神様談 後篇(30)
天上世界や神域に住まう神族と違い、地上にてアズルは自由に現人神の力を振るえる。
その信奉者は留まることを知らず、多くの者が彼女を女神として崇め奉っていた。
「──だからこそ、今回の提案をどこの神話も受け入れざるを得ない」
「……それだけ、脅威なのですか?」
「間違いなくね。僕たちはあの娘と友好的な関係を結べているけど、すべての神話がそういうわけじゃない。少しでも信奉者を、信仰値を得るには新たな試みが必要なのさ」
ツクルが会話に何度も出していることで、アズルは失名神話の神々を知っている。
そして、彼の知らない彼女の物語で、彼女は失名神話の神々と接触していた。
結果、彼女は所属はせずとも協力する方針に出ている。
……周囲には分からないよう、失名神話の神々に関する喧伝などはしないままに。
「僕たちの神聖術式も使ってもらえるのが一番なんだけど……しばらくは改良に専念しないといけないね。何というか、僕たちの神話はもともとちょっとピーキーだから」
「…………ちょっと、でしょうか?」
そう呟く◆◆◆◆だが、■■■はそれを確信していた。
神聖術式はその神の在り様そのもの、むしろ一日ほどで弄れるツクルが異常である。
それでも、ある程度神気を消費すれば手を加えることが可能。
他の神話では実行の難しい形に、神聖術式の調整を行うつもりだった。
「いっそ、ツクル君でも使えるような感じにしてみるのもいいかもね。それなら彼の手札は増えるし、何より確実なユーザーが一人できるわけだしね」
「! ……検討する余地がありますね」
「どこからどう見ても、即断即決みたいな顔しているよ? まあでも、◆◆◆◆の神聖術式か…………」
「何か?」
「差別化、大切だと思うよ」
◆◆◆◆が担うのは──小幸、日常における些細な幸せといった概念。
ゆえに彼女の加護を持つ者は、戦闘でも生産でもない、日常における幸福を得やすい。
失名神話においてもかなり若い彼女は、これまで加護を誰にも与えたことが無い。
──そして現代、命運の女神が存在する世界にて彼女の神聖術式を広める必要がある。
「具体的なことは自分で考えるべきだけど、◆◆◆◆の担う小幸の本質を見失っちゃいけない。的外れな効果だと、そもそも性能が下がっちゃうしね」
「……はい」
「それさえ守っておけば、きっといい神聖術式になると思うよ。頑張ってね」
そう言って、■■■はこの場を去って──
「──あっ、そうでした。その前に一つ、確認したいことが」
「…………ナニカナ?」
「先日、ツクルさんが送ってくださった菓子類。不自然に隙間ができていたようで……何か心当たりはありますか?」
「………………ナ、ナイヨ?」
「そうですか、ありがとうございます」
「そ、それじゃあ僕はこの辺で! いやー、忙しいからね! しばらくは自室で神聖術式の開発に勤しまないと!」
そそくさと、逃げるように消える■■■。
溜め息を吐き──先んじて待ち構えていた神々に捕縛され、悲鳴を上げる■■■の声を聞きながら──構想を練り始めていった。
※命運神
教祖にして開祖、現人神『アズル』の担う概念
自らそう定めたでもなく、大衆の認識する彼女に対する信仰がそう定義付けた(自ら決めていない場合は初期コストが軽かったりする)
その権能と祝福の力、そうでなくとも彼女自身の力()もあり、多くの信奉者が存在
己以外を崇めることも公認で、緩く浅く祈る者も多い
それゆえに、一部の神話からは反感を買っていた……が、とある出来事を境にそういった存在も(表向き)現れなくなった
p.s. 無字×951
すでにGWが終わっていた作者です
……記念SSを出したときには、仕事が始まっていました
無字は結局何も変わりませんでしたが、代わりにナンバリング版の増加に努めました
一話一話が長くなった、あるいは(ステータス表示を減らしたので)減ってしまうなど、いろいろと変化も生じておりますが……皆様に読んでもらえるよう、励んでいきます




