1話 プロローグ
日が地平から顔を出し、地上は段々と明るくなっていく。
とある牧場内に建てられた1軒の小さな家。その一室のベッドにて上半身を起こして、目を擦る少女が1人。
「ん~……うん?」
大きなあくびをしながら、背伸びをする。
そして枕元に置いてあった銀縁の眼鏡を掛けて薄く掛けた毛布をどけて、床へと紅い鱗の”蛇の様な脚部”をベッドから降ろす。半人半獣の彼女の名前はレミー。寝癖の付いた赤い髪を急いでまとめ、寝間着からツナギの作業着へと着替える。
「急いで収穫しないと!」
ドンッと大きな音を立てて自室の扉を開けるとキッチンを抜けて外へと飛び出す。
外に出る瞬間にちらりと室内に視線をやり、仲に誰も気配がないことを察するとため息を吐く。
(お父さん、まだ帰ってきてないんだ)
レミーは急いで道を走り、家のすぐ横に建てられた納屋へと飛び込む。
そして茶色の革手袋に無骨な火箸、端がほつれた前掛けを身につける。そして最期に金属の繊維が編み込まれた大カゴを背負うと、畑に向かって急ぐ。
(急いで収穫しないと、商品にならなくなっちゃう)
重たいカゴはレミーの肩へ食い込み、駈けようにも脚部は蛇。当然、遅い。
だがレミーは1秒でも早く畑へと向かうために、脚を動かすのだった。
「はぁ……はぁ……」
(ギリギリになっちゃった……)
汗を袖で拭い、大きくため息を吐く。
レミーが畑に着くと朝露に濡れて、細剣が等間隔に畑から生えていた。その剣の切っ先が天を真っ直ぐに差し、朝日でキラキラと光り輝いていた。
「よしっ、収穫収穫~!」
自身を鼓舞するように声を出すと、火箸を持って剣の畑へと脚を踏み入れる。
手前の剣を火箸で掴むと、剣の根元へ手を当てながら引き抜く。
「まずは1本目っ」
引き抜かれた剣。地上部は刃であり、根っこに当たる部分には柄が形成されていた。
レミーは土を払うと、背負ったカゴの中に入れていく。そして流れる作業で、次々と剣を収穫していく。
「ああ……途中で割れちゃってる」
何本も剣を引き抜き収穫するレミー。だが剣の中には育ちすぎたのか、刃の途中で割れてしまっているものも出てきてしまっていた。
レミーは残念そうな表情を浮かべると商品にならない剣を畑から引き抜いて、地面へと置いて行く。
(……?)
そうやって良品、不良品を選りながら作業を進めていたレミーの目に1本の剣が目に止まる。
一見すると他の剣と同じであったが、よくよく見ると剣から陽炎のようにオーラがほとばしっていた。
(何なんだろ、これ。初めて見る。 ……でも、とっても綺麗)
レミーはその剣だけは別に収穫すると、急いで残りの剣を収穫していく。
少しすると、その一区画に大量に並んでいた剣は全て畑から姿を消していた。
(お父さん、馬狼を連れて行っちゃったのがな~。あの子が居ないと、何回も往復しなきゃならないし)
レミーは父が連れて行った貴重な労働力を思い出しながら、何度も自宅と畑を往復する。レミーの父親は外の村に刀剣を売りさばき、代わりに食料品を買い込みに出かけていた。
レミーが居る村は呪われた村”アヌイ”。この村では一切の作物が畑から収穫することはできない。口に出来る作物を植えても、それらは固くて鋭い刀剣へと成長してしまうのだ。
(はぁ、この村にまともな作物が育たないのも、”アレ”のせいでしょ)
レミーはある方向に視線をやると、そこには薄いながらも黒い煙が空に上っていた。
(”アグナの大胃袋”。あのダンジョンのせいで野菜の1つも育たないけど、その分あそこに潜る冒険者の人たちに収穫した剣とか売れるのよね~……)
そこまで考えながら動いていたレミーであったが、そろそろ父親の代理で勤める商店の開店時間が迫っていることの気がつく。
収穫した剣を持って、急いでお店へと向かう。
小さな村の端っこに、レミーの店はあった。
木造の小さな建物、そして正面のドアの上には『ロプソー武具屋』の看板が掲げられている。
「よしっ!」
そう言うとレミーは『ロプソー武具屋』の看板を見上げる。
彼女が育てた畑から収穫されたオーラを立ち上らせる剣。それがこの日より時々畑から収穫されるようになり、冒険者の間では”聖剣”として噂されるようになるのであった。