梯子の試験 その10
天上世界 希臘領域 第肆域
ついに届いた、ギリシア神話の天界へ向かうための証。
ただしそれは、問題児扱いが前提となる肆号としての待遇で。
それでも正式な形で届いた以上、俺が足を踏み入れたとてそれそのものが違法ということでは無い──というわけで、さっそく転移門を使って訪れてみることに。
「……これが、肆号の扱い」
転移門の先に広がる光景は、ただ俺の口からこの感想を引き出した。
それほどまでの──惨状、少なくとも審査の際に訪れた空間とは異なる荒れっぷり。
「これ、差別か何かでもありましたか? ある有名な作品では、ギリシア神話の神々が選民に走っていたという話もありましたが」
《そういったことでは無いでしょう。また、旦那様の語る作品のように、人と手を取り合わない道を選んだわけでもございません──ただ少しばかり、人らしくあろうとした、それだけのことかと》
「……人だけの力で、こんな風にできるという証明なのでしょうか」
そう言いたくなるぐらい、そこは荒廃し残骸に溢れていた。
かつては高い技術を誇ったであろう建物、それらが崩れている光景が教えてくれる。
魔物による蹂躙ではない、銃痕や刃物による斬撃の痕が人為的なものだと示していた。
いろいろと思うところはあるが、まずやるべきことは一つ。
「……帰りますか」
転移門をすぐさま起動、座標は冒険世界の始まりの街。
それとほぼ同時、俺は死ぬ──が死した肉体を結界で弾きながら門を潜る。
いつものように視線に晒されたから……というのあるが、[インベントリ]には作り立てほやほやなアイテムが収納された。
『────』
俺が居なくなった直後、この場には何者かが現れ……そして消える。
その光景を見た者は誰も居ない──これはドローンに残された記録だ。
◆ □ ◆ □ ◆
冒険世界 始まりの街
「──で、数十秒居ただけで殺されるような修羅の世界だったわけだが……『騎士王』は何か知っているか?」
「いや、何も。我とて天上世界との繋がりは深くは無い。せいぜいが『天死』からの連絡ぐらい、『生者』の方が関わっているぞ」
冒険世界の一国を統べる王が、天上世界に深入りしてはいけないのだろうか。
俺は俺で一国ならぬ一星の主だが、それは非公式扱いだからな。
「なあ、ギリシア神話に選民思考とかそういうのはあるか?」
「聞いたことは無いな。神々はたしかに人族とは格が違う。だが、同時に人族の存在無くして在り続けることもできない。ゆえにそのような振る舞いを神話全体で行うとは思えないが……」
「通い続ければ分かる、か。理由があるならあるで、問題がある気はするけどな」
神様が見守り、干渉してくるような場所でトラブルが生じる。
それはそれで、解決しなければならないナニカに巻き込まれるわけだからな。
行くための話がこれで終わり……ここからは、行ってからのお話です
様々な調査が始まり──『プログレス』に、変革が訪れる……かも?
p.s. 無字×918
未だ、足元の冷えに苦しんだりする作者です
……まあ、これ夏でもなっている気がしないでもありませんが
血行云々、なんですかね?
手先は動かしても、足先は動かさないことが多い作者でした




