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04:別に散歩してたワケじゃないんだけど

 ピロリン。


 そんな小気味の良いレトロチックな効果音はどこからともなく聞こえてきた。

 森を抜けるために歩き出してしばらくした頃だ。


 < 【スキル:散歩】を獲得しました >


 小さめのデジタルウィンドウが俺の視界の隅に現れる。

 今更それくらいでは驚かないが、代わりに大きめの溜息が出た。


「別に散歩してたワケじゃないんだけど……」


 そんなに気楽な状況ではない。

 なぜなら俺は困っているからだ。


「やっぱりか……」


 目の前には地面に突き立てられた木の枝が見えて、俺は足を止めた。

 これは俺が出発時、もしも迷った時の目印になればと思って立てたものだ。

 同じ道をグルグル回っていては前に進めないが、気づくことが出来れば方向を変えるなど対処できる。


 が、これを見るのはもう何度目かも忘れたくらいだ。

 右に曲がっても左に曲がっても、すぐにこの場所に戻されてしまう。

 どう進んでもここに戻されるのだ。


「やっぱり元の場所に戻されてるって事だよな、これ」


 人間の方向感覚なんて当てにならないものだ。

 真っ直ぐ歩いてるつもりでも曲がってしまってたりするものらしいし、それがまともな道もなく見晴らしすら悪い木々の中なら尚更だろう。

 だが、今の俺の状況はそれ以上に不自然だった。

 矢印の木に傷跡を残し、戻ってきている方向を確認してみたが、途中で道が反転でもしたみたいに、俺は自分が歩き始めた方向からここへ戻ってきているらしかった。


「はぁ……どうなってんだよ?」 


 迷うならまだ良い。

 いつかは外に出られるだろう。

 川を辿るとか、外や空に目印を見つければもっと明確な目的をもって移動できる。


 迷う事すらできていない。

 歩いて戻っての繰り返しで森から出る以前の問題だ。


 魔王を探すにしても、王国とやらを目指すにしても、これでは何一つ始まらない。


 歩けども歩けども気が付けばこの場所に戻って来て、それを繰り返すうちに【散歩】なるスキルを取得したらしいと言うわけだ。


 俺は一度座り込み、ステータスを確認してみた。


 名前:イセヤ ナルコ

 レベル:1

 生命力:11 持久力:4 集中力:1

 筋力 :2 技力 :3 理解力:1

 信仰 :0 呪怨 :0 血統 :0

 幸運 :#$%&


「んー、別にレベルアップしたワケじゃないんだな」


 ステータスを確認するが、特に変わりはない。

 相変わらずゴミ以下のステータスのようだ。


 ゲームなんかではレベルアップした時に新しい技を覚えたりするもんだが、さっきのはそういうものではないらしい。

 だとしたら他の条件だろうか。


 歩き回ったから、とか?


「スキル……散歩、だっけ。どうやって確認したら良いんだ?」


 どうしたものかと考えていると、自然とウィンドウが変化した。

 俺のステータスの下部に新たな項目が増えていく。


 固有スキル:地脈の奔流


 一番最初に出てきたこれは、恐らくアルちゃんがくれたらしい最強無敵チート(笑)の事だろう。

 なんか名前だけ無駄にカッコいいが、その能力は綺麗な地下水を湧き出させるだけみたいだ。

 飲み水に困らないから便利と言えば便利なんだけどね。


 そんなチート(笑)の下にさらに新しい情報が続いている。


 取得スキル一覧

 一般:散歩


「おー、あったあった」


 これがさっき取得したってやつだな。

 スキルって事は何かしらの効果があるんだろうけど、何だろう。


 取得してから体に変化のようなものは感じない。

 スキルだし、使用しないとダメなのか?


「試してみるか……スキル発動、散歩!」


 俺の掛け声に答えるように、ウィンドウが再び変化した。

 

 スキル名:散歩

 分類:一般・常時発動型

 効果:歩行時に疲労を感じ難くなる。


 散歩の項目の横に広がるように、新しく説明文が表示されている。


「あ、そうなのね……」


 どうやらこのスキルは常に発動しているタイプらしい。

 うん。できればもう少し早めに教えて欲しかったです。

 ちなみに今の掛け声は関係ない。

 恐らく、俺が知りたいと思ったからウィンドウが変化しただけだ。


「……疲労か。そういえば結構歩いたけど、そういうのはあんまり感じないな」


 名前:イセヤ ナルコ

 状態:正常

 HP:110/110 SP:40/40 MP:10/10


「あ、なるほどね……」


 ステータスウィンドウに頭が慣れてきたおかげか、思ったことがすぐに反映されるようになってきた。


 HPとは俺の体力の事だろう。

 いわゆるライフだな。


 SPはスタミナの事のようだ。

 歩いた割りに今のところ減ってはいない。

 特に疲れも感じていないし、当然と言えば当然なのか。


 MPは魔力か何かだろうか。

 試したいけど魔法らしきものを覚えていないから良く分からない。


「なるほどね。とにかくもう少し歩いてみるか」


 座っていても仕方がないので再び歩き出してみる。

 何か他に役立つスキルが取得できる可能性もあるし、ジッとしているよりは良い気がする。


「散歩の効果もあると良いけど」


 あまり期待はせずに歩きながら、ステータスを確認したり弄ったりしていると少しだがわかってきた。


 まずステータスウィンドウに関して。

 これは確認したい情報だけを小さなウィンドウで表示できるらしい事がわかった。

 一々全部のステータスを表示してると邪魔だから結構たすかる。


 ステータスは状態とHP、SP、MPだけが見えるように最適化し、視界の隅に浮かべておく事にした。

 自分の状態が一目で確認できるのでかなり便利だと思う。


「なんかすっごくリアルなゲームみたいなだな……」


 次にスタミナ。

 ステータスを細かく確認していて分かったが、これは歩いてるだけでも減る。

 減るといっても少しだ。

 かなり歩かないと減らない。

 だけど確かに減る。


 走るとすごい勢いで減る。

 SPが半分を下回ったくらいから疲労を感じるようだった。


 ただ、休むと回復する。

 息を整えるだけでも回復するし、座るとさらに速く回復する。

 まだ試してはいないが、横になったりすればもっと速く回復すると思う。


 つまり元の世界のスタミナの概念が数値化されただけのもののようだ。


「色々わかったけど、結局すすめねー……」

 

 気が付けば空が暗くなってきていた。


「もうすぐ夜か……」


 時間の概念のあるゲームなんかでは、大抵は昼より夜の方が危険だ。

 モンスターが活発になったり凶暴になったりする。


 ここは魔王がいる世界なのだ。

 バケモノの一匹くらい当たり前のようにいるに違いない。


「ま、今の所はネズミ一匹すら見かけてないけど。でも警戒はしとかないとな」


 定位置に戻ってきた俺は、近くの木に背をあずけて座り込んだ。

 木の枝に引っ掛かり、制服が傷だらけになっていた。


 俺は死んだときのままの格好だ。

 学校の帰り道、制服のまま。

 詰襟タイプの上下で黒い制服。

 いわゆる学ランにスニーカー。


 ただし携帯電話や腕時計、カバンなどの荷物は消え去っている。


「腕時計くらいあっても良いのにな」


 時計がないため時間の感覚が分からない。


 そもそも、この世界も一日は二十四時間なのだろうか?

 一年は何日だろう?

 一週間は?

 季節の概念はあるのだろうか?

 天候はどうだ?


「情報、足りないよなぁ」


 様々な疑問を頭に浮かべるが、ステータスウィンドウは俺自身の事しか教えてくれない。

 この世界の疑問には答えてくれなかった。

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