体当たり
いつものように、持ち込んだ魔物の肉を焼いてもらっていた時のことだ。
どこからか子供が現れ、俺に向かって勢いよく走ってきていた。
進路方向は──俺にピッタリ。
「ん? お、おい、止まれ! ぶつかっちまうぞ!」
「…………」
男の子だろうか。
そのまま正面からぶつかり、俺も少年も尻餅を着く……なんてこともなく、一瞬だけ死に戻りして、回避する。
「う、うわっ」
少年からしてみれば、ぶつかろうとしていた壁が急に無くなったのだ。
そのまま近くに置かれた椅子に衝突し、椅子を破壊して気絶する。
「おっちゃん。これって、何がしたかったんだと思う?」
「ああ、ぶつかったときに串を奪うか、落とさせた物を回収する気だったんだろう。お前さんは気の弱そうな奴に見えるからな。貴族みたいな見た目でもしていないと、思いっ切り舐めてかかられんぞ」
店主は俺が『騎士王』のような偉い奴と話しているのを知っているので、そういう風に思っていないのだろう。
まあ、実際俺はカッスカスのステータスだからな……舐められて当然と言えば当然だ。
「……余計なお世話だよ。あっ、でも俺のせいでこの椅子が壊れたことになるよな」
「気にすんな。それは全部、そこで伸びてる奴にやらせるからよ」
「んー。そうだおっちゃん、椅子は俺が用意してやるからさ、コイツのことは許してやってくれないか? 肉はどうせ俺が用意したヤツだし、タレも俺のアイデアだし……椅子以外おっちゃんが損したことって、正直何も無いだろう?」
店主は良い奴なので、こうした軽い感じで言ってやった方が気も楽になるだろう。
……最近、串本体の方も俺が用意しようかと画策している。
エルフの里の木を使った串、ご加護が強くありそうじゃないか?
裏でそんなことを考えているとも知らず、店主はしっかりとそれを考えてくれており、俺に問うてくる。
「そりゃそうだけんども……というか、お前さんはそれで良いのか?」
「構わないさ。俺は何も傷ついてない、少年は少し大げさに転んだだけ。これで済むなら何も問題ないだろう」
「…………分かった。前に言っていた新しいソース、それで手を打とうか」
「おいおい、それはまだギルドと揉めてるから難しいって言っただろ」
店主が要求したソースとは、使い方によっては毒にもなる危険な物なので細かい検査などが行われている。
生産ギルドの料理関係の部署がいろいろとやっているらしいので、それを待っているのが現状であった。
「どうせお前さんの用意したもんだ。今さら疑おうとしたって意味ないだろ。だってこの店の物はほとんど、お前さんの持ってくる物に依存してるんだからよ」
「……へいへい、申請が通ったらな」
少年が目覚めるまで、俺たちはこうした話で時間を潰した。
ソースは結局、申請を受託されたぞ。