忍び寄る疫病-1
日が地平から顔を出し、地上は段々と明るくなっていく。
とある牧場内に建てられた1軒の小さな家。その一室のベッドにて上半身を起こして、目を擦る少女が1人。
「ん~……うん?」
大きなあくびをしながら、背伸びをする。
そして枕元に置いてあった銀縁の眼鏡を掛けて薄く掛けた毛布をどけて、床へと紅い鱗の”蛇の様な脚部”をベッドから降ろす。半人半獣の彼女の名前はレミー。寝癖の付いた赤い髪を急いでまとめ、寝間着からツナギの作業着へと着替える。
「畑を見に行かないと!」
音を立てないように自室の扉を開けるとキッチンを抜けて外へと飛び出す。
外から2階にある父の部屋を見やるレミー。その部屋は死んだように静かであった。
(お父さん、昨日もお店を閉めた後で村長さんたちと”会合”に行くっていって帰ってこなかったのよね)
未だ寝ている父に代わってレミーは道を走り、家のすぐ横に建てられた納屋で必要な道具を準備する。
茶色の革手袋に無骨な火箸、端がほつれた前掛けを身につける。そして最期に剪定用の大挟みを背負うと、畑に向かって急ぐ。
(今日は細剣畑の雑草抜きと片手半剣がそろそろ収穫が近いからそっちの様子を見て、あと……)
レミーは畑への道すがら畑仕事の内容を考える。
水やり、雑草抜き、剪定。地味な仕事であるが、良い作物を作る上では大切なことである。作物同士が触れてしまう余分な枝葉は落として満遍なく日光を当てるようにし、雑草は土壌の栄養分を奪うと共に害虫の温床や生育した結果作物の日光を奪う。水やりもまたやりすぎや逆にやらなさすぎも作物の生育や見た目に影響を及ぼす。農家の仕事に”簡単”な仕事などないのだ。
(ふんふんふーん♪ あれ?)
畑に着いたレミーは道具を下ろしながら、ふと細剣畑に違和感を覚える。昨日まではまだ小さいながらも綺麗な銀色の刃とその刃から青々とした枝葉が生えていた。しかし今レミーから見えるのは青々とした葉ではなく、表面は点々と黒い痕がいくつも浮き出ていた。
レミーはそのことに気がつくと、急いで畑の中を駆ける。レミーは急いで1本ずつ剣の枝葉を確認していく。そして確認し終えると、急いで道具の置いてある納屋へと引き返す。
(畑の3分の1ぐらい病気が広まってる……。 たしかあの病気は”黒点病”だったはず。なら納屋にある農薬を撒けば良くなるはず)
レミーは納屋へ飛び込むと、小瓶に入った薬剤と鉄製の噴霧器を持ってすぐさま畑へと戻る。
鉄製の重たい噴霧器の肩ベルトが身体に食い込むが、そんなことを気にする余裕などない。
(日が上がりきる前に薬を撒かないと……!)
レミーは地平線から完全に上がりつつある太陽を見ながら、畑へと急ぐのだった。




