行進
それから、彼らと共に中央を南下した辺りにある湖に向かった。
途中で魔物が現れたりもしたが──さすが精鋭隊、さっさと倒して前進する。
「タビビト、大丈夫か」
「ええ、代表さん。そもそも私は戦闘に参加していませんしね」
戦いには参加せずに、ボーっと見ているだけなのが現状だ。
軍師ポジションでもないので、本当にただやることがないだけ。
文明チートが溢れる俺の武器を、極力控えた結果がこれである。
「ポーションの方、今日の分もしっかりと効いてましたか?」
「タビビトも心配性だな。俺の使っている分は、少なくとも効き目があったぞ」
「そうですか、それはよかったです」
こちらにある素材だけでポーションが作れるかどうか、それを確かめるために作って渡しておいたサンプルは効いたようだ。
ギルド長に言われてから劣化ポーションを作れるようにしたのだが、使う素材が違って効果が凄すぎると……ヤバいからな。
蘇生級のポーションも用意しているが、まだ一度も蘇生を行ったことがないので効き目が分からない。
だがすでに『SEBAS』によって、体の部位を再生させれることは調べてある。
使い道がこちらのものだけならば、俺としてもありがたいんだが。
「そろそろ、湖に着きますね」
すでに視界の奥には湖がぼんやりと映る。
来たときと同様、見た目は変わらずに光を受けて輝いていた。
「……本当に、共に挑むのか。逃げることもお前だけならば──」
「代表さんには言っておきますが、私は死なない呪いに掛かっています」
「死なない、だと」
「生きながらの死、どれだけ体を傷付けられようと死にません。空腹でも衰弱でも死にませんので、まさに呪いです。痛いのは嫌ですので盾役は行いませんが、囮ぐらいならやってみせますよ」
プレイヤーは死に戻りをし、例え死のうとセーブポイントで何度でも蘇る。
俺もまた、そうした仕組みを利用して彼らと共に戦おう。
この身が何度傷つこうとも、この身が何度千切れようとも、この身が何度滅ぼうとも。
「…………俺は、それでもお前を心配する。いくら体は傷つかなくとも、精神はそれで疲弊していくのだろ? なら俺は、新たな友となったお前も心配するさ」
「さすが、代表さんですね。ですがそれでもやりますよ……私も、新たな友のために一肌脱ぎたいんです」
俺みたいな奴が動けば、救える命がある。
それを分かっていて躊躇うほど、俺は腐っているわけではない。
異世界に行って死に戻りループで未来を変えろと言われているのではなく、一度しかない彼らの人生を守ろうと思っているだけだ。
──やってみるさ、何度でもな。
「そろそろ着くみたいですよ。早く代表さんがみんなへ、声を掛けてやってあげないと」
「……無茶だけは、するなよ」
「ええ、痛いのは嫌いですので」
代表さんが大声を上げる頃には、目の前に湖が広がっていた。