13話 4-4 畑荒らし
日は落ちていき、夕闇が迫ってくる。
畑の近くで寝ていたヌエは目覚めると、隣で寝ていたレミーを揺り起こす。
「レミー、ほら起きて」
「ん~……ん?」
レミーはぶんぶんと頭を振ると、ゆっくりと顔を上げる。
そしてぱちくりぱちくり目を瞬かせると、思い出したように声を上げる。
「あっ、もうこんな暗くなってきてる……」
「アタシは辺りを見て回ってくる。それでレミーはもし獣が近づいて来たら、このベルを思い切り鳴らして」
ヌエは拳ほどもある金色のベルをレミーへと渡すと、愛弓を持って立ち上がる。
そしてふと気がついたように1度離れ掛けたヌエはレミーへと振り返る。
「そういえば、獣って火を嫌がるからしっかりと着けといてね。たぶん、そうすれば畑の中にまでは来ないと思う」
「はーい」
そういうとヌエは畑を通り抜けて森の中へと消える。
一方でレミーは持ってきていた細剣を腰に携えると、近くから枯れ枝と枯れ草を集め始める。そして胸元から火打ち石を取り出すと、枯れ草へと火を点ける。
「うーん、この後どうすれば良いのかな」
レミーはぼんやりとたき火を見つめて、ヌエのことを考える。
レミーとヌエは2人が物心ついてからの友人であり、ヌエは森の中で育ったので、色んなことをレミーに教えてくれたのだ。食べられる果実や、野草の美味しい時期、森の中の危ない場所や、綺麗な花畑まで。
そんなヌエのことを心からレミーは信頼していたのだった。
「ヌエちゃんが……言うなら……へい、き……」
そんなことを考えながらぼんやりとたき火を見つめていたレミーはうつらうつらと眠気に誘われていく。
うつむき、眠気に誘われるまま小さく寝息を立て始めるのだった。
「レミー!!!」
「え……」
どのぐらいレミーは眠ってしまったのだろうか。目の前のたき火はすっかりと勢いをなくして消えかかっていた。
大声で起きたレミーの前に、弓を構えたヌエが立っていた。
「レミー、何か様子が変だ……レミーは急いで逃げて!」
「ぬ、ヌエちゃん……?」
そこでレミーは気がつく。己とヌエが獣の群れに囲まれていることを。目が慣れたレミーの目に映ったのは熊の体躯はあるイノシシ、ブアー。
牙を剥き、レミーへ突進してくる。レミーの隣に居たヌエは弓を引き絞り、ブアーへと矢を放ち続ける。
1本目はブアーの左目へと突き刺さり、2本目は額へと突き刺さる。
だがブアーの勢いは止まることはない。ヌエは3投目を諦めて、咄嗟に真横へと飛ぶ。だが。
「ぐぅぅぅ!?」
ヌエを追うようにブアーもまた左へと軌道修正する。そのせいで、ヌエの腹部へと衝撃が走る。
さらにヌエの手に持つ弓も真っ二つに粉砕される。
「ヌエちゃんっ!?」
「アタシのことは良いから早く逃げてっ!」
ヌエは地面に転がりながら叫ぶ。
だがレミーの足は咄嗟に動くことが出来なかった。
(怖い怖い怖いっ。 ……でも逃げたらヌエちゃんが)
細剣を引き抜き、構えるレミー。
そのレミーにブアーは突進してくる。恐怖のあまり、レミーは細剣を突き出したまま目をつぶってしまう。だが、いつまでたってもレミーにブアーが突進することはなかった。
(えっ?)
うっすら目を開けると、そこには大男が盾になるように立っていた。
頬と額に傷がある筋肉隆々な大男。その姿を見た瞬間、レミーの顔に笑顔が満ちる。
「おっ、お父さんっ!」
「まったく、ようやく帰って家に居ないから畑を見に来たんだがな。なんだ、この大騒ぎは」
「だ、ダンさん……」
レミーの人間の父親である”ダン・ロプソー”。
ダンは掴んだブアーをそのまま力任せに振り回し、宙へと放り投げる。
「わしの畑を荒らすやつぁ、例え神でも許さんぞ!」
次々に宙へと舞うブアー。
熊より大きいそれを、まるで紙細工のように軽々と放り投げる。そしてしばらくすると、獣の群れは姿を消していた。
「ふぅ、終わったか。おい、ヌエちゃん、歩けるかい?」
「ダンさん、すみません。ちょっと歩けそうにないです……」
「ふむ、ならバンドゥのじいさんのところに行くか。なに、わしがたたき起こせば1発よ」
そういうとダンはヌエを優しく背負う。
そしてレミーの方を振り返ると、口を開く。
「レミー、お前は怪我してないか?」
「う、うん」
「なら家からお金をいくらか持ってバンドゥのじいさんのところに来てくれ。何があったかは明日聞こう」
そういうと風のように走り出したダン。
その様子を見ながら、レミーは自宅へと引き返すのであった。




