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「っとー、わぁすご!一瞬で場所変わったー」
さっきまで居た白い空間から瞬きして目を開けると場所が変わり、見覚えのない場所にいた。
石畳に石壁に無骨な窓、漆黒と青の玉座、夜空と海が混ざった綺麗な色の水晶が台座に二つ置かれただけの場所
ここは【星海のダンジョン】のダンジョンマスターの部屋だ。そう頭に埋め込まれている。
私の部屋、石ばっかりはやだなぁ
そんなことを考えながら玉座に座らず、周りを見渡していた白ちゃんの傍に腰を下ろし、首辺りを撫でると気持ち良さそうに喉を鳴らす白ちゃん
んー可愛い!
暫く愛でているとふと気がつき、さっさと考えて結論を出し白ちゃんに知らせる
「ダンジョンマスターってさ、自分の陣地に近づく輩はわかるみたいでね、今様子を窺ってる人達がすぐそこにいるからちょっと宣告してくるわー」
『……いや、ちょっと待て。何の宣告だ?』
ゴロゴロ喉を鳴らしていた白ちゃんがミルキーブルーの瞳で私を鋭く射抜く
やだ、カッコイイー!
キリッとした白ちゃんに胸を撃たれてふかふわの頬に頬でスリスリする
「ダンジョンポイントって自分の管理してる自然が守られていることと生き物がダンジョンに入ることでポイントが入るのね。」
『……ああ、お主は人間を煽るわけか』
「ピンポーン!」
賢い白ちゃんはすぐに理解してくれた。
そう、私は人を煽って大勢の生き物がダンジョンに入るように仕向ける。
上手くいくかなー?いくと良いなー
白ちゃんから離れ髪を後ろに払い少し着崩れていたドレスを整え、今居る“玉座の間”にある唯一の窓に向かう
その後ろを付いて来る白ちゃんに苦笑いが溢れる。私は幼児じゃないんだからそんな心配いらないよー
そう思いながらも心配されるのは嬉しかった。
「さて、この世界の人間さん達はどんなかなー?」
『その前にダンジョンを見たいぞ』
「あ、そーだった!忘れてたわー 外見わかんないんだよねーまだ。見よ見よー」
窓に身を乗り出しそのまま飛び降りた。
後ろからする白ちゃんの驚いた声を耳にしながら、私は目に映った光景に息を呑む
満天の星空
キラキラ輝く海
空と海の境界線
「綺麗…」
美しい光景に思わず声が漏れ、視界が滲む
前の私は外に出ることなんて16年生きてても片手で数えるほどで、遠出なんてできるわけもなく体を動かすこともできなかった。
私の景色は病室とテレビだけ
それが今、私は“外”で“星空”や“海”を見ている
私自身の目で、肌で感じながら
なんて、幸せなことなんだろう…
「本当にありがとう…神様。」
滲んだ視界を拭うことなく私はその場に留まり、先程まで居たダンジョンを見る
それは巨大な塔だった。
海岸から500メートルほど離れたところに建つ天まで届きそうな真っ白な巨塔
小花の咲く蔦が所々に絡まり神秘的で美しく、
海と星空がその美しさを引きたてていた。
「わぁ…神様、センス良いー…」
見惚れる私の傍に白ちゃんがバチッと稲妻を放ちながら静かに降り立つ
やっぱり【白雷】ってピッタリだよねー
『飛べるならば飛べると言うてから降りんか。肝を冷やしたぞ。』
「ふへへっ 心配してくれてありがとー」
『……はぁ。』
あからさまな溜息を吐いた白ちゃんがバチバチと放っていた稲妻を抑えそのミルキーブルーの瞳を塔へ向け、そして息を詰め『見事だな』と呟いた。
やっぱり誰が見てもそう思うよねー 私の所有物的なものだから褒められると何か照れるー
「今日から此処が私と白ちゃんの"家"だよー 大事にしよーね。」
『家……、……我にはよくわからぬが害をなす者は消し炭にしてやろう』
「ははっ バチバチっとやったれー」
白ちゃんの頭を撫でもう一度、満天の星空と美しい海を見て、また塔を見上げる
この光景とこの場所を護るために…
「さぁ、宣誓しようか。」
洗脳だろうが何だろうが、ここを護りたい。
私の初めての家
初めての景色
すべて私の所有物なんだもん。
失いたくないなら護らなくちゃねー
呆然と私達を見上げている"人間"を見下ろし、ふわりと微笑んだ。