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11:エッチな事とかしたいのですか?

 悲しい。

 泣き疲れた様子の処女を倒木に座らせ、さり気なく隣に座ろうとしたらそっと距離を置かれた。


「まぁ、安心して休んでいきなよ。今、マロとハチ……コボルト達に周囲を見回りさせてるから、モンスターに襲われる心配もないからさ」

「あ、ありがとうございます……」

「良いって良いって。それに、その、君ともっと一緒に居たかったし……」


 めちゃくちゃ恥ずかしかったけど言った。

 もうなんか告白してしまったから、気持ちは隠さず前面に押し出していくスタイルだ。

 恋愛経験皆無すぎてどうしたら良いかわからないし、めちゃくちゃ混乱してるけど、なるようになれだ。


「……へんな人です。今、初めて出会ったばっかりなのに私の事を、その、好き……だなんて。そういう冗談は良くないと思います」


 少女が俺にジトーと疑い深い目線を横から向けて来ている。

 そんな表情も全然可愛いから全然おっけーだ。


「俺はナルコって言うんだ。イセヤ、ナルコ」


 めげずに自己紹介をする。

 いきなり好きだと告白してしまった結果、少女は赤面して固まってしまった。

 俺は本気で言った、というか本気すぎて思わず口をついてしまったのだけれど、冗談の類だと思われているらしい。


「ナルコさん、ですか……私はエミハのユーフレイと言います」


 少女も名乗ってくれた。

 名乗り方から察するに、エミハが家名なのだろう。


 エミハ・ユーフレイ。

 いや、見るからに外人っぽいし、もしかしたらユーフレイ・エミハの方が正しいのかも。


 どちらにせよ、すごく綺麗な響きだと思った。

 同時に初めての感覚を覚えた。

 ただ名前を聞けただけなのに、それだけで彼女の事を知れたという喜びが湧いてくるのだ。

 名乗り合うだけの、たったそれだけの事で心臓がバクバクと暴れだすなんて。


 これが……恋ってやつか!


「……あの、一応、名乗られたので礼儀として名乗りを返しただけですから、気を許しているわけではありませんから、勘違いはしないで下さいね」


 俺が愛の幸せを噛みしめていると、ユーフレイちゃんから引き気味に釘を刺された。

 笑みを隠しきれなかったせいだろう。

 名前を教えただけでニヤニヤされたら、確かにそれは怖いかも知れない。


 うん、気を付けよう。

 だって嫌われたくないし。


 せっかくなのでそのまま会話を続ける。


 俺はなんでここに居たのかを簡単に話してみた。

 まだ異世界転移の話は隠しておく。

 今のところ、俺はただでさえ変な人と思われているらしいので、余計に怪しまれるような事は極力言わないようにしておこうと思ったのだ。


「森で迷った?」

「うん。すごく遠い場所から来たみたいなんだけど、気がついたらこの森にいて、出られなくなっちゃったんだよね」


 その結果、変な話し方になってしまった。

 あぁ、俺のバカ。

 なんでもっと上手く嘘を付けないのか。


< スキル:正直者を取得しました >


 うるさいよ!

 なんでいつも変なタイミングでピロルんだよ!?


