03:最強無敵のチートだからな
「お主、転移ジャックに合ったぞ」
アルちゃん曰く、俺はあの世に転移されるタイミングで別の世界の転移魔法に巻き込まれたらしい。
それが意図されたものか、はたまた偶然かまでは分からないが、とにかく俺は予定の世界とは全く違う異世界に来てしまったというワケだ。
「ふ……我としたことが、虚を衝かれたな」
「いや普通に酔っぱらってたせいだろ!?」
「何を言う、我は神ぞ! 神は酔ったりせん!」
「するよ! 神話の時代から結構よくある話だよ!」
アルちゃんは「隙を突かれた」だの「かなりの手練れの仕業よ」だのと言っているが、絶対に酔って適当な転移をしたせいだと思う。
あの泥酔っぷりを見ていては信用もクソもない。
神様だと思って敬語使ってた自分が馬鹿らしくなっていつのまにかタメ口きいてしまっていた。
うん、もう良いよね。
「とにかく、元の世界に再転移とかはできないのか?」
「無理だ。この世界は遠すぎる」
無理なのかよ。
神様のくせに。
「そこをなんとか! ほら、神の力でさ。なんとかならないのかよ?」
「神とて万能ではないからな。特に我は小細工は苦手だ。戦闘とかは得意なんだけどよー」
神様は脳筋だった。
そういえば神様空間でゲームしてるのを見てた時も前衛職オンリーで攻撃一辺倒のスタイルだったな……。
「だがお主が生き返ることはできるぞ」
「え? 元の世界に?」
「そうだ」
「なんだよ……」
それを早く行ってほしい。
つまり、普通に元の世界に帰れるじゃないか。
「ただし、この世界で転生のためのクエストをクリア出来れば、な」
「……んん?」
安心したのも束の間、またこの神様は妙な事を言い出しやがった。
いや、それは無理だろ。
「ちょっと待った。でも野良猫又ってのはあの世にいるんだろ? この世界でどうやって……」
俺の質問を予想していたのか、アルちゃんは手に持っていた小型の携帯ディスプレイを俺に向けてきた。
『 差出人:スーパーゴッド様
タイトル:【緊急クエスト】転生の試練:任務内容変更のお知らせ
本文:
< 依頼内容の変更 >
異世界ウィゼットにて魔王フランツェペッタを討伐せよ。
< 難易度の変更 >
難易度:D→A+ 』
ん?
んん?
「まぁ聞け。勇者よ」
「いや、待って?」
「この世界は滅亡の危機にあるらしくてな。その滅亡の原因こそが魔族を率いる魔王軍ってワケで、まぁお決まりのパターンだな。そんで、お主はその魔王を倒すための勇者候補としてこの世界に召喚された内の一人って感じになってるんだ」
「だから待てってば! ってか誰が勇者だよ!?」
この神様ぜんぜん人の話きかない!
「お主に決まっているだろ。お主のクエストは魔王討伐に変更されたのだ。燃えるではないか!」
興奮気味にグッと拳を握るアルちゃん。
こいつただのゲーム脳だろ。
「いやいやいや、急に難易度跳ねあがってるんだけど!?」
「なーに、心配するな」
アルちゃんはチッチッチと指を振りながら慎ましやかな胸を張るが、心配しないなんて無理な話だ。
俺はただの高校生だ。
いきなり魔王なんて倒せるワケがない。
「こんなこともあろうかと、転移ジャックされる直前にいくつかの加護をお主に与えておいたのだ。感謝していいぞ」
「加護?」
「そう、我の加護よ。お主がどこに飛ばされるか分からなかったからな。かなり強めにかけておいたのだ」
そういえばそんな話もあったな。
担当の神の裁量次第でクエストを有利に進めるための加護が貰えるとかだっけ。
すっかり忘れてたぜ。
「その加護って凄いのか?」
「そりゃあもう、天下無双の戦神が与える加護だぞ? 強いなんてもんじゃないぜ。無双だよ、無双! 自分のステータスを見てみろって」
「……ステータス?」
「なんだ、知らないのか? 良くある奴だよ。RPGとか嫌いか?」
「いや、分かるけど」
「では開いてみろ。ステータスオープン。これくらい常識だぞ?」
常識じゃない。
それはゲームの中だけの話だから、普通は。
このゲーム脳め。
「ステータスオープン……」
半信半疑のまま言われるままに呟くと、目の前にホログラフィックのようなデジタルウィンドウが現れた。
Name;Naruko Iseya
Level:1
Vitality:11
Endurance:4
Concentration:1
Strength:2
Dexterity:3
Wisdom:1
Faith:0
Grudge:0
Pedigree:0
lucky:#$%&
「えーと、良くわかんない」
「む、確かに。海外版モードになってるな。もっとこう、わかりやすくなれって念じてみろ」
そんな簡単に言われても……。
と思ったが、念じただけで本当に表示が変化した。
英語が俺の馴染み深い日本語に変わり、格段に見やすくなった。
というか何だよ海外版モードって。
ここ異世界だろ。
「マジかよ。これ、気持ちの問題なの?」
「うーん、いや、どちらかというと慣れだろうな。お前にはこの世界の共通言語に対応するための加護もかかってる。少し混乱が残ってたんだろう」
そうだったのか。
まだこの世界の人間とは出会っていないから分からなかったが、出会えば普通に話せる状態にしてくれているらしい。
さすが神様。
意外と気が利くじゃないか。
では気を取り直してステータスを確認してみる。
名前:イセヤ ナルコ
レベル:1
生命力:11 持久力:4 集中力:1
筋力 :2 技力 :3 理解力:1
信仰 :0 呪怨 :0 血統 :0
幸運 :#$%&
「いや待って、何かおかしいよね? さっきから薄々感じてたけど全然つよくないよね!?」
「ふむ。アレだな。とっさにかけたせいか上手くいかなかったっぽい」
テヘッ☆
と小首を傾げて見せてもダメだ。
可愛いけどダメだからな!
