小さな幸せ 中篇
失名神話の女神、フリシア様の神聖術式である“幸上”。
戦闘時でも生産時でもない、日常における幸運補正というちょっと扱いづらい効果。
だが俺の場合、日常のように無防備な状態であっても特にデメリットも無い。
なので発動さえできれば、どこでも使えるのだ……加護持ちなのに普通に使えないが。
「とりあえず、インストールしておいて……“幸上”発動っと」
誰でもお手軽に使える仕様にした神聖術式の運用システムは、『プログレス』経由で出現するUIから対象を選択するだけで発動できるようになる。
条件付きの神聖術式などもあるが、それを満たすためのやり方も記載されている……はずだ。
その辺は各々神様に任せており、神によっては説明がかなり雑になっている。
……いやまあ、そういう神様については発動も簡単になっているけどさ。
「だからってこう、突然何かが起こるわけではないようだけど…………」
《人形たちにインストールしての検証はしておりますが、そちらでも同様の結果です。ですがそれは、何もしていないからでしょう。多くの者が居る場所でこそ、真価は発揮されます》
「……まあ、何もしていないヤツの運が良くなっても、あんまり変わんないよな」
《最低限、行動に出なければ効果は発揮されませんが……力み過ぎると効果が出ませんので。それこそ、気軽に行うことこそが重要となっていますね》
せめて料理でも作っていれば、普段以上に何となく美味しくなっているとか、茶柱が立つなり卵を割ったら黄身が二つ……みたいなことが起きるかもしれない。
なお、生産活動に該当するのでは、と思われそうだが少し違う。
検証によると、手抜き……というか気軽に生産する分にはいちおうの補正は入る。
何もかもすべてをダメにすると、無意味な神聖術式になってしまうからな。
日常における些細な行い、ぐらいなら多少スキルが介在していても許されるようだ。
◆ □ ◆ □ ◆
冒険世界 始まりの街
そんなこんなでやってきた初期エリア。
普段は結界を使い身を守っている俺だが、そういった用途の魔道具使用はアウトなようで……久々に無防備な状態でここに来た。
「…………」
《通知は一時的にOFFに。また、“幸上”発動中に限り常時変更されるよう設定しておきました》
「……助かる」
人混みであればあるほど、俺は周囲に蹂躙されるに等しい。
彼らの何気ない会話が、立ち居振る舞いが容赦なく生命力を枯渇させていく。
その度に死に戻りし、お手軽復活セットである権能や[称号]が俺を再構築する。
…………女神様、世間一般的にこの現状は不幸と捉えられませんかね?
これまでは崇めている神様の神聖術式、というブランド的なものがあったので気にされていなかった、とも言える
……これからの時代は、実益が必要になってくる!
p.s. 無字×953
世間一般のGWが過ぎても、ちまちまナンバリング版を反映中
そのうちカクヨム版に追いつくかと
なお、些細な違いとして作者が気づいた誤字脱字がなろう版には反映されています
あと、ノリで付け足した文章が入っていたりします……玄人向け要素かな?




