闘仙 その14
精霊が辺りに吹かせた風は、万物に影響を及ぼした。
街には繁栄の緑風が、帝国の兵たちには荒れ狂う颶風が、仲間には目覚めの薫風が吹きかけられる。
「……凄まじいな。これが『生者』の力の一片なのか」
仲間として認識された『闘仙』は、薫風を受けていた。
精霊の風を浴びることで、一時的に敏捷力が向上したことに気づく。
「本来は無粋だが、今は街を守るための戦いの最中だ。悪いとは言わせないぞ」
「ふっ、構わないさ。うちの皇帝様のご命令が無ければ、あのような軟弱者たちはそもそも連れてこんわ。我ら武人はこうして、正々堂々と戦うことこそがすべて」
今、『闘仙』は九龍帝国の精鋭たちとの戦闘を繰り広げている。
百人いた精鋭の内、『闘仙』は約八十をも相手取って戦っていた。
だが、その数も今ではたったの十。
精鋭の中でも選りすぐり──守護騎士と呼ばれる者たちだけが『闘仙』を囲んでいる。
「では帝国の兵よ、共に踊ろうか」
「彼の仙人殿のお誘いであれば、ぜひ」
風が止むのと同時に、彼らは動きだす。
いっせいに『闘仙』に切りかかる騎士たちだが、その場に『闘仙』はいない。
慌てて感知を行うが、一瞬の内に意識が遮断されて地に伏す。
「仙人とは、奇怪な術法を駆使する曲者と聞いていたのだが……情報が違っていたか」
「合っているさ。それこそ、仙人の正当な生き方だ」
自嘲気味にそう語る『闘仙』。
それができなかったが故に、『闘仙』は今の闘い方を会得した。
異端の仙人として生きる中で、『闘仙』という新たな名を手に入れることとなる。
「――“仙功鎧”」
突きつけられる武器を前にそう告げると、武器は体を貫くことなく砕け散る。
また、打ち抜く拳はこれまでよりも硬く鋭くなり、騎士たちの鎧をも破壊した。
「――“地裂脚”」
一度使った地割れを起こす技。
だが、これもまた先ほど以上に大規模な裂け目を生みだしている。
「……諦めろ。この場所にいる限り、勝ち目はないと思え」
仙丹を高め身体を強めることで、『闘仙』は仙人の中で誰よりも強くなった。
故に仙丹を多く練り上げられるこの場所において、仙人を倒すことはほぼ不可能。
ボロボロになった騎士、その長は哂いながら応える。
「…………そのよう、だな。まだ、我らに勝ち目はない。だが! お前たちのその傲りこそ、自身の身を滅ぼす呪いとなることを知るが良い! われらは何度でも戦い、いつかお前たちに勝つのだ!」
「そのような機会、あると思うのか」
「……なんだと?」
「いずれ分かるさ。お前たちが国に所属する身であれば、な」
スッと後ろを向いて、『闘仙』は街へと帰還する。
ボロボロになった兵を引き連れ、帝国の兵たちもまた国へと帰還する。
──そして、『生者』は。