#8
吉田名言集
「バームクーヘンを一層づつ食べる機械になりてぇ」
「おかえりー」
店から出てきた俺は、無言で吉田に乗り込む。
車ごと店内に乗り込むわけにはいかないし、今の吉田に人間の料理を食べれるとも思えないので俺一人で行ったのだが……
「なんで日本円が通用してんだよッッッ!!!?」
「うわ、いきなり大声出すなやビビるやろ。っていうか、え? お金払えたの!?」
「なんかね、店員さんね、うわー円(yen)とか久しぶりに見たーっとか言って普通に会計してくれたよ」
「異世界感ゼロじゃん」
ほんそれ。
そもそもが街の景観からしてもう異世界感ないもん。
建物はコンクリートと木造瓦屋根の半々、行き交う数は少ないが車や原付だってチラホラ目に付く。
ジョギングしてるおっさん、古びた看板の屋台、携帯らしきもので大声で話するヤンキー、駄菓子屋でアイス買い食いしてるガキンチョども……
THE 完全に日本の田舎風景です。
魔法なけりゃ異世界なんて言っても誰も信じねーだろコレ。
「車とか走っとんのは俺みたいに魔法なんじゃろ思うけど、でもコンクリートの建物はすげーよな。せめて道路みたいに石造りの家なら雰囲気あったんじゃけど」
「店で訊いけどコンクリート魔法とかあるらしい」
「コンクリート魔法」
わかるぞ吉田。俺もさっき聞いた時は思わずオウム返ししたし。
「とにかくだ。俺の完璧な計画が頓挫してしまった事実は変わりない」
「あの穴だらけの計画をよぅ完璧とか言えるね? たまに思うんじゃけど、宮崎君もしかしなくても俺より馬鹿じゃね?」
「うるせえ。とにかく、だ。俺たちみたいな根無し草が仕事を探すには、ギルドって所に行くのが一番らしい」
「……ギルドねぇ。やっと異世界っぽい単語が聞けたとこで悪いんじゃけど、俺や宮崎君に労働が勤まるとは、どうにも思えんのじゃが?」
「うっ…」
確かに。吉田の奴はすぐ仕事辞める堪え性が無いゆとり野郎だ。
俺だって数々のバイトを渡り歩いた結果、大学周辺の飲食店やコンビニでは『バックレ宮崎』として有名だ。
基本、俺も吉田も仕事とかクソだと思っている。
異世界に来てまで仕事? はッ、考えただけで反吐がでてきたね!
「やべえ、やべえよ吉田、オラ働きたくねぇよ……!」
「つってもさー、この異世界じゃあ俺らの世界の持ち物なんて売ってもあんま価値なさそうじゃが。どうするつもりなん?」
「うーーん……」
ひとしきり腕を組んで悩む。
ポク ポク ポク チーン!
「そうだ! この剣売ろうぜ!」
「宮崎君ソレ天才!!」
そうと決まれば武器屋を探しにレッツゴー!
こんだけ装飾ゴテゴテで、いかにも高そうな剣だ。しばらく遊ぶ金にはなりそう! ていうかなって下さい!
「ちなみにあの店でなに食ったの?」
「コーヒーと和風おろしハンバーグ」
「異世界感ゼロじゃん」