3話 1-2 冒険者のお客さん
レミーは店の裏側へと通じる扉を開けて、客であるカノンを案内する。
店の裏側には薪や手押し車が置いてあるが、小さな広場がそこにはあった。
「今、試し切り用のカカシをたてますねっ!」
レミーはいそいそと広場に立てられていたカカシに、人体を模した草の塊を巻き付ける。
頭、胸、腕、そして下半身。それらの部位に手際よく草の塊を巻き付けると、カノンの方を振り返る。
「準備出来ました~」
「うむ。それじゃあ、少し離れてくれないか?」
カノンのその声にレミーはすぐさまそこを離れる。薄汚れた革靴を鳴らし、カノンはそおのカカシの前へと立つ。
そして背にある”オーガ狩りの剣”を引き抜いて構える。カノンの身長近くあるその巨剣を、軽々と片手で振り回す
「ふっ!」
人の腕ほどの太さはあるカカシの首部。それが一瞬で木片となり、宙を舞う。
巨剣をそのまま背に差して満足げにカノンは頷くと、次は腰に携えた陽炎たつ剣を構え、目を閉じ、浅く呼吸をする。
「ふっ!」
カノンによる”居合い”。
ザンッという音ともにカカシの上半身は真っ二つになり、地面へと転げ落ちる。
カノンの剣術の腕前と剣の切れ味、両方の証明となるがカノンは何か納得がいかないように剣を見据える。
「ふーむ、これは」
「どうかしましたか?」
カノンはレミーの問いには答えず、何かを考えていたようであった。
剣を納めると、カカシから離れる。
(何がしたいのかしら?)
レミーは無言でカカシから離れていくカノンを見ながら考える。
カカシから20歩ほどは離れた距離で、カノンは再度腰に携えた陽炎たつ剣を構え、目を閉じ、浅く呼吸をする。
「ふっ!」
一拍置いて、ザンッという音が辺りに響く。直接触れていないカカシの下腹部。それが縦に大きく裂けて地面へと転がる。
見たこともないカノンの技に、レミーは声も出せずに固まってしまう。
「こんなに良い剣がこの世にあったのか、いや、ありがとう。これでアグナの大胃袋に向かえるよ」
カノンは満足そうな表情を浮かべると、そのまま店の裏手から柵を乗り越えて外へと出て行く。
(斬撃って、宙を飛ぶの……?)
レミーはそんなことを考えながら、消えていくカノンの背を見送るのだった。