央州戦線 その02
「…………」
空の上で待機中。
合図に関して特に何も言っていなかったので、俺はひたすら待つしかない。
とはいえ、何もしていないわけでもないんだが……『SEBAS』が暇潰しの集大成を伝えてくれる。
《解析完了──『宣教師』の権能の効果は、教導効率・発言浸透率の向上のようです》
「教えるのが上手くなるってことか。あと、後半は信じてもらいやすくなるって捉え方でいいのか? 普通に教師をやるにしても、便利な権能だな……ああ、それだからか」
《スキルの習得率だけでなく、成長速度などにも補正が入るようです。すぐに詳細を調べ上げ、魔道具化を進めます》
「頼んだぞ。前半はともかく、後半はいろいろと使えそうだ。言葉を浸透……ってことはたぶん、洗脳にも使えるだろうし」
言い方はともかく、できることの中で最悪の事象はそれだろう。
少なくともその本来の主は、そういったことには使っていないようだが。
「どうしようもない屑が相手なら、遠慮なく使っておきたい。このゲーム、たぶん精神攻撃とかもあるだろうし……その逆、耐性とか心を遮断するスキルとかもあるだろう」
《精神耐性や精神障壁などのスキルが確認されています。有志たちによって[掲示板]に情報を開示されていきますので、本には記されていない情報が手に入ります》
「そうだな……俺もちゃんとスキルを習得できていたら──あれか?」
会話をしていると、チカチカと灯りが外壁の上で点滅しだす。
双眼鏡で点灯している辺りを覗くと、そこにはやはり『宣教師』が居た。
いったいどうやってやったのか、もしかしたら協力者がいたのかもしれない……が、そういうことを考えるよりは、とりあえず移動することに。
「結界は……うん、解除されているな。時間も無いかもしれないし──『SEBAS』」
《畏まりました。自動走行を開始します》
時間も無い(かもしれない)ので、運転を『SEBAS』に委ねてすぐに移動する。
とはいえ、結界を斜めに走らせてその上を進んでいくだけだが。
これまでと違うのは、光学迷彩や魔力隠蔽などによって存在を分かりづらくしているところだ。
そしてそのまま、結界の在った場所を通り抜け……外壁の上へ降り立つ。
待っていた『宣教師』が、すぐにこちらへ駆けつけてくる。
「『生者』君、すぐに乗せて!」
「……何か、あるんですか?」
「ちょっといろいろ不味くてね……早くしないと、危険なことに……!」
「……分かりました。私の後ろに」
ギュッと体を掴んでくる。
こうなることも想定していたので、予め死に戻りしても肉体が維持できるようにしておいた……じゃないと貫通するし。
「では、行きますよ!」
「……よしっ」
もう乗せてしまったからには、進むしかないだろう……だが分かった、これ乗りたいからやらせたな。




