騎士王 その01
「──私は、ブリタンニアで円卓の騎士をしている『ガウェイン』と申します」
現れた男は、俺にそう挨拶する。
金髪の外人さんなんだが、西洋のイケメン感がとんでもなく出ていた。
国や名前など、いろいろツッコミたいところはあるんだが……まあ、置いておく。
「これはご丁寧に、私はツクルと申します」
「貴方のことは王から聞いておりますよ。今回は──その、申し訳ありません」
「いえ、本当に危なくなったら助けを求めますので……お願いできますか?」
「ええ、お任せください」
男の騎士鎧と剣がこすれ、金属音が小さく鳴り響く。
謝罪しようとする仕草もなんだか映えており、男性としての敗北感が重々しく俺の肩に圧し掛かる。
くそっ、歴史の写真とか肖像画って絶対に信じちゃダメだな。
「ガウェインさん。私はどのようにして、この場所へと連れてこられたのですか?」
「ブリタンニアには優秀な魔術師が一人居まして……その者がツクルさんにのみ反応する魔術を構築して転位を、と計画では知らされています」
「そのようなものがあるのですか」
「私はいちおう、貴方が暴走した際の鎮圧として派遣されました。ツクルさんが理知的な方で良かったです」
「貴方のような方を相手に暴れても、何もすることなく終わるだけですからね」
だって貴方を見ているだけで、『超越者』と同じ……とまではいかないが、かなり命の危機が察知できるんだぞ。
よし、そろそろツッコもうか。
なんか一周回って冷静になれたし、ツッコもうとしていたことを解決していこう。
まず国名、完全にブリテンだよな。
こっちでの名前はブリテンの昔の名前だ。
それが時間を掛けた結果、今のグレートブリテンになったと言う話もあるが、スルーしてくれ。
次に名前、ガウェインって完全にアレじゃないか。
たしかに『騎士王』と会った時点である程度予測はしていたんだけど、やっぱり円卓の騎士だったんだな。
まあ、紹介で円卓の騎士だって言ってたから、その時点で顔が歪んだ気がするが。
……ここから分かること、あの『騎士王』が確実にアーサー王であることだ。
ガウェインは円卓の騎士として、アーサー王に仕えた男。
彼が仕える主となれば……必然的に、そうなるんだよな。
「あの、変な質問なんですが……円卓の騎士の皆さんの名前って、本名なんですか?」
「そういえば言っていませんでしたね、円卓の騎士たちの名は代々引き継がれています。ただ、初代から変わっていない者も極僅かにですが残っていますよ。それ以外の者は全員が、名を捨てて新たな名を授かった者たちとなります」
「えっと、つまり今の立場になったから、貴方は『ガウェイン』を名乗っている、と言うことですか?」
「そういうことになります。かつての名前は誓約で語ることはできませんので、予め謝罪しておきましょう」
「あっ、いえ。お気になさらず」
ちなみにこの会話は、それぞれが徒歩で移動しているからこそできている、とてものんびりとしたものだ。
本当は近くに馬を用意してくれていたとのことだが、馬に乗った瞬間に死ぬなんてオチは虚しいので遠慮しておいたぞ。
嗚呼、そろそろ城壁に辿り着くな。