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巫女 その08



 先手必勝、と言わんばかりに魑魅魍魎の物ノ怪たちが動きだす。

 俊敏な性質を持つ物ノ怪たちは、自身の周りに風や雷を纏ったまま勢いよく進む。


「千苦、援護する! 防いでくれ!」


「ああ、了解した!」


 何重にも及ぶ物ノ怪たちの連携攻撃を、千苦はたった一人で受け止めていく。


 かつて、千の苦渋をあらゆる生命に下したことから、その名を与えられた千苦。

 黒鬼としての病魔的な性質だけでなく、他者を苦しませる行動であればなんでもこなすことができる。


 ──故に千苦は相手を生かさず殺さず、同胞たちを鎮圧し続けた。


「なぜ邪魔をする! 鳥居が開かれれば、この先に何があるかなど……お前ならば、理解しているはずだぞ!」


「分かっているさ。だが、籠の中の鳥にしていてはどうなるか……その先へ目を向けろ。狐魅童子様に苦を課すつもりか!」


「千の苦の主が笑わせる! そこまでして、あの男へ手を貸すつもりか」


「ふっ、私は見たのだよ。見下していた魔物たちが、そして恨んだ『超越者』が手と手を合わせて共に過ごす有り様を」


 ツクルとその星に住む魔物たち。

 その光景は、千苦のナニカを変えた。


 そして今、その未来を守ろうとした少女にも光景を見せようと……与えようと千苦は同胞を敵に回す。


「狭き箱など、他者への憎悪など必要ない。本当に必要なのは、広き世界と他者との和解だ! アイツは約束し、今も繋ごうと動いている。ならばそれを願った私が、何もしないわけにはいかないだろう!」


「こ、この裏切り者が! 陰陽師共に与するならまだしも、『超越者』にだと!? ふざけるのも大概にしろ! 千苦、貴様もそこで何かをしている『超越者』も同罪だ! ここで殺し、すべてを元に戻す!」


「……やれるものなら、やってみろ。だが、一つだけ教えておいてやろう」


 ニヤリと笑みを浮かべ、千苦は告げた。


「俺は一度負けた。だが、その方法はあまりに唐突だったものだ。……なにせ、俺が耐えられない状態異常だったのだからな。──ほら、お前の後ろを見ろ」


「…………はっ?」


 小さく息を漏らすように、そうその物ノ怪は呟いた。


 率先して千苦と戦おうとした数十の物ノ怪たち──それ以外の者たち全員が、地に伏せたまま動かなくなっていたのだから。


 死んでいるかのようにピクリともせず、彼らはただ昏睡していた。

 どれだけ戦闘力を誇る者も、どれだけ特殊な力を有する者も……『超越者』が仕組んだナニカを乗り越えることはできず、戦闘を行う意志そのものを奪われたのだ。


「──さぁ、終わらせようか。お前たちは、私が全員止めてやる。もっとも強く否定したからこそ、前に出てきたのだろう。ならば、それを終わらせて自由を手に入れよう」


 千苦の姿は、そういった瞬間掻き消えた。

 そして、立っていた物ノ怪たちから悲鳴が上がっていく。


 最後に立っていたのは──黒い鬼と一人の普人だけだった。



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