「来たみたい、って……もしかして、記憶がないのですか?」

「……そう。記憶がないんだよ!」


 ちょうど良いと思ったので、その流れに乗っかる事にした。

 俺が今この世界について知っている事は限られている。


 この世界がウィゼットという名である事。

 テオドールという王国があるらしい事。

 そして魔王フランツェペッタが率いる魔王の軍勢が世界を滅ぼそうとしているという事。


 たったそれだけだ。

 普通に会話をしていれば、すぐにボロがでる。

 記憶喪失という設定にしておけば誤魔化しが効くと思ったんだ。


「でしたら、森を抜けた所に私の来た村がありますから、そこに寄って行かれると良いかも知れません」


 ユーフレイちゃんが少しだけ俺の傍によって、地面に木の枝で線を引く。

 森の地図のようだ。


「ここは私たちの村ではオグィスの森と呼ばれています。今いる場所がその西ですから、このまま西に進めば村に出られるハズです。アクナミンという村です」

「本当か? 良かった。早く森から出たかったんだ」


 森から出られるらしい事も嬉しかったが、ユーフレイちゃんの石鹸のような香りの方に俺は気を取られていた。

 西、西ね。

 あ~、なんで少し近づいただけなのにこんなに良い匂いがするんだろう。


 シャンプーか何かの香りだろうか。

 それにしてもサラサラした綺麗な髪だ。


 髪の間から見える耳も小っちゃくて可愛いし……尖ってるけど。

 うん、尖ってるんだよな。

 作りものじゃないだろうし、変わった形をしてる。

 それもなんだか妙にマッチしてるんだよね。


「もしかしたら結界の日に巻き込まれていたのかも知れませんね。今は祭壇で儀式の準備が……ひゃうっ!?」

「……っ!」


 気づいたらその耳に触れてしまっていた。

 ほんの好奇心だったのだが、予想外の反応に俺も驚いてしまった。


「な、な……エルフの耳に触れるなど!! その意味を分かって……!?」

「ご、ごめん! その、珍しい形をしていたから、つい……」


 真っ赤なユーフレイちゃんの顔に土下座する勢いで謝るが、ユーフレイちゃんは目を丸くしていた。


「……珍しい? やっぱり、変な人です。今時、亜種人(アスト)を知らないなんて」

「アスト……?」

「私たちのような、真人(マト)とは違う人種の事です」

「…………マト?」


 全然理解できない俺の様子に、ユーフレイちゃんの怒りも失せたらしい。

 それ以上に呆れたようだ。


「記憶喪失とは、厄介なものですね」


 ユーフレイちゃんはそういって、呆れ顔ながら丁寧に教えてくれた。


 真人(マト)というのは俺のような、いわゆる一般的な人間の事らしい。

 この世界、ウィゼットの人口の過半数が真人(マト)らしい。

 それに対し、真人(マト)とは違う文化や特徴を持つ人種が亜種人(アスト)と呼ばれている。


 ユーフレイちゃんはエルフという種族らしい。

 尖った耳と、白い肌。

 そして美しい金の髪が特徴で、人間の都市よりも森などの自然を好んで生活する文化があるようだ。


真人(マト)はこの世界を生み出した天地創造の神の子孫の末裔であり、だからこそ最もこの地に繁栄していると信じています。そして自分たちこそが真の人類だとも」


 要するに真人(マト)が多数派であり、国によっては大きな力を持っている。

 対する亜種人(アスト)へは、いわゆる差別のような物があるみたいだ。


真人(マト)亜種人(アスト)が仲良くしたりしちゃダメなの?」

「いえ、そういうわけではありません。亜種人(アスト)にとっては真人(マト)も同じ人類ですし、仲間だと考えていますから。でも、真人(マト)は私たちとは仲良くしたがらないかも知れませんね」

「そっか、じゃあユーフレイちゃんは別に真人(マト)の事が嫌いってワケじゃないんだね」

「はい。私たちは気にしていませんよ」

「良かった。じゃあ俺がユーフレイちゃんと結婚しても問題ないんだね!」

「ふぇ!? け、結婚って!」


 またやってしまった。

 なんでこうポンポン思ったことが口をつくのか。


「あ、いや、違うんだ! 今すぐ何かするとかじゃなくて、もっとゆっくり時間をかけてそうなれば良いなって思ってね? だから、そう、出来ればまずは結婚を前提にお付き合いを……」

「お付き合いしようとしてるじゃないですか!?」


 冷静な話し方をする子だと思っていたが、意外とツッコミ気質なのかも知れない。

 意外と話が噛み合うというか、喋っていてすごく楽しかった。

 あぁ、また一つ好きになってしまったぜ……!


 不意にユーフレイちゃんの表情に寂しさが浮かんだ気がした。


「お付き合いしたいって、その、ナルコさんは、その……」


 ユーフレイちゃんは何かを言おうと、モジモジしている。

 うーん、なにやら色っぽい。


「その、私にエッチな事とかしたいのですか?」

「し、したいです!」


 童貞、嘘つかない。

 予想外に直球な質問に、素直すぎる直球な返事を返してしまった。

 きっと正直者スキルのせいに違いない。


 多分、そんな事を聞いている自分にも羞恥心を感じているのだろう。

 モジモジと内また気味になる様子がたまらなく愛おしい。


「そう、ですか。……でも、それは無理なんです」


 俯いたその表情が悲しすぎて、俺は言葉を失った。


「だって私の体はもう、神様のものですから」

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