エルフとの交渉
だが、一つだけ欲しかった物が貰えた。
……これは、参加者全員が貰えたものなんだけどな。
「お久しぶりです、皆さん」
「……ずいぶんと、早いご帰還だね」
「私からしてみれば、長かった方ですよ」
「そうか。まあ、何はともあれ──お帰り」
「はい、ただいまです」
再び足を踏み入れたのは、エルフたちが住まう隠れ里。
そう、この世界への渡航権が、報酬の一つとして含まれていたのだ。
以降イベントに参加したプレイヤーは、初期地点にある結晶に触れ、世界移動を選択することで転位できるようになったのである。
……関係ないが、ここで言っておこう。
過去行われたイベントでは、こうした渡航権が付くことは無かったらしい。
今回が初めての貢献イベントだったからなのか、それとも何か別の理由があるのかは分からないが……俺が過去のイベントエリアに向かうことはできないようだ。
◆ □ ◆ □ ◆
そして場所は里長の部屋。
俺と里長は二人っきりで話し合っている。
「ツクル君、君はそれを本気で言っているのかい?」
「ええ、まあ。これでも一応覚悟を以って貴方に言っているんですけど」
「──世界間貿易。それを私に言う理由がよく分からないね」
そう、せっかく自由に行き来できるようになったのだし、こちらの世界の奴らと有益な貿易を行おうという考えに至った。
これには『SEBAS』も賛成してくれたので、安心してこの話を持ってきたぞ。
「当然、これからいろいろな場所を巡りますよ。それぞれの種族の皆さんが話に乗ってくれるのが、私にとってのベストですけど」
「君の提示した物は魅力的だし、精霊神様からの神託もあるから……エルフ族は前向きに検討するよ。他にも隠してあることは沢山ありそうだけど、そこはゆっくりと聞いていくことにするよ」
「あははは、それはご勘弁願いたいです」
隠している情報すべてを、開示させられる気がするんだよなー。
精霊神には、一度だけ謁見させられた。
加護をくれるだのと言っていたが……結局貰うことはできず、代わりに妖精族すべてと友好的に接触できるアイテムなどを頂いた。
ああ、ちなみに精霊神とは、エルフ担当の神様らしいな。
「しかし、まさか『真・世界樹』を交渉の材料に使ってくるとはね。一部の者が知ったら君の領地をなんとしても滅ぼしかねないね」
「それを抑えてもらうこともお願いします。私はあまり口が上手く回らない不器用者なので、できるなら、他のエルフの皆様に上手く説明してほしいのですよ」
「──貸し一つ、だね」
「…………はい」
俺はいったい、何を頼まれるんだか。
背筋をゾクゾクとさせながら、逃げ去るようにこの場から退出した。