空間転位
そもそもこの星から物理的に脱出したとして、宙の先には何があるのだろうか。
地球と同じように星々の輝く真っ黒な海が広がっているかもしれないし、不思議な生命体が漂っているかもしれない。
果てなき宙へと強い意志を抱き、人々は科学を進歩させていき……ついには意志は遺志となり、人類の移動範囲を大きく広げるものにまでなった。
えっ、何が言いたいかって?
「──要するに、移動技術はマジチートってことだよ」
俺の建てた小さな小屋の中、そこには魔法陣が中心に敷かれたガラスのケースが置かれている。
例えるなら、映画とかでよくある実験する奴を入れる場所だな。
そんなケースの近くにある装置を弄っている俺は、先ほどの言葉を呟いていた。
「だいたいさ、星の管理は『SEBAS』にお任せって……もう俺が居る必要ないよな。この星に俺がいる必要ってあるの? もう完全に価値が皆無じゃん」
神羅万象、ありとあらゆる事象はお任せあれなAI──『SEBAS』である。
よくよく考えたら、そうなるのは当然であり必然だよな。
ネットにはたくさんの知識が眠っている。
人文科学、社会科学、自然科学、医学などなど……人の身では完全に収めることのできない膨大な量の智慧を学んだ『SEBAS』にとって、できないことを探す方が難しい。
しいて言うなれば、肉体が無いのが問題であろうか。
物理的な行動ができないため、機械を介しての補佐しかできない。
「体を用意しても、その情報量に耐えられる素体が用意できないしな。今の:DIY:だとまだ作れないだろうし……これはまだ、もう少し後の話だ」
今取り組んでいるのは、転送用の魔法を改変した──相互間の転位装置の作成だ。
二枚の魔法陣を繋ぐように設定しておき、いつでもこの場所へと戻って来れるようにしようと考えている。
細かい座標の設定は、ここに置かれた装置と『SEBAS』が行ってくれる予定だ。
「──よし、早速試してみるか」
機械を操作し、時間差で魔法陣が発動するように確定する。
すると魔法陣に乗ってしばらくして、足元のそれは眩く輝いていく。
そして、光が俺の視界を奪うと──視界は先ほどまでのものとはまったく異なった。
視界には真っ黒な空と人工的な太陽、足元にはそれによって青色の光を放つようになった大海……他には、透明度が高いガラスのような板と魔法陣しかない。
「おぉ、やればできるもんだな!」
この場所は特殊な鉱石を混ぜ込んだ足場によって造られた、いわゆる特殊フィールドと言ったところだろうか。
地球という天体と同じく地動説を元に動く球体の、果てしない水平線が広がっている。
魔法陣でしか移動できないようにと、今まで一度も来れないようにしていた場所なのだが……本当に良い景色が見れそうだな。
転位実験は成功、これで計画は第二フェイズへと移行できる。
待っててくれよ、新世界よ!