「これどうなの? 絶対よわいやつだよね? というか幸運バグってるけど?」
「本当だな。全体敵的にゴミ以下の能力値だが、幸運は……うん、こりゃ凄い」
「……もしかして測定できないくらいスバ抜けて高いとか?」
なるほど。
幸運チートってのもアリだな。
どんなに強い敵の攻撃もラッキーで当たらないとか、クリティカルヒット連発で無双したりとか。
旅の道中にはヒロインとのラッキースケベも……夢が広がるじゃないか!
「いや、マイナスに振り切れちゃってるな」
「マイナスかよ!? 俺どんだけ不幸の星の下に生まれちゃったの!?」
「別にステータスなんぞ見なくともお主の不幸っぷりは分かってたけど?」
「ですよね!!」
そうでなければこんな異世界にいませんよね!
さよなら俺の夢!
あぁ、ダメだ。
色々おかしなことになりすぎてて頭が痛い。
というかツッコミが追い付かない。
「まぁステータスの事は仕方ない。もう加護をかけ直したりはできないから、この世界で頑張ってレベルアップしてくれ」
「うん、努力はしてみるけどさ……」
俺だってせっかくの蘇生のチャンスを棒に振りたくはない。
クリアできるならクエストはクリアしたいと思ってる。
そのために出来る限りはするつもりだが、このステータスは大丈夫なのだろうか。
比較対象がないから良く分からないが、アルちゃんはさり気なくディスってきたし、そもそもレベルが1だったりするのを考えると相当弱い気がする。
「とにかくお主はこの森を抜け、テオドール王国という場所を目指すと良い。なにやら今回の転移ジャックに関わっている場所のようだからな」
「テオドール王国……場所は?」
当然だが知らない国名だ。
この世界の国なのだろう。
名前の響きはなんだか海外っぽい。
「それは知らん」
「なんで!? 名前よりそこが重要だよ!?」
「さっきも言ったが、急な出来事だったからな。情報を集める暇もなかったのだ。なによりこの世界は遠すぎる。我もそろそろ消えそうだ」
「え? 消えるの!?」
「消えるよ。多分、二度と来れないから後は自力で頑張れよ!」
「待ったまったマッタ! 外に情報は!? 魔王の情報とかないのかよ!?」
「ないよ。てか知ってることは全部話したし」
血の気が引いた。
情報量が少なすぎる。
野良猫ならまだしも、相手は世界を滅亡させるような魔王だというのに。
「マジかよ……ゴミ以下のステータスでどうしろと……」
絶望に崩れ落ちそうな俺の肩をアルちゃんが優しく叩いた。
「顔を上げろ。諦めるにはまだ早いぞ?」
「何か秘策があるのか?」
その言葉を待っていたとばかりにアルちゃんがニヤリと笑う。
その表情には自信がみなぎっているようだった。
「ふふ……言い忘れていたが、加護とは何も身体能力の強化だけではない。お主にはとっておきの最強無敵チートを授けているのだ」
「お、おぉ!」
それだよ、それ!
それを早く言ってくれよ!
そういうヤツだよ、俺が求めていたのは!
「最強無敵チート……いったいどんな力なんだ!?」
「それはもう恐ろしいほどの強さよ。なんてったって最強無敵のチートだからな!」
絶望の中に一筋、光が射した気がした。
まだ諦めるには早かった。
魔王を討つための切り札が残っていたのだ。
「百聞は一見に如かず……手をかざし、願って見よ。全てを蹂躙する破壊の力を」
俺は言われるままに手を森に向けた。
良く分からないが、とにかく手のひらから何かが飛び出すようなイメージで破壊を願う。
お、おぉ……感じる。
エネルギーだ。
何かが手を伝い、目の前の空間に抜けていく。
そして、俺が授かり師チートが発動した。
かざした手のひらの先でボコボコと地面がせりあがり、そして爆ぜる!
なんということでしょう!
そこからは元気よく澄んだ水が沸き上がってきたではないか!
「……うん?」
「……うん!」
「いや、うん! じゃないだろ!? なにこれ!? 最強無敵の破壊の力は!?」
「うん、アレだな。がんばれ!」
アルちゃんは赤面した顔をそむけたまま、笑いを堪えて震えるサムズアップを最後に残し、その姿を消した。