹色の羽を持つ極楽鳥のバッキーが、楽しそうにさえずりをしていた。
「ああ、ルージアさん。荷物たくさん、コイツが重そうに持っていたから俺が手伝ったんですよ」
「あらあら、運が良かったわねぇ」
ニコニコとした表情を崩さずルージアはレミーを見ながら、ゆっったりとした口調で話す。
そこでふと、ルージアはレミーの持つ小袋に気がつく。
「あら、レミーちゃん。その手に持っているのはなぁに?」
「あっ、これはですねっ!」
がさごそと袋の中を漁り始めるレミー。
そこから出てきたのはペーパーナイフほどの小さな剣。
「”アヌイ”のお土産にどうかなーって」
レミーは柄部にアヌイと掘られたナイフを見せつけながら、どやっとした表情を浮かべるのだった。