妖界
「──そろそろ道を抜けるぞ」
「と、とうとうですか……」
魔石を常時消費しながら、文字通り命懸けで進み抜けたこの道も終わりか。
「この先に、会うべきお方が……」
「そうだ。あのお方が何を思い、貴様がどういった決断をするか……私はそれを見てみたい。邪魔になるのならば、貴様を送り返せばすぐに問題も解決する」
広がるマーブル模様は、少しずつ色を正常なものへ変わっていく。
鳥居は色がそうして変化するたびに、寂れ古びた物になる……どういうことだ?
「……やはり、急いだ方が良さそうだ」
少しだけ聞こえた悪鬼の呟き。
嗚呼、なんだか普通に話してお仕舞いってならない気がするよ。
◆ □ ◆ □ ◆
鳥居が繋がっていた先は、神社のような場所であった。
少しずつ破損度が増えていた鳥居は、この場所では柱が折れるほどボロボロなのだが、建物の方は案外綺麗になっている。
たぶん、主とやらが住むだけはしっかりと手入れをしているのだろう。
家事を得意とする物ノ怪が居るという話なので、念入りにその辺りを綺麗にしているのかもしれない。
人族も、そういった人ならざる者の特化したナニカを認めている場合があるからな。
「ここが、物ノ怪の世界……」
「『妖界』、そう呼べばいい。ここは妖界の片隅にある社だ」
「社……」
その単語の前に、『元』とありそうだが。
歪んだ荒れ果てかたをしたこの場所には、それが付いていそうとも言える。
「……むっ、社であることに違和感を感じていそうだな。だがしかし、間違いなくこの場所は社なのだ。貴様が知らぬであろう神を、そのお方が鎮めるためのな」
「神を、ですか……。なるほどなるほど、それは興味深い。さしずめ──『御子』とでもそのお方は、呼ばれているのでしょうか」
「『巫女』か……たしかに、人の世に生まれていたのならばそうだったかもしれない。しかしあのお方は物ノ怪として生まれ、こうして妖界に住まう。あくまで、仮定の話でしかないということだ」
このゲームでは、神という存在が人々と密接に繋がっている。
そんな中、神を鎮めるお仕事をしているというのは……なんとも、偉大な方だな。
神の神威に近づくということが、どれだけ死を覚悟することなのか……それを俺は、この身を以って深く味わったことがある。
だがそれも、あくまで平常の精神で放たれた神威……怒り狂った神の力が、どれほどのものかなど凡人には想像もつかない。
「──まあ、一度会ってみないと何も分かりませんよね。では、よろしくお願いします」
「任された」
結局のところ、顔も知らない相手を空想しているだけじゃ何も始まらないんだ。
今やるべきことは──顔合わせをするところからだろう。