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「さぁさぁ!飛び込むのだ、黒騎士さん!」
そう言って笑う私に周囲の人々が青褪め震え、言われた当人は死を覚悟した顔で剣の柄を握り目を閉じる。
只今王様達とのお話が終わって塔から地上へ戻ってすぐ、待っていた人間達が騒ぐのを王様が一括で鎮めてから私は優しさ全開で言っていた。
穏やかな海の中に異様なほど渦巻く渦潮
私が最初の試練として与えたもの。
グルグルと渦巻く場所のギリギリ近くに舟で来た人間達の代表として黒騎士さんを指名した。
何故か皆生贄か何かかと思ってるのかもしれないけど、違うっての。私そんなもんいらないし!
「星海のダンジョンに初めて踏み入れる栄誉を黒騎士さん、貴方にあげましょう!さぁ!飛び込んで!」
「………陛下、白騎士、後のことは頼みます。」
「黒騎士……、」
「ふざけるな!生きて帰って来い馬鹿!」
真剣な顔の黒騎士さんを少し潤んだ目で見る王様と涙いっぱいに溜めて怒鳴る白騎士さん
なんだかなぁ、私が悪いことしてるみたいじゃん。
「もおー!早く早く!ほら!さん、にー、いち!」
次の瞬間、意を決した黒騎士さんが舟から渦の中へ飛び込んだ。
――――――――
死を覚悟した。
荒れる海に飛び込むことは即ち『死のみ』だと海乃邦の人間は知っている。
だからあのマスターは俺を殺すつもりなのだと思っていた。
なのに渦に飛び込んだ俺が目にしたのは、
「なんだ、ここ…」
美しい青の世界。
先程マスターに連れられた場所とはまるで違う、何もない視界全てが海の中だった。
魚も珊瑚も岩も何もない、足元さえも砂ではなく海で何故自分が立てているのかさえ不思議だ。
ただその中で唯一白い塔があり、その塔には地上では見当たらなかった巨大な扉
此処がダンジョンの入口なのだと理解する。
不思議な青の世界で唯一の白塔は美しく見えるが、どこか異様な圧を感じて近づくことができない。
目だけが異様な塔を向く中、ぽん、と何かが俺の肩に触れ反射的に剣を抜き振り払う
「わっ、ごめんごめん!ビックリさせちゃったー」
「…っ、マスター……」
手をヒラヒラ振って笑っているダンジョンマスターに息を吐いてしまうが、そもそもコイツは敵だと気を引き締める。
コイツは『危険』だと解っているのに何故気を緩めてしまうのか、騎士として恥じだ。
「さぁ、黒騎士さん。死ぬ覚悟はできた?」
ほら、やはりコイツは『危険』だ。
解っているのに何度も再確認せねばならない俺は、まだまだ精神が弱い。
「最初の試練は『死を覚悟すること』なんだよー
黒騎士さん、見事クリア!おめでとう!」
「試練…?『死を覚悟すること』?何の話だ。」
「私が勝手に作った試練だよ!これは神様の関与なしなのです。」
そう言って笑うマスターは、初めて姿を現した日と同じ神秘的な雰囲気を醸し出していた。
「星海のダンジョンは様々な試練を乗り越えて攻略して行くものです。これは攻略者になる者に与えられる、強さを求めるための試練。」
「強さを…?」
「あの渦潮に飛び込むことは自殺行為。それを貴方は成し遂げた。死を覚悟した者は強いのです。」
微笑むその姿は慈愛に満ちていて、〔母〕というものがいたのならこんな感じなのかと場違いに思う
二色の青が俺を見つめ、美しい手が伸びてくる。
その掌には先程見た、マスターの瞳の色が混じり合った美しい玉
「星海のダンジョンに初めて踏み入れ、最初に試練を乗り越えた貴方に魔力玉を授けましょう。」
「俺に…、」
「貴方は世界のどこの自然を生き還らせるんでしょう。とても楽しみです。」
それで終わりだと背を向け巨大な扉に向かうマスターの後を自然と追う
歩くたび揺れる長い髪と青いドレスと青い世界は不思議なほどしっくりと俺の中にハマった。
この怪物は『海』だと。
全てを包み込み、飲み込む大きなモノ
「さぁ、攻略者さん。頑張りなさい。」
開いた扉の向こうには何があるのだろうか。
あの日抱いたのは『生きる力』と『闘志』
叶うのならば、その先を見てみたい。
この怪物のモノを、己の目で